イヤなことを先に済ませれば、あせりがなくなるあせらない練習

誰でもやりたくないと思うことは先延ばしにしてしまいがちです。しかし、いくら時間をおいても、やりたくないことが急にやりたいことに変わったり、苦手が得意になることはありません。先に済ませて気をラクにしましょう。

» 2014年06月04日 11時00分 公開
[斎藤茂太,Business Media 誠]

集中連載「あせらない練習」について

本連載は、斎藤茂太著、書籍『あせらない練習』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。

休みなしに働いているわりには成果が上がらなかったり、あれもこれもと欲張ってやるわりには何もモノにできなかったり――。周囲に振り回されて自分自身を見失っている人、あなたの周りにもいませんか? そういう人の心の中には、いろいろな情報や思いがグチャグチャとあるだけなのかもしれません。

 ・頭のなかのあせりは、脳を休ませるとだんだん消えていく
 ・「その場しのぎ」をやめれば、あせる気持ちから解放される

不安やイライラは、ちょっとした心の練習でなくなります。あせらないで頭と心さえスッキリさせれば、筋道の通った思考と気持ちの整理もきちんとでき、目的別にゆったりと行動することができるようになります。

本書では、どうしてもあせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせる練習方法を、心の名医であるモタ先生の幸せメソッドにならって紹介します。


 やりたくないなぁ、面倒だなぁ、苦手だなぁ――。そういう気持ちが動くとき、つい行動を先延ばしにしてしまいがちです。かつては私もそうでした。

 でも、あるときから、「先延ばしにするより、すぐさまやってしまったほうが数段ラクだ」と気付きました。なぜなら、いくら時間をおいたところで、やりたくないことが急にやりたいことに変わったり、面倒臭さが突然消えたり、苦手意識が得意に変わったりすることは決してないからです。

 しかも、時間が経つにつれて、「早く片づけてしまわなければ」というあせりがどんどん募り、いつまでも気持ちが落ち着きません。

 そんな苦痛を長時間味わうくらいなら、やるべきことは時間があるうちにとっとと済ませてしまったほうが、実はずっとラクなのです。

 あなたにも、イヤイヤながらも取りかかったら、あっという間に片付き「やりたくないと思っている時間のほうが長かった」なんて思いをした経験はありませんか? 行動さえ起こせば短時間でできるのに、それを先延ばししたために「やりたくない、でもやらなくちゃ」という思いを引きずり、苦痛に満ちた長時間を過ごしてしまう。そういうことはよくあるのです。

 では、どうすれば重い腰をエイッと持ち上げて、イヤなことに取り組む気持ちを奮いたたせることができるでしょうか? ベストな方法は、

 「イヤなことの次に、得意なことや好きなことをする」

 または、

 「イヤなことの次に、急ぎの仕事を入れる」

 という予定を立てて、何が何でもそのスケジュール通りに行動する決意を固めることです。そうすれば、イヤでも

 「これをとっとと済ませば、好きなことができる」
 「早くこれを片付けて、急ぎの仕事にかからねば」

 という気持ちになれます。その分、作業時間も短縮できるでしょう。

 イヤなことをする時間は短くなるし、やる気が起きないままにダラダラと過ごす時間も減らせるし、一石二鳥ではありませんか。

 実際、製薬会社のMR(営業)をしている男性は、この方法で「イヤなことを先延ばしする」悪習を改め、「イヤなことから先に済ませる」習慣を付けることに成功したそうです。

 「病院回りをするとき、おっかなくて苦手な先生とか、MRに対してあまりフレンドリーではないといううわさに聞く先生とかを、どうしても後回しにしていました。懇意の先生のところへ行くほうが気は軽いし、成果も上げやすいからです。

 それで、苦手な先生を後回しにしては『明日でいいか』の繰り返し。ひどいときは留守と知っていて出かけて、訪問回数にカウントしちゃったくらいです。

 こんなふうではテリトリーが広がらないし、苦手な先生とのコミュニケーションも改善されません。上司もいい顔をしないですしね。

 そこで、一念発起。苦手な先生から回るスケジュールを立てました。それまでは行き当たりばったり。訪問する病院だけを決めて、あとは気の向くまま、足の向くままに回っていたんです。

 最初は朝から気持ちがどんよりって感じでしたが、夕方疲れ切ってから訪問するよりはマシですよね。朝のスケジュールなら、そこを越えなくては1日が始まらないのでがんばるしかありませんが、夕方にすると明日回しにしちゃおうと怠惰に逃げちゃいますから。

 それに、会ってみると意外とうまくいくケースも多く、だんだんに征服欲が高まりました。そのスケジュールさえこなせば、後は得意客だけの訪問だから足取りも軽くなります。まんまと苦手な医師を征服した日はなおさら、いい波に乗れます。

 しかも、『明日は行かなくちゃ』とのあせる気持ちを抱えなくても済むようになったし、心身の疲れが半減しました。いまではもっと早くに『イヤなことから先に済ます』習慣をつけるんだったと悔やんでいるくらいです」

 彼はこのほか、書くのが苦手なために後回しにしていた日報も、訪問を終えるごとにとっとと記載する習慣も身につけたそうです。

 「1日の終わりにその日の行動を思い出しながら書いていた以前より、ずっと書く時間を短縮化できた」と言っていました。

 イヤなことを先延ばしにするのは、「後の苦しみ」を増やすだけ。あせらずにサッと先に片づけると、その苦しみから解放されるだけでなく、「後のお楽しみ」がぐんと増えるのです。

(次回は、「スキマ時間の仕事リスト」について)

 →連載「あせらない練習」バックナンバーはこちら

著者プロフィール:

斎藤茂太(さいとう・しげた)

1916(大正5)年に歌人・斎藤茂吉の長男として東京に生まれる。医学博士であり、斎藤病院名誉院長、日本ペンクラブ理事、日本旅行作家協会会長などの役職を歴任。多くの著書を執筆し、「モタさん」の愛称で親しまれる。「心の名医」として悩める人々に勇気を与え続け、そのユーモアあふれる温かいアドバイスには定評があった。2006(平成18)年に90歳で亡くなったが、没後も著作は多くの人々に読み継がれている。


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