仕事に「大きい、小さい」はあるか明日を変える働き方

仕事におけるマネジメントの原則として「仕事の大きい小さい」は、なくては困ります。大きな目標に向かって小さな仕事を積み上げていく。優先順位があるからこそ、ときには比較的重要度が低い仕事を切り捨て、戦略的に動くことができます。

» 2014年09月16日 11時00分 公開
[金井壽宏,Business Media 誠]

集中連載「明日を変える働き方」について

本連載は、金井壽宏著、書籍『「このままでいいのか」と迷う君の 明日を変える働き方』(日本実業出版社)から一部抜粋、編集しています。

 「この仕事は、自分に合っているのだろうか?」
 「今のような働き方が、いつまで続くんだろう……」

迷いながら働く人のために、キャリア研究の第一人者が、仕事の本質から会社との付き合い方、キャリアの捉え方まで、読者と一緒に考えていきます。

長い仕事人生にはアップダウンがつきもの。ワクワクしながら前向きに取り組める時期もあれば、失敗や思わぬ異動に落ち込む時期もあるのが当然です。

本書では、一般の企業で働く若手14名へのインタビューをもとに、仕事の「モティベーション」、そして「キャリア」の悩みから抜け出し、成長していくための考え方を紹介します。

 ・いったい自分は、何のために「働く」のか?
 ・「組織」とどこで折り合いをつけるか?
 ・これからの「キャリア」をどうデザインするか?
 ・もっと仕事に夢中になるためには?

など、キャリアの入口、あるいは途中で立ち尽くしている人が、自分なりの「働き方」をつかむための1冊です。


仕事に大きい、小さいはあるか

 広告会社に勤めるTさんは、「新入社員の多くは『大きな仕事がしたい』といって入社してきますが、実際に現場で働きはじめると、任されるのは小さな仕事。その積み重ねでしかありません。最初の希望と現実のギャップに戸惑う若い社員は多いと思います」と話しています。

 私はこの言葉を聞いて、映画にもなった人気テレビドラマ、『踊る大捜査線』で深津絵里さんが演じる恩田刑事の口癖、「事件に大きいも小さいもない」というセリフを思い出しました。恩田刑事は窃盗事件を中心に担当しています。あるとき、主人公の織田裕二さんが演じる青島刑事が、「こっちは誘拐なんだよ」と自分が担当する事件の重要度の高さをアピールすることに対して、恩田刑事は「窃盗だって小さくないわよ」というニュアンスで抗議するのです。

 確かに、事件や火事など、救急車の要請のような場合なら、大きい小さいを問わずともかく通報が先に来たものへ駆けつけるのが原則でしょう。火事は小さいうちに消さなければなりませんし、殺人より窃盗のほうが小さい事件という判断もできません。1件の窃盗の裏に、大規模な犯罪集団がいるかもしれません。

 しかし、これはあくまで緊急時で、大小の判別がつかないときの対応です。大規模な災害や事故が起きて、数百人が一度に外来に押し寄せるようなことがあれば、そのときは緊急度の高い患者から対応する必要が出てくるでしょう。

 仕事について考えてみても、マネジメントの大原則からは「仕事の大きい小さい」はなくては困ります。大きな目標に向かい、小さな仕事を積み上げていく――。優先順位がはっきり決まっているからこそ、ときには比較的重要度が低い仕事をスパッと切り捨て、戦略的に動くことができるのです。

 にもかかわらず、プロフェッショナルの仕事人は、陶芸家にしても建築家にしても作家にしても、小さな陶器、小さな建物、短編小説だからといって手を抜くということはありません。それどころか、小さな仕事であるからこそ、より細部にこだわり集中し、その結果、より創造的な作品が生まれることもあります。

 上司や会社の経営者の視点からは小さく見えてどうでもいいと思えるようなことなのに、現場では状況がとてもよく見えていて、そこにマネジメント層が気付いていない極めて重要な商売のヒントが眠っていた、というようなこともあります。

 私の仕事は大学での教育と研究というやや特殊なものですが、書く文章がなっていない人、とくに書き方に細かいミスがやたらと多い人は、スケールの大きな研究プロジェクトにあまり貢献できないものです。

 「神は細部に宿る」という言葉がありますが、仕事においても「小さな仕事」にこそ後の「大きな仕事」に結びつくカギがあることが少なくないのです。

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