離れて暮らす一人暮らしの年老いた親が孤独を感じていないか――。身内であるがゆえに聞き出せない親の本音を、“週2回、10分の電話”で聞き出してリポートするユニークなサービスが登場した。会社創立からサービス開始まで8カ月という“スピード起業”を支えたクラウドサービスとは。
必要な時、必要なITリソースを素早く、比較的安価に調達できる――。これこそがクラウドサービスの最大のメリットだ。特に、過大な初期投資を抑えつつ、早急に事業を立ち上げたいスタートアップにとって、その恩恵は計りしれないものがある。
一人暮らしの高齢者を週2回、10分の電話によるコミュニケーションで見守るサービス「つながりプラス」の提供を開始した「こころみ」も、そんなクラウドサービスの恩恵にあずかってる1社。サービスを運営するためのシステムを構築するにあたって、cybozu.comが提供するクラウドPaaS(Platform as a Service)※「kintone」を採用した。
※アプリを使うためのプラットフォームの機能をサービスとして提供する形態
「こころみは私が1人で起業した会社で、創立からサービス開始までの期間が8カ月というスピード起業でした。たくさんのコミュニケーター(高齢者とコミュニケーションするスタッフ)を抱える“つながりプラス”のようなサービスを展開するにあたっては、kintoneをはじめとする、さまざまなクラウドサービスを十分に活用することが必須だと考えていました」――。こう話すのは、代表取締役社長を務める神山晃男氏だ。
つながりプラスは、主に一人暮らしの高齢者を持つ家族向けに提供される見守りサービスだ。サービスに契約すると、見守り対象となる高齢者に、担当の「コミュニケーター」がつく。最初に直接会って顔合わせをしたあと、毎週2回、高齢者とコミュニケーターが電話による10分程度の会話を行う。コミュニケーターは、高齢者が元気にしているのか、どんなことに関心があるのか、悩んでいることはないか……といったことを聞き出し、内容をその都度レポートにまとめてメールで家族に送信する。
一般的な高齢者見守りサービスとつながりプラスの違いについて神山氏は、コミュニケーションを通じて、高齢者本人と家族の両方にとって満足度の高いサービスを目指している点だと話す。
例えば、サービス契約時には必ず最初にコミュニケーターと本人が対面し「顔見知り」になってもらうところからスタートする。コミュニケーターは、高齢者とのコミュニケーションや会話による聞き取りのためのトレーニングを積んでおり、担当者は毎回基本的に変わらない。
顔も名前も分からないコールセンターのオペレーターによる「安否確認」ではなく、“顔見知り”のコミュニケーターとの「会話」の中から、独居ゆえに抱えている問題や、体調不良、最近の関心事など、近親者が知っておきたいけれども、なかなか本人に聞けない情報を引き出すことができるという。
また、こうした知人との定期的な会話は、高齢者本人にとっても生活の「はり」になる。家族には言いづらいことを遠慮せずに話せる相手と、決まった時間に会話することが、生活のアクセントになるというわけだ。
「例えば高齢者が体調を崩した時には、気が弱って助けてほしいと思う一方で、“子供や親類に心配をかけたくない”という思いもあって、なかなかそれを家族に言い出せません。コミュニケーターを介することで、家族が知っておきたいそうした状況を伝えやすくなります。また、定期的に会話をする習慣を持つことで、話のタネになるような活動を、本人が積極的に行うようになります。単なる“生存確認”ではなく、新たな人とのつながりを持つことで、生活にメリハリを作り、一人暮らしの高齢者が、より元気に日々の生活を送ることをサポートできるのです」(神山氏)
さらに、つながりプラスでは、オプションプランとして「認知症早期発見スケール」も用意している。これは、一般的な日常会話の中から、本人に起こっている認知症の傾向を把握できるものだ。継続的にこのスケールを参照することで、遠隔地に住む家族は適切なタイミングで本人に起こっている認知症の傾向を発見し、進行を食い止めるための対処を行うことが可能になるという。
「つながりプラス」を運営するためには、サービスに関するさまざまな情報を管理する必要があった。電話で話をする高齢者の情報、直接の契約者となる家族の情報、担当するコミュニケーターの情報、加えて、日々寄せられる問い合わせに関するものや、本人とコミュニケーターの会話履歴といったものだ。こころみでは、これらを管理するためのデータベースシステムを「kintone」を使って独自に開発した。
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