先に挙げた研修の場面で、上司たちが挙げていたような「すごい」「すばらしい」「さすが」といった褒め言葉は、部下が非常に優れた成果を出したとき、特に自分の予想を上回った場合に使われるものだろう。しかし、そんな基準では、相手を褒めることが重い行為に感じられ、褒める機会は減ってしまう。
もっと気軽に、日常的に相手を褒めるためにはどうすればいいか。ここは1つ、褒めるという言葉からいったん離れ、「相手を認める」と捉えてみてはいかがだろう。
コーチングなどでよく使われる“承認”という言葉がある。これは、褒めるというよりももっと幅広く「相手の言うこと、すること」や「相手の存在そのもの」を認めることを指し、「結果だけでなくプロセスについて言葉で指摘する」ことも含まれる。
例えば、大型案件を受注できたという一報が部下から入ったときに「すごいね!」「さすが!」と褒める前に、まずは「おぉ、よかったね」「あと一歩だね」「いいニュースだ」「頑張ってきたもんね」といった言葉をかける。これが承認だ。
自分の行動が承認されれば、それだけで部下は「報われた」と思い、「もっと頑張ろう」「より高いところを目指そう」と前向きにもなれる。承認は「勇気がわく」「やる気が出る」「自信が高まる」「承認してくれた人への信頼がさらに上がる」など、さまざまな効果をもたらしてくれる。
褒め言葉が思いつかない人でも、目についたちょっとしたことを部下に伝えるだけならすぐ実行に移せるはずだ。
「褒めるとつけあがるのではないか」「そこで成長が止まってしまうのではないか」と思う人もいるだろうが、ここは上司の手腕が問われるところだ。
例えば、承認の言葉をかけたあとで「次は、これができたら、もっとスゴイなぁ」と目標のハードルを上げてみるのもいい。認められたからといってそこで立ち止まらせないようにするのも上司の役目である。
人のやる気は、ちょっとしたことで上がりも下がりもする。承認は、部下のやる気を高めるサプリメントのようなもの。うまく使いこなしてチームを盛り上げられるのが、優秀な上司と言えるだろう。
「毎日、早く出社しているね」
「いつも締切をきちんと守るね」
「よく頑張った」
「大変だったね」
「よくこの難局を乗り越えたね」
「助かったよ」
「ありがとう」
「最近、プレゼンが板についてきたね」
「提案資料が見やすくなってきたね」
「お客様が褒めていたよ」
「××部の〇〇さんが感謝していたよ」
「すばらしい!」
「すごいね」
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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