“あいまいな表現”はロジカルシンキングの大敵【最終回】マッキンゼー流入社1年目 ロジカルシンキングの教科書

たわいのない会話でも、深く(クリティカルに)考えると不思議に感じることが増えてきます。波風を立てる必要はありませんが、自分の中で「なぜ?」「何が?」と問い尋ねる習慣をつければ、「考えの浅い人」から卒業できます。

» 2014年07月31日 11時01分 公開
[大嶋祥誉,Business Media 誠]
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連載「マッキンゼー流入社1年目 ロジカルシンキングの教科書」について

『マッキンゼー流入社1年目 ロジカルシンキングの教科書』

本連載は、大嶋祥誉著・ソフトバンククリエイティブ刊『マッキンゼー流入社1年目 ロジカルシンキングの教科書』から編集転載しています。

世界最強のコンサルティングファームと呼ばれるマッキンゼーの新入社員は、ロジカルシンキングを叩きこまれます。「直感」や「いい感じ」に頼らず、クリティカルに考え(深い洞察による自分の考えを持ち)、ロジカルに展開する(分かりやすく伝える)ことがなぜクリエイティブであるといえるのでしょうか。

本連載では、ロジカルに展開する前の段階——多くの人があまり掘り下げることなく当たり前のような答えを出してしまう「思考」を見直し、クリティカルに考える(考えを深くする)ための3つの基本姿勢と7つの習慣について掲載します。

このほかにも本書では、
・論理思考は難しくない! ロジシンの基礎講義
・ロジカルに展開する わかりやすく伝える方法
・クリティカルに発想する それ、いいね
・クリシン+ロジシンで独創的な飛躍をする
方法について例を交えながら説明しています。


クリティカルな思考を鍛える7つの習慣(その3)

 前回は日常生活のあらゆる場面で深く考える習慣をつけられるよう、「クリティカルな思考を鍛える7つの習慣」のうち3番目と4番目を取り上げました。今回は残り3つを取り上げます。

[習慣その5]事実と意見を区別する

 次の発言の中に“事実”はいくつあるでしょうか。

「最近、風邪が流行ってるから予防でマスクしてる人が多いよね」

 正解は「ゼロ」です。

 そもそも風邪が流行っているというのは、どういうことなのでしょう。医学的には「風邪」という病気(疾患)はなく、「咳」「発熱」「鼻づまり」「全身倦怠感」などの症状を主訴とする状態を便宜的に「風邪」としていて、実際には、さまざまな疾患の総称です。

 そのため、「風邪が流行ってる」というときの前提となる「風邪」そのものが、具体的にどのような症状なのかがハッキリしないと、予防のための対策も考えるのが難しくなります。「風邪の予防」といっても、対象範囲が広すぎてすべての症状を予防することは難しいというわけですね。

 「マスクしている人が多い」というのも、たまたま、その場にいた人たちがマスクをしていただけという可能性もあります。主観的な情報だけで「マスクをしている人が多い」といえるでしょうか。つまり「多い」の定義があいまいなので、これも本当に多いのかどうかは分かりません。

 人との会話の中では、よくあることですが、クリティカルな思考を働かせると、一見「事実」を言っているように思えても、実は、その中身は言っている人の「意見」に過ぎないということも少なくないわけです。

 もちろん、身近な人とのたわいない話の中では、「事実と意見」がごちゃ混ぜになっていても、そのまま会話を楽しむことができればいいと思います。ですが、あえて意識して「事実」と「意見」を聞き分けながら話を聴くことが、「クリティカルな思考」の習慣を作ることにつながります。

[習慣その6]ソクラテスになってみる

 人間は自分に対しても他人に対しても、正しいと思うこと、おかしいと思うこと、すべて問いかけることこそ卓越性の最たるものである──。

 古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、あらゆるものごとに「問い」を立てることで、その本質を明らかにしながら人間性を高めようとしました。

 これは「ソクラテスメソッド(ソクラテスの問答法)」とも呼ばれ、問いによって自分や他者の中から、より良い答えを引き出そうとするもの。

 例えば「顧客満足が大切だ」といわれたら「そもそも顧客満足とはどんなものなのか」を問い、「人を裏切ることは良くない」と誰かが言っていたら「裏切りってどういうことだと思う?」とたずねてみるのです。

 どんな発言に対しても、そのままにせず、なにか「問い」を立ててみる。そんなソクラテスのようなことを意識してみるのもクリティカルな思考への近道です。

[習慣その7]言葉のあいまいさに甘えない

 ある上司と部下の会話です。

 上司「この前の件、進んでる?」

 部下「あっ、あれですね。いいところまで行ってるみたいです」

 上司「じゃ、なるべく早く頼むよ」

 部下「分かりました。また報告します」

 何だか、よくありそうな会話ですよね。けれども、どこかに違和感を覚えませんか。

 当事者同士は「この前の件」という表現で、なんのことを指しているのか「分かっているつもり」ですが、絶対に同じことを捉えているとはいえないですよね。

 さらに、部下は進捗について「いいところまで」とは言っているものの、順調なのか、そこまでは進んでいるものの、なにかの問題が生じて進みが止まっているのかどうかも分かりません。それを確認する必要もあります。

 上司も「なるべく早く」というあいまいな期限設定で、具体的にいつまでという指示をしていません。そのあとの部下の答えも「また報告します」では、いつごろ、何を報告するのかも不明です。

 このように、1つ1つクリティカルに「ツッコミ」を入れると、「これではダメだなぁ」と気づきますが、普段の会話では、ものごとの筋道が論理的に通っていなくても、何となく通じてしまうわけです。

 だからこそ言葉のあいまいさに甘えていると、肝心なときに「うまくいかない」という結果を突き付けられてしまいます。

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