調整という名の“搾取”を避け、交渉に持ち込めプロが教えるビジネス交渉術 第6回

ビジネスにおける“調整”とは、無理がききそうな部門が一方的な譲歩を強いられるケースが多い。こうした状況を避けるには、自分の要求をまとめた「ウィッシュリスト」を日頃から備えておくことが重要となる。

» 2014年06月13日 10時00分 公開
[PR/Business Media 誠]
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photo 誰しも“調整”に苦労した経験はあるはずだ

 ビジネスにおいて“調整”というと、どういったイメージが思い浮かぶだろうか。

 例えば、スケジュールやリソースの割り当てについて社内の他部門と話し合うときなどに、“調整”という言葉が使われる。顧客から厳しい要求が出されたり、状況に変化があったりすると、関係者が一堂に集まって調整のための会議が開かれる――仕事をしていれば、幾度となく目にする光景だ。

 しかしこの調整、時間はかかるし、しわ寄せがいった相手からは少なからず反感を買ってしまう。実に面倒な業務だ。この調整業務をスムーズに進めるための方法はないものか。今回はとあるイベント会社のプロデューサーを例に考えてみよう。

“調整”という名の一方的な搾取

 イベント会社、誠アローズのプロデューサー、村上悠、32歳。彼が手がける業務はとあるゲームメーカーA社のイベントだ。展示場のホールを貸し切り、協賛企業も多数。来場者も5000人は来るであろう大規模なものだ。

 関係者の顔合わせから半年近く経ち、開催日は2カ月後に迫った。イベントの準備は佳境に入り、日々業務に忙殺されている。今日もA社と、午前中に定例会議を終えたばかりだ。しかし、この会議で村上に大きなピンチが訪れる。

担当者: 本当に突然なんだけども、イベントの内容を一部変更できないでしょうか……。

村上: え? 開催はもう2カ月後ですよ。何があったんです?

担当者: イベント内で今度発売になる新作ゲームを発表したい、ってこのタイミングで上層部が言い出したんです。

村上: 本気ですか? 今までこんな話一度もなかったのに。

担当者: 申し訳ないです。競合が多い業界でして、リークなどを恐れて今まで社内でも一部の人しか知らされてなかったみたいで……。急な話なのですが、そこを何とかお願いします!

 村上は困り果ててしまった。展示内容はかなりの修正が必要になるし、来場者ガイドの原稿も差し替えなくてはならない。新作の発表とあれば、記者も来るだろう。社内の製作部門に調整をお願いすることになるが、何と言えばいいか……。


 さて、こうした調整では、実際のところ何が行われるのか。会議を注意深く観察すると、どこかの部門が“降伏”するまで、時間をかけてゆっくりと話し合うケースが多いことが分かる。まるで、時間をかければ調整の納得度合いは高まる、と思っているかのような行動だが、これは見当違いだ。

 そもそも、調整の“犠牲”となる部門は会議が始まる前から決まっている。今回紹介したケースもそうだが、一般的には制作や技術など、一見頑張れば無理がきくように見える部門が、スケジュールやリソースについて、繰り返し一方的な譲歩を強いられるケースがほとんどだろう。調整に時間がかかってしまうのも、調整の終結が犠牲となる部門に委ねられているためだ。こうして、生産性のない会議が延々と続くことになる。

 こんなことを繰り返せば、犠牲となった部門のパフォーマンスは徐々に低下していき、組織全体のパフォーマンスも大きく下がるだろう。これでは、誰も幸せにならない。

「ウィッシュリスト」を用意し、交渉に持ち込む

 調整による犠牲を被らないためには、どうすればよいか。そのためには「ウィッシュリスト」と呼ばれる要望のリストを日ごろから備えておくことが重要だ。これで無意味な調整を、交渉へと持ち込むことができる。

 ウィッシュリストとは、“現実的かどうかはさておき、これが実現できたら自分がうれしいもの”のリストだ。今回紹介したケースにおいて、展示ブースの制作を担当する部門の人間なら、以下のようなリストが考えられる。

  • デザインの方向性を決めるために、顧客と半日のワークショップを実施してほしい
  • こちらからの提案には1週間以内に回答してほしい
  • 設営に着手する1週間前で変更は打ち止めにしてほしい
  • 展示商品のサンプルを提供してほしい
  • 過去の出展情報をできるだけ教えてほしい
  • 業界紙に「事例」として紹介させてほしい

 部門の何人かで話しあえば、おそらく50以上の項目がリストアップできるはずだ。“調整”で何かの譲歩を求められた際には、このウィッシュリストの項目から何か1つを見返りに要求してみよう。その要求が相手にとって理にかなっており、現実的なら、実現する可能性は高い。

 この連載で繰り返し言っているが、肝心なのは、無条件で譲歩しないことだ。その姿勢を取ることで初めて“交渉”となる。どんな小さな要求でもいい。常に何かしらの見返りを求められるように「ウィッシュリスト」という形で備えておけば、外部の人間にも「タダでは『調整』しない」という印象を与えることにつながる。そうすれば、調整で搾取されるだけの犠牲者になる可能性はほぼなくなるはずだ。


 いかがでしたか? 交渉においては長い「ウィッシュリスト」を備えておくことは非常に重要です。ウィッシュリストにはここで紹介した以外にも、数多くの使い方があります。記事で触れられなかった使い方については、交渉スキルのトレーニングコースでご紹介します。

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提供:スコットワーク株式会社
アイティメディア営業企画/制作:誠 Biz.ID編集部/掲載内容有効期限:2014年7月13日

著者プロフィール:増倉洋

スコットワーク株式会社 代表取締役コンサルタント。英国発、世界34カ国24言語で20万人以上をトレーニングしてきた交渉トレーニングの専門家集団スコットワークの日本における代表。同社初の日本人講師として、2013年より日本語で交渉トレーニングを実施している。

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