この上司の下で働くのはつらい……。たとえそう思っても、残念ながら上司を選ぶことはできない。まだ尊敬できる上司に巡りあってない人に、“できる上司はどこがすごいのか”を紹介しよう。
組織に属するメリットの1つは、素晴らしい上司に恵まれた場合に、その薫陶を受けられることだろう。しかし、そんな上司というのは、テレビや映画ではよく見かけるものの、現実にはそうそういないものだ。
かくいう僕も、百貨店に勤務していたサラリーマン時代は良い上司にはなりきれなかった。しかし、僕自身は何人かの素晴らしい上司に巡りあい、そのやりかたをつぶさに見る機会に恵まれた。
上司が若手の鍛え方を間違えると、若手スタッフたちは自らのことを「社畜」とよんで卑下したり、「仕事を通じて成長するなんて嘘だ。時間と引き換えにカネさえもらえばいい」という投げやりなことを言ったりするようになってしまう。これはとても残念なことだ。
「スパルタ式に部下を鍛える」場合には、テクニックと深い愛情が必要であり、それを欠いたスパルタが蔓延していることは、想像に難くない。そもそも、できる上司っていうのが少数派なのだから、必然的にそうなるのもよく分かる。それでも組織に属していれば、いつかはできる上司の元で働くチャンスも巡ってくると思って、なんとか耐えてほしいものだと思う。
いまだ“できる上司”に巡りあっていない人のために、彼らがどれほどすごいのかということを、僕が薫陶を受けた上司のことを思い出しながら紹介してみたい。
ワクワクすることや、「そりゃ無理だろ、そんなところに話を持っていけるはずがない」というようなことをいつも言い出す。そして、部下の僕らも思いきり振り回されるのだが、不可能に違いないと思えたことも、最後の最後には何とか着地させてしまう。
そして、やっと終わったと思ったら、また、とんでもないことを言い出すのだ。
仕事の期限というものは、たいてい何人かのサバ読みが重なって、真の期限より早目に設定されている。できる上司は、真のリミット、例えばそのリミットを超えると媒体の印刷が遅れてしまうというタイミングを熟知している。だから、部下の僕らが、「期限過ぎてます。これでOKください」と泣きをいれても無駄なのだ。
平然と「NO」と言う。もちろん、それで残業になる。残業は連鎖して、他部署や取引先にも影響するが、そんなことは関係ない。つもギリギリまでがんばって、最高の結果を出すことが必要なのだ。
そして、自分は、平然とした顔をして、さっさと帰ってしまう。
しかし、こうなると周囲もその上司の仕事は一筋縄ではいかないと分かっているので、自然と気合の入ったものになってくるのだった。
「それは、誰がゆうとんねん?!」というように問い詰められることが多かった。現場というものは変化を嫌うし、そもそもできる人たちの割合は一定数しかいないから、後ろ向きな姿勢の報告が上がってくることが多い。
そんなときは、「もう1回、聞いてこい」と怒るか、報告書を放り投げて自ら現場に駆けつけて直接話を聞く。
「課長、それは○○部が決めることじゃないでしょうか」などと言っても無駄である。
どんな上司も単独では仕事ができず、上からの指示、横との連携を図りながら仕事をこなすわけだが、できる上司というのは、自分が「最初に転がる石」になることが多い。
そうなるためには、自部署の守備範囲にこだわっていては仕事にならない。そしてもちろん、そんな越権行為も、たいていの場合は追認されて、会社は転がっていく。
仕事はもちろん、自分ではせず、すべて部下にやらせる。そして、上がってきた仕事に、ここがダメ、ここもダメ、最悪! などと文句をつけて突き返す。重要な文書もそんな感じなので、「そこまで細かく指示するなら自分で書いてくれよ」と文句のひとつも言いたくなる。
タッチタイピングができないために、全部部下にやらせているんだと疑いたくなるかもしれないが、そんなことはない。一点の曇りなく、それは部下の成長のために、そうしているのだった。
なぜなら僕がそう言えるかというと、僕の知っている複数のできる上司は、確かにタッチタイピングはできなかったが、両手の人差し指だけで、かなり高速に入力するワザをもっていたからだ。
仕事によっては、NOと言って突き返せない種類のものもある。
例えば、人事異動でステップアップした部下に仕事を与えたとき(初めてのマネージャーなど)、部下がその業務をこなせずにさまざまな不都合が生じても、じっと我慢してその結果を受け入れ、部下の成長を待つ。
できる上司は、部下の少々の不出来で、その評価が下がるようなことはない。
1つの催事を成功させて、鼻高々でいたことがある。
上司は僕の知らぬ間に、ライバル店に電話をかけて、その団体の内情を聞き出していた。
イケイケの部下がいる場合、できる上司は、そっと見守るだけでなく、リスクを回避することを自ら行っている。
できる上司は皆一様に、身だしなみ、グルーミングが完ぺきである。そして、男前であることも多い。
寝癖をトレードマークとしている亀井静香氏のような人は例外中の例外で、僕は会ったことはない。
若手の元気なのが、上司にガンガンモノ申す。上司は黙って聞いている。そういうことは、ままある。できる上司は、それを議論しても無駄であることをよく知っている。
ただ、聞き流し、「部下に議論で負けた」と思われることも甘受する。そして、徹頭徹尾、現実的な行動をとる。
できる上司は女子社員に人気が高く、バレンタインデーの日はデスクがチョコレートであふれかえる。悔しいが、これも事実だ。ある上司は、「本気のカードが入っていたら困るから、家に持って帰るまえに、全部開けてチェックしろよ」と教えてくれたが、僕にとってはいらぬ助言だったようだ……。
アンティーク・リサイクル着物を国内外へ販売する「ICHIROYA」代表。昭和34年生まれ。京都大学水産学科卒業後、大手百貨店に入社。家庭用品、販売促進部など。19年勤めたのち、2001年に自主退職して起業。現在に至る。趣味はブログ執筆。
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