社長を目指せばうまくいく――元トリンプ社長が説く「社畜」からの逆転術とは?企業家に聞く【吉越浩一郎氏】(1/2 ページ)

女性下着メーカーのトリンプ・インターナショナルの元社長・吉越浩一郎氏は、全員が社長を狙えと説く。その中には合理的な自己実現のための技術と社会へのメッセージが含まれている。

» 2014年02月28日 12時00分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]

 連載『企業家に聞く』、今回は『「社長」を狙うか、「社畜」で終わるか。』という刺激的なタイトルの本を出版した吉越浩一郎氏に話を聞いた。

 コーヒー機器メーカーのメリタを経て、女性下着メーカーのトリンプ・インターナショナルで代表取締役を務めた同氏は、社長在任中に「残業ゼロ」を掲げながら19期連続で増収増益を記録するなど、卓越した経営手腕の持ち主として知られる。長い海外経験があり、ITに関心が高いことでも有名だ。

 立身出世という言葉が遠く感じられる現代に、なぜ「社長を狙え」と説くのか? 一見マッチョにも聞こえる主張の中には、実は合理的な自己実現のための技術と社会へのメッセージが含まれている。

吉越浩一郎氏

「社畜」と自らを嗤うなかれ

まつもと: 『「社長」を狙うか、「社畜」で終わるか。』は、社畜ではなく社長を目指せという主張が展開されています。自虐的な「社畜」がよくないのは分かるのですが、この雇用が不安定な時代に「社長を狙え」というのはとっぴに感じる読者も少なくなさそうです。

吉越氏: 最初に言いたいのは、まさにこんな時代に会社が定年退職まで残っていると思うか? ということですね。「社畜で構わない」と言う人には、では10年、20年後に今いる会社がなくなったとき、ほかに働ける場所がありますか? と聞きたい。実際、バブル崩壊やリーマンショックで行き場をなくして音信不通になった人をたくさん知っています。

 社畜で居続けるということは、その会社の仕事の方法に唯々諾々(いいだくだく)と従う、ということですよね。そこでしか通用しないやり方やスキルでは、市場のニーズとはかけ離れた人材になってしまい、取り返しのつかないことになりかねません。そもそも雇用形態の流動化が世界的に叫ばれる中、正社員で1つの会社に居続けられる、というのはもはや幻想にすぎないのです。

 そして、社会全体で見たときはやはり「若い人に頑張ってほしい」という思いがあります。日本には競争で優劣をつけることを善しとしない風潮があります。例えば徒競走で皆横一列になってゴールするとか、です。わたしの妻はフランス人ですが、社会の現実はフランス語でいうところの「コンクール」の連続なんです。社畜とは、そういった現実(競争)から目をそらす言葉でもあるし、逆に現実を直視しない人には僕から「君は社畜だ」と言ってあげようと。そこにとどまってほしくないからね。

まつもと: なるほど。一方で、現実を冷めた目で見る若い人にとっては「でも、社長を狙うなんて」という反応も出てきそうですが。競争が嫌だというよりも、確率的にどうだ、という面で。

吉越氏: 確かに僕も学生時代、大手企業の内定をもらったときに「でも規模が大きすぎて、僕は社長になれない」と考えて辞退したこともあります(笑)。でもね、僕は社長になれないって思うんだったら、その会社は辞めたほうがいい、と思っているくらいなんです。つまり、自分の能力で自分のビジネス、すなわち人生を100%コントロールできる将来像が描けないんだったら、別の道を探るべき。1人で独立すれば即社長だしね(笑)。もちろんその能力がないとダメですよ。

 会社に身を置く、というのはそのための経験と能力を学ぶ唯一無二の機会なんです。でも、「社長を狙う」意識を持っていなければ、目の前にあるその機会をみすみす逃すことになる。社畜なんてその最たるものですよね。自虐的になっても誰も得をしないんです。

まつもと: 本書終盤では「世界に1つだけの花」は甘えだ、と指摘されています。

吉越氏: 何を持って「1つだけの花」なのか、ということに自覚を持て、ということですね。世界で「それはお前にしかできない仕事だ」と認められなければ、それはそこに花が咲いているとは認められないのが現実です。そして認められるためには、どこで咲くかという見極めも含めてやはり努力が欠かせない。「置かれた場所で咲きなさい」というのは、咲くのが難しい場所でも一所懸命咲くからその花は美しいと認められるのです。

まつもと: 競争やコンクールは勝者と敗者を分けます。そこで脱落したくない、という思いから競争を避ける傾向というのもあると思いますが。

吉越氏: 誰だって、それこそ有名なスポーツ選手だって落ちこぼれることは避けられません。そんなとき、他人ができるのは「頑張れ」と言うくらいです。最近は励ますのもダメだっていう人もいますけどね(笑)。敗北からいかに立ち直れるかが、その人の人生を決める。始めから挑戦をしない人は、もう救いようがない。本書で書いたように、僕もある意味会社を追われるような経験もしていますが、そこから足場を探すべく懸命に努力しました。

 この話は国レベルでも同じで、グローバリゼーションが進む中、国同士も否応なく競争と選別に晒される。70億人中の1億人が困ったところで世界は手を差し伸べてくれないのが現実です。最近の周辺国との衝突への反応がそれを物語っています。だから次世代を担う若い人たちにあえて「頑張ってほしい」と繰り返しています。

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