仕事術の本を読まずに肉を食え――元トリンプ社長が説く「脱・社畜」道企業家に聞く【吉越浩一郎氏】(1/2 ページ)

『「社長」を狙うか、「社畜」で終わるか。』の著者で、トリンプ・インターナショナルの元社長・吉越浩一郎氏が、若手ビジネスパーソン、そして経営者に向けたメッセージとは。

» 2014年03月06日 12時00分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]

 前編「社長を目指せばうまくいく――元トリンプ社長が説く『社畜』からの逆転術とは?」に続き、トリンプ・インターナショナルの元代表取締役、吉越浩一郎氏に話を聞いた。

 コーヒー機器メーカーのメリタを経て、女性下着メーカーのトリンプ・インターナショナルで代表取締役を務めた同氏は、社長在任中に「残業ゼロ」を掲げ、それを100%実施しながら19期連続で増収増益を記録するなど、卓越した経営手腕の持ち主として知られる。長い海外経験があり、ITに関心が高いことでも有名だ。

 そんな吉越氏が2013年末に出版したのが、『「社長」を狙うか、「社畜」で終わるか。』だ。立身出世という言葉が遠く感じられる現代に、なぜ「社長を狙え」と説くのだろう?

吉越浩一郎氏

仕事術の本は読むな

まつもと: 書籍には「仕事術の本を読まず肉を食う」というパートもありました。読書はお勧めだけど、すぐに役立つという理由で仕事術のような本ばかりを読むなと。

吉越氏: 本に書けるような仕事術は、前半でお話ししたように現場で必死に働けば自然に身に付くものです。それに、ろくに実務で実績を残していないような筆者が書いたテクニックが本当に役に立つのかも怪しいじゃないですか。仕事にひも付いた情報が欲しいのであれば、業界紙を読むことを勧めます。実際、それがきっかけで契約した倒産保険が会社の危機を救ったことがありました。

 「社長を狙って」働く上での力は、体力・気力(やる気)・能力の3つに大分されます。そして、いくら仕事術を身に付けても土台となる体力・気力がなくては十分に生かすことができません。だから、土日も遊べる体力を付けなさい、そのために肉を食べなさいと言っています。年をとると医者は止めるんだけど、野菜ばかりじゃ力がでないでしょう(笑)。

書籍『「社長」を狙うか、「社畜」で終わるか。』より

まつもと: ジャック・ウェルチが提唱する4E――Energy(気力や体力)/Energize(力を与える)/Edge(競争し困難に立ち向かう)/Execute(実行)に加えて、Ethic(倫理)を加えた5Eを繰り返し強調されているのも印象的でした。

吉越氏: そうですね。結果を求めるあまり、例えば在庫をごまかすといった不正があってはなりません。それで地位を失った人もたくさん見てきました。4Eは大事なのですが、倫理なき4Eにはそんな危険も付きまといます。私の場合がそうであったように、尊敬できない上司からでも、倫理の大切さを反面教師として学ぶことだってできるのです。

まつもと: そういった反面教師も含め20代では仕事の仕方を学ぶフォロワーシップ、30代でチームを率いるリーダーシップ、40代で組織を束ねるアントレプレナーシップを身に付けることを勧めています。特に日本では「起業家精神」と訳され、リスクを好んで取りに行くというイメージも強いアントレプレナーシップを、「常に全体最適を考えて最適なジャッジメントを下せる人間」と定義されています。

吉越氏: もちろん10歳ごとにテーマががらりと切り替わることはなくて、オーバーラップしながらではありますが、重点項目としてはその通りです。そしてアントレプレナーシップについては、日本では大きな誤解があると思います。

 イノベーション=創造的破壊とアントレプレナーシップがセットで語られることが多い印象がありますが、日々のビジネスは改革の連続であって、それが変革と呼べる規模になったときにイノベーションって呼んでいるんだと僕は捉えています。イノベーション自体を目的とかスローガンにするのは、何か違うのではないでしょうか。本には、かつての日本海軍の失敗もこのアントレプレナーシップの欠如にあったのではないか、と書きましたが。それは残念ながら現在の日本のビジネスにも受け継がれてしまっていると思います。

まつもと: 「決断」を下さないといけない状況に陥ってしまっては社長失格と書いていたのも大事なポイントですね。

吉越氏: 普段の仕事は社員に任せ、社長の仕事は重要なことを決断することだと言う人がいますが、全く間違っていると思いますね。社員が的確に仕事で成果を出すためには社長こそが素早く判断を下し、方向を明確にすべきです。そのスピードを出せるための体制作りと、経営指標のリアルタイム開示など、その判断の根拠がいつでも誰でも確認できる仕組み作りこそが社長の仕事なんです。

 最近になって、ユニクロの柳井さんが直接役員とやりとりをするセッションに出席したことがあります。彼はまさに「常に全体最適を考えて最適なジャッジメントを下せる人間」としてのアントレプレナーシップを体現していました。私にも「吉越さん、それは違う」と指摘されたものですよ(笑)。彼がやっていることはイノベーションじゃなくて、日々刻々、断続的なアントレプレナーシップの発揮なんですよ。私もそうですが、決して部下に好かれるタイプの経営者ではないと思います。全体最適を考えれば厳しい判断も、それこそリストラだって厭わない。でも、それがアントレプレナーのあり方だし、仕事は辛くて苦しいものとなって現われるのもそのためなのです。でも結果を出し続けることができると部下も付いてきてくれるようになるのです。

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