効率的なインターネットは人間らしさを喪失させていくのか?ナレッジワーキング!!

タイの田舎リゾートで休暇を過ごした筆者。のどかに思えるリゾートにもネットとモバイルの波は押し寄せていました。この先、どんどん効率化が進んだらどうなってしまうのでしょうか?

» 2015年01月16日 10時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 年末年始に久しぶりにタイに行きました。クラビというこじんまりとしたリゾートでしたが、ここは落ち着いた雰囲気で欧米人に人気のエリアです。低層のホテルやレストランを除いてはコレといった建物もなく、似たような土産物を置く商店と同じようなオプショナルツアーを扱う旅行代理店商店の店番が一日中、のんびり椅子に座って、行き交う旅行客に時折声をかける姿が印象的です。

 こんな田舎リゾートにもインターネットとモバイルの波は押し寄せています。大卒の初任給が日本の7分の1程度の約3万円といわれるタイであっても、多くの若者がスマホを片手にLINEやFacobook、ゲームといったコンテンツに熱中しています。こうした光景はタイだけでなく、東南アジア全般に見られるものです。

 グーグルの元CEOであるエリック・シュミット氏の著書『第5の権力』を読みながら、もしもインターネットの「効率性」がこうした田舎リゾートで働く人のすみずみまで及んだらどのような姿になるのだろうと想像してみました。

スマホとクラウドの持つ威力は田舎ほど劇的である

タイ

 もしも、木製の古い船にむき出しのエンジンを積んだロングテールボートの船長の手にスマホがあり、旅行客の予約状況がリアルタイムに把握できて、満席近くになると1席あたりの価格が自動的に跳ね上がるような無料の予約システムを使っていたとしたら?

 1時間200バーツ(730円程度)で入念に全身をほぐしてくれるタイマッサージ師の手にスマホがあり、顧客の身体に関するあらゆる不調データを受信して、ピンポイントでリンパや血流の流れを改善することができたら?

 ホテルのコンシェルジュに頼まなくとも、スマホのリコメンデーションシステムから、その日の天候、道路の渋滞状況、自分の体調や好み、レストランの空き状況などから一人ひとりにパーソナライズされた「完璧な旅程」が自動的に推薦され、あなたはボタン1つでそのすべての予約が取れたら?

 これらはすべて筆者の勝手な想像でしかありませんが、すでに実現している技術ばかりです。Amazonの倉庫ではロボットが荷物をピックアップし、それを小型リモートヘリが自宅まで届け、おまけに購入者の好みを分析して買うであろうアイテムを最寄りの配送所まで運んでおくような時代です。

 Apple Watchや各種計測ガジェットは身体の基本データを記録し続け、スマホと連携するインテリジェンスな薬が自動的に投薬を続け、数千円のDNA検査であらゆる病気のリスクを前もって確認できる時代です。

 高度なクラウドサービスがほぼ無料でタイの田舎リゾートのような隅々まで提供されることで、これまでのリアルなサービスは待ち時間や在庫といったムダが極端に減り、費用対効果が高まり、「究極の効率化」が行われていくことでしょう。情報量全体は指数的に膨れ上がり、人間の力で情報全体を俯瞰することは難しくなるでしょう。

情報量の爆発とシステムの複雑化で人間はおざなりになる?

タイ

 もちろん、情報量が増えてもあくまで選択の自由は人間にあります。しかし、人によっては選択することすら面倒になり、システム任せにする人も増えてくるかもしれません。そうした時代をなげかわしいと反論する人も大勢いるでしょう。

 しかし筆者は、どんなに情報量が増えようが、システム主導で人間の判断機会が減ろうが、それが「効率化」のために行われることであれば、基本的には良い方向に向かっているのだと思っています。

 自動化による人間らしさの喪失、ネットのコネクティビティによる個人データのセキュリティといった負の面ばかりに目を向けるのではなく、インターネットによる効率化は、本来「もっと創造的な行為」のために時間を作り出すものであることに着目すべきです。

 実際、インターネットによる効率化の波は、既存の仕事を破壊し、非効率な産業を突然死させる威力を持っています。しかし大事なことは、その上で自分は何をすべきか、サービスを通してどのような価値を提供したいのか、もっとクリエイティブな思索に時間をかけるようにすることではないかと思う次第です。

 筆者は、いつかきっと究極に効率化した、このタイのリゾート地を訪れるに違いないと地ビールを飲みながら確信したのでした。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

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