スマートデバイスとクラウドの普及は、中堅中小企業にとって“攻めのIT”に転じる大きなチャンス。しかし、導入や運用のフェーズで何らかの課題に直面し、十分な効果を得られていない企業もあるようだ。成功と失敗の分かれ目はいったいどこにあるのか?
中堅中小企業にとって、今はスマートデバイス導入の好機といえるだろう。安価なスマートフォンやタブレットを入手できるようになり、業務に役立つアプリケーションも多大な手間やコストをかけずに導入できるクラウド型サービスが増えているからだ。
1人の社員が複数の端末を使い分け、社内外を問わずに必要なシステムにアクセスできる――。これからのビジネスシーンは、そんなふうに変わっていくはずだ。それを支えるシステムも、企業が高額な初期投資を行って「所有」するのではなく、必要になったとき、必要な期間と量だけ「利用」する形態が、一般的になりつつある。
こうした時代の変化に機敏に対応しようとする企業は増えているが、スマートデバイスとクラウドの組み合わせによる生産性向上や業務の効率化に成功している企業もあれば、導入や運用のフェーズで何らかの課題に直面し、十分な効果を得られていないと感じている企業もあるようだ。
導入の成功と失敗の分かれ目はいったいどこにあるのか。そして、導入したサービスから十分なメリットを得るためには、どのような考え方で活用を進めるべきなのか――。
本企画では、日々、業務現場の担当者と接しているクラウドベンダーのスタッフに、“スマートデバイス×クラウド活用”のトレンドと、導入の成否を分けるポイントについて聞いた。
本企画に登場するのは、リモートアクセスツール「RemoteView」を提供するsantec営業チームの藤井泰造氏と山下高宏氏、iOS端末に強いクラウド型MDM「MobiConnect for Business」で知られるインヴェンティット営業部の山田智裕氏と技術部部長の半田寛之氏、クラウド型フィルタリングサービス「i-FILTERブラウザー&クラウド」を手がけるデジタルアーツ エンタープライズマーケティング部の一條敦氏。
この3社は、ソフトバンク コマース&サービスが運営するモバイルクラウドソリューション情報サイト「SmaBiz! Web」で2014年11月〜12月にかけて開催された「第2回スマONEグランプリ」において、「2014年下半期に最も注目されたソリューション」の第1位(総合グランプリ)から第3位までのソリューションを提供している。
ソフトバンク コマース&サービスでは、モバイルクラウドソリューションビジネスの活性化を推進しており、今回紹介したソリューションを含め、多数のモバイルクラウドソリューションを販売している。
――: 第2回スマONEグランプリを受賞したソリューションは、ビジネスシーンのどんな課題に効くサービスですか。
santecの藤井氏: オフィスの自分の席にあるPCを、いつ、どこからでも操作できるようにする――。今回グランプリをいただいた「RemoteView」は、そんな働き方をサポートするサービスです。
自宅や外出先で使っているiPadやiPhone、Androidスマートフォン、Windows PCを通じて、会社に置いてあるPCのデスクトップを自由に、そして安全に操作できるのが特徴。ターゲットは「オフィスの外で仕事をしたいあらゆる業種、職種」の方々で、お客さまも官庁から建設業、個人事業主まで多岐にわたっています。
デジタルアーツの一條氏: 「i-FILTERブラウザー&クラウド」は、“仕事に関係ないWebサイトをユーザーに見せないようにする”マルチデバイス対応のWebフィルタリングサービスです。デバイスに情報を残さないセキュアブラウザと合わせて提供することで、セキュリティを確保しながらスマートデバイスを導入したいという企業を中心に導入が進んでいます。
インヴェンティットの半田氏: 紛失、盗難時の対応など、スマートデバイスを社内で使う上で欠かせない「MDM(デバイス管理:Mobile Device Management)」サービスをクラウド型ソリューション「MobiConnect for Business」として提供しています。
遠隔地から、デバイスのロックやワイプ(初期化)、データ削除を行うことで端末の第三者による不正利用やデータ漏えいのリスクを軽減するというMDMの基本的な機能を備え、iOS、Android、Windowsデバイスのマルチデバイス対応しています。特にiOS端末については、他社のMDMに比べて、より強固なセキュリティを確保できる点が特徴です。
――: スマートデバイスやクラウドの普及で、企業が新たなITシステムを導入する際の意識ややり方も変わってきているようですが、それを実感することはありますか。
半田氏: 企業のスマートデバイス、特にスマートフォンに対する認識が変化してきているのを強く感じますね。
スマートフォンは当初、携帯電話の延長線上にある機材として扱われていたので、企業の中では主に総務部門が購入や配布を担当していました。それが今では、“これまでとは違う形のコンピュータ”として認識するようになっています。
そうなると、セキュリティ面なども含めて「企業の情報システムの一環としてしっかり管理していくべきだろう」という考え方が主流になり、それに伴って権限を総務から情報システム部門に委譲するケースも増えています。より情報システムに詳しいスタッフが、必要なセキュリティ機能や管理機能、コストとの兼ね合いの中でMDMを検討し、利用しているのが現在の状況です。
santecの山下氏: 最近ようやく、「流行っているからとりあえず入れてみる」というフェーズから、「これを使って何をすればさらに生産性や業務効率が高められるか」を真剣に考えて実行するフェーズに移ってきているように感じています。
“自宅や外出先から会社のPCにあるデータを参照したい”というようなニーズは、そうしたユーザー側の「何をしたいか」という意識への変化に合わせて高まっているようですね。
インヴェンティットの山田氏: 最初は、それこそ社長の「鶴の一声」で一気に導入して、後から「これをどうやって使おうか」と考えるケースもあったようですが、最近では「やりたいこと」が最初にあって、そのためにデバイスを導入するという流れが多いですね。また、実際に導入して使ってもらう中で、現場のユーザーから「こういうことがやりたい」という要望が出てきて活用範囲が広がっていく、という動きもあります。
――: 実際にスマートデバイスやクラウドサービスの導入が進んでいる企業の中では、より効率を高めるための活用法やワークスタイルをどう変えていくかといったことを本格的に検討する段階に入ってきているようですね。
一方で、そうしたことをやりたいけれど、さまざまな問題で導入に踏み切れていないという企業の場合、どのように導入を進めるといいのでしょうか。実際に、多くの導入事例を見てこられた立場から、導入の「壁」を越えるための方法について、お聞かせください。
山下氏: いきなり大規模に導入しようとすると、ポリシーの策定なども含めた準備に手間がかかって、なかなか進まないことが多いようですね。導入がうまくいっているケースでは、まず担当者や部署単位で小規模な試験運用としてスタートさせ、その中で問題の洗い出しやルールの策定を並行して進めていき、徐々に利用範囲を広げていくという手順をとっていることが多いようです。クラウドサービスを活用するのであれば、そうした導入の進め方は特にやりやすいですね。
半田氏: 従業員の私用スマホやタブレットを業務に使わせる「BYOD」も、最初から全社規模でやろうとするとハードルが高い。一時は日本でも「BYODが主流になるのでは」という話が盛り上がりましたが、勢いはなくなっているようです。
一條氏: 海外のBYODは、端末コストの削減といった意味合いもあるようですが、日本ではキャリア各社の法人向け施策などもあって、デバイスそのものは比較的安価に入手できます。もし、BYODのための環境作りやルール作りに手間取って導入が進まないようなら、あまりこだわらずに会社としてデバイスを配布してしまうほうが、今のところ現実的ですね。
山下氏: 逆に社内のデータやアプリケーションを外に持ち出すことなく参照できるようにする「リモートデスクトップ」は、システム環境や運用ポリシーを大きく変えずに、BYODを可能にするソリューションとして検討されることが増えています。
――: 特にクラウドサービスを利用する場合、企業のデータを他社のサービスの上に置くことに不安を感じて、導入を躊躇する――というケースは現在もあるのでしょうか。
一條氏: そのあたりの認識も変わってきています。最近では、自社でサーバを持って、クラウドサービスベンダーと同レベルのセキュリティ対策や災害対策を実現しようとするのは“コスト的に現実的ではない”という理解が一般的ですね。クラウドとオンプレミス(自社サーバ)の両方をうまく使って、どんなバランスで情報資産を配置するかを考える企業の担当者が多いですね。
山田氏: 大企業も、徐々にそうした考え方になりつつありますね。ただ、どんなクラウドサービスでも良いというわけではなく、サーバの管理方法やセキュリティ、信頼性に対する独自の選定基準を作って、それに合うものの中からサービスを選択する――というプロセスをとっている企業もあります。
半田氏: かなり細かい部分まで、基準を作り込んでいることもありますね。
一條氏: ただ、クラウドソリューションベンダーとしては、お客さまにはあまり細かいハードウェア構成やミドルウェアにこだわりすぎず、その上で提供されているサービスをどう使って何をするかという部分により注力してほしいという気持ちもあります。“バックエンドのサービスを提供するインフラに関してはベンダーが保守・運用しているので気にする必要がない”というのが、ユーザーにとってのクラウドサービスの大きなメリットでもありますから。
藤井氏: そのメリットを最大限に享受するためにも、サービスを提供しているシステムそのもののセキュリティや可用性については、ベンダーをご信用くださいというのが率直な思いですね。もちろん、ベンダー側も、その信用に応えられるよう努力をしていかなければと思っています。
山田氏: 実際のところ、導入を検討するにあたって「クラウドだから」という理由で難航するケースは、今ではほぼなくなっています。むしろクラウドであることは当たり前で、その中でどこを選ぶかという形になってきています。
山下氏: 特にiOSやAndoroidのデバイスを使いたいという場合には、アップデート対応などを考えても、クラウドサービスで運用する以外の選択肢は取りづらくなっていると思います。スマートデバイスのソリューションはクラウドベースが標準になっていると言っていい状況です。既に「クラウド」であることに不安を感じている段階ではないのです。
藤井氏: セキュリティという観点では、デバイス活用のポリシーや情報セキュリティ確保のためのルールを、ユーザー側でどう作って運用していくかということのほうが大事になってきているのではないでしょうか。
――: 今後、企業がさらに競争力を高めていくためのスマートデバイスやクラウドサービスの活用法に関して、ソリューションベンダーの立場から考えていることがあればお聞かせ下さい。
一條氏: 既にスマートデバイスのコモディティ化は進んでいて、ビジネスソリューションもある程度、出そろっていると感じています。でも、“在宅勤務”や“直行直帰”といった新しい働き方を実現できるソリューションはあっても、それを活用する企業側の“制度”が、それに追いついていないという状況が出てきているように思います。
制度そのものがなかったり、あったとしても使いにくいものだったりすると、せっかくソリューションを導入しても、思ったほどの効果が出ないわけです。そうした部分を変えていくために何ができるのだろうというのは考えていますね。
半田氏: 先ほど話が出た「BYOD」についても、普及が加速しない理由の1つに、会社としての「制度」の問題があるかもしれません。
山下氏: 在宅勤務で利用した通信料金はどのように企業が負担するのかとか、実際に仕事をしていた時間をどう判断するのかとか、非常に細かい話ですが、そういう部分を1つずつ解決しないと、ソリューションとして機能だけ導入しても、快適に運用できないというケースが出てきてしまいます。
――: 既にそうしたワークスタイルを導入している企業でも、制度そのものはまだ試験的な段階で改善の余地が多く残っているという話はよく聞きます。技術的なソリューションだけでなく、それに合った制度を作ろうとしているユーザーの取り組みを共有できる場があると、さらに多くの企業が次の段階へ進めるかもしれませんね。また、新しい制度を人事や経理の管理面から支えるためのソリューションが求められるようになるのかもしれません。
半田氏: 企業としてスマートデバイスをどう使うかが明確になっていれば、各社のクラウドソリューションを組み合わせることで、必要なことができる状況は既にあると思います。そうした、複数ソリューションの組み合わせで実現できることは何かといった情報も、積極的に発信していきたいですね。
一條氏: デジタルアーツも、既にインヴェンティットとソリューション連携をしています。今回の「スマONEグランプリ」のような形で、クラウドソリューションを提供しているベンダー同士が交流するような機会がさらに増えるとうれしいですね。
山下氏: そうした機会があれば、お客さまに対して、“ベンダーのコラボレーションによるスマートデバイスの新しい使い方”をご提案できるようなことが、今後増えていくかもしれませんね。
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提供:ソフトバンク コマース&サービス
アイティメディア営業企画/制作:誠 Biz.ID編集部/掲載内容有効期限:2015年3月4日