大型合併で4400人の社員教育を効率化 損保ジャパン日本興亜、“OJTマニュアル電子化への道”

合併で国内損害保険最大手となった損保ジャパン日本興亜。契約業務の統合で、“早期に4400人の社員教育”をする必要に迫られた同社事務企画部門が選んだのは、ベンチャー企業のクラウド型電子マニュアルサービスだった。

» 2015年01月19日 10時00分 公開
[後藤祥子,Business Media 誠]

 “4400人という大勢のスタッフに、早期に新たな仕事の方法を覚えてもらう”――。こんな事態に直面したのが日本最大手の損害保険会社、損害保険ジャパン日本興亜(以下、損保ジャパン日本興亜)だ。

 2014年9月、損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)と日本興亜損害保険の合併によって2万7000人超の大所帯となった同社は、コア事業である保険契約に関する事務手続きを統一することとなり、損保ジャパンのものをベースにすることが決まった。それに伴い、4400人のスタッフに対して早急に実務指導を行う必要に迫られたのだ。

Photo 損害保険ジャパンと日本興亜損害保険の合併により、損害保険最大手に躍り出た損保ジャパン日本興亜

 これまでの実務指導は、OJT(On the Job Training:企業内トレーニング)の育成者が紙の事務マニュアルを教科書にして行ってきた。しかし、このやり方は“大人数を早期に”という教育を想定したものではなく、この体制でトレーニングをするとしたら、“OJTの育成者を育成する”ところから始めなければならない。それから4000人超のスタッフを育成する時間を確保し、さらに育成内容を均質化するとなると今までのやり方では難しいことが分かり、事務企画部門が対応を検討することになった。こうした課題を解決するために導入の検討を始めたのが、電子マニュアルの導入だった。

導入の決め手は“見やすさ”と“作りやすさ”

 同社が電子マニュアルの導入で解決を目指したのは、「これまでOJTに頼っていた実務教育の一部を“電子マニュアル”で代行する」(損保ジャパン日本興亜の事務企画部門)こと。そのためには、写真をふんだんに使った“見てすぐに業務を理解できる”業務マニュアルを作成できるツールを探す必要があった。

 もう1つの課題はマニュアル作成にかかる負荷の軽減だ。例えばマニュアル作成にワープロソフトやプレゼンソフトを使っていると、業務フローに変更が生じたときにデザインや構図まで考えて修正しなければならず、現場に多大な負荷がかかってしまう。製品の選定にあたっては、いかにこうした手間を軽減できるかも重視した。

 同社は顧客の個人情報を扱う金融機関であることから、サービスの導入にあたっては、各種規制やコンプライアンスへの基準を満たすセキュリティ面の確保も重要だった。特にデータを社外へ置くことになるクラウドサービスは、同社が定めたガイドラインの審査基準を満たす必要があった。

 これらの課題を解決するツールとして同社が選んだのが、ベンチャー企業のスタディストが提供するクラウド型電子マニュアル作成ツール「Teachme Biz」だった。

 導入の決め手となったのは、マニュアル作成の手間がかからず、作業時間を軽減できる点。スマホのカメラで撮った写真やPCの画面キャプチャをドラッグ&ドロップし、その画面に説明文を入れていくことで、スライドショー形式の電子マニュアルを作成できるので、作成時や修正時に構図やレイアウトを気にする必要がない。画像に矢印や文字を入れることもできるので、例えば“契約書類の写真を撮って、記載もれがないよう注意するところに矢印を入れる”といった画面も容易に作成できる。

 セキュリティ面でも、外部委託管理規定の審査基準となっているアクセス権者の管理、データの暗号化・バックアップといった技術的な管理体制などの要件を満たすとともに、自社の審査基準もクリアしたことから導入が決まったという。

作成時間は半分以下、コストは6割減

 Teachme Bizを利用したマニュアルの電子化は、導入時の課題となっていた社員教育の効率化に加え、現場スタッフの時短や運用コストの削減につながったという。

 現場のスタッフは、画像を多用した電子マニュアルを利用することで、実際の作業をイメージしながら保険手続きのフローを学べるようになった。営業の経験がないスタッフが、電子マニュアルを見ながら保険の店頭業務を自力で完結できるようになるなど、OJT育成者側の負担も軽減。また、教え方の善し悪しによるばらつきがなくなり、指導が均質化されるという効果も生まれた。

 「事務マニュアルを使用したOJTは約15日間かかっていたが、Teachme Bizの導入後は『育成資料の準備時間』と『育成者がマンツーマンで張り付く時間』が短縮されたため、約5日間に短縮された。この効果は大きい」(損保ジャパン日本興亜の事務企画部門)

Photo 損保ジャパン日本興亜の電子マニュアル。申込書類のどこに何を記入すればいいかが一目で分かる

 さらに運用面のメリットも見えてきた。導入前に1カリキュラムあたりおよそ14日かかっていたマニュアル作成時間は、半分以下の5日に短縮され、スタッフはその時間を別の業務にあてられるようになった。マニュアル作成にかかる年間コストも紙からWebへと移行することで、導入前の700万円から6割減となる250万円まで抑えられる見込みだ。

 現状は保険契約事務のマニュアル作成のみに活用しているが、現場からは引き継ぎなどの一般業務に活用したいという声も挙がっている。同社では現場の声をヒアリングした上で、モバイル端末からの活用も視野に、用途を拡大していく考えだ。

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