電子書籍の出版プロセスを図解するプレゼンがうまい人の「図解思考」の技術

私たちは情報をインプットして、理解し、記憶するときには必ず「絵」にしています。今回は筆者が原稿を書いて、本が読者に届くまでの出版ビジネスを図解してみます。

» 2014年02月27日 11時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 前回「ビジネスモデルは図解でスッキリ」では、ビジネスモデルを描くというテーマで、私たちをとりまく身近な商売をシンプルな形で表現してみました。商売の形(=すなわちビジネスモデル)とは、何の価値を提供して、いくら対価をもらうかを四角と矢印で表した図です。

 ところで最近、印刷会社さんで図解思考を教えることがありました。印刷を代表するビジネスといえば、本の印刷です。私は本を執筆していますが、それを出版社が編集し、印刷して本にして、流通会社を経由して書店に並び、読者が購入します。

 この出版ビジネスを書いてもらったのが、以下の図です。簡略化するため、本の価格を1000円として印税を10%、印刷代を1冊当たり350円、出版社⇒卸売を70%、卸売⇒本屋を80%と仮定しています。

 簡単ですね。そして、出版ビジネスの流れとともに各プレーヤーが得る儲けも一望できます。

電子書籍の場合は?

 ところが、この出版ビジネスに風穴をあける新しい業態が出てきました。そう、電子書籍です。

 今やAmazonだけでなく、さまざまなメーカーやコンテンツ会社、そしてAppleやGoogle、楽天などのプラットフォーマーが電子書籍で存在感を示そうと躍起になっています。当たり前ですが、電子書籍になると印刷はおろか、本の流通会社やリアルな小売店が不要となります。既存産業の破壊的イノベーションの1つといっていいでしょう。

 さて、ここで問題です。あなたは電子書籍の値段はいくらが妥当と考えますか? 先ほどのモデル図を描いた人であれば、割とすんなり思い付くでしょう。というのも、図にすれば電子書籍になっても残るプレーヤーと不要になるプレーヤーが明確になるからです。論理的に考えれば、電子書籍になっても残るプレーヤーにとって、紙の本であっても、電子書籍であっても儲けが同じであれば、新しい価格に賛同できるはずだからです。

 先ほどのモデル図では、電子書籍になっても必要な要素は著者、出版社(本の構成を考えたり、読者視点に立って修正をする作業は必要なため)、読者です。さらに電子書店(サイト)が必要です。そして、著者と出版社の取り分が紙の本と同じ100円+250円=350円とすれば、これが仕入れコストから考えられる最低価格でしょう。電子書店の取り分は物理的な本屋に比べて抑えることができます。そういった意味では、電子書籍は350円+αで提供できることになります。

 電子書籍は物理的な複製コストや流通コストがない分、非常に安くできることは容易に想像できます。しかし、日本の電子書籍は上図のような驚くような価格にはなっていませんね。これは何が原因なのでしょうか?

 1つは、先ほどのシミュレーションは電子書籍が紙の書籍と同じ部数売れることが、前提の計算だからです。スマートフォンやタブレット、電子ブックリーダーを持つ人が増えたとはいえ、紙の本を買うほどの気安さはまだありません。電子書籍の部数が紙の本の半分しか売れないとすれば、仕入れは2倍になります。紙より電子が中心となるまでは、思い切った価格を付けるのは難しい出版社も多いのでしょう。

 もう1つは、紙の本と電子書籍が混在する世界にあっては、現実のビジネスパートナーに不利なアクションを派手にやりづらい点もあるからです。

 いずれにせよ、音楽CDと同様にあらゆるコンテンツの世界で電子化による旧ビジネスモデルの破壊が起こっています。こうしたときに、次にどのようなポジションが有効なのか、既存のプレーヤーはどこでどのように勝負すればよいのか? 図解思考でビジネスモデルをまとめると、不確定性の高い将来の見通しが少しずつクリアになってくるのではないでしょうか?

筆者からのお知らせ

いつもはゲスト限定の図解思考のワークショップですが、5月にオープンな形で行います。個人の方も参加できますので、ふるってご参加ください。

詳細URL: http://www.nikkei-nbs.com/nbs/seminar/140510EB.html


集中連載『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』について

『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』 『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』(永田豊志・著、中経出版・刊、A5判/208頁、本体1500円)

 パワポの前に「図」で考える――。ベストセラー『頭がよくなる「図解思考」の技術』の第2弾となる本書は、プレゼンテーションの根幹とも言える「メッセージをどう作り、どのように伝えるのか」を図で整理する方法を解説しています。

 「見栄えのいいスライドを作ること」や「説得力のある話し方をすること」も当然大事ですが、プレゼンの目的(メッセージ)そのものが洗練されていなくては、聞き手の心には届かないからです。営業プレゼンテーションや講演に限らず、ちょっとした説明や商談、または報告などにも応用可能で、あらゆるビジネスシーンで活躍するはずです。


目次

  • 第1章:残念なプレゼンは、なぜ眠たくなるのか?…面白いプレゼンの秘密とは?
  • 第2章:考えがスッキリまとまる図解プロットの技術…自分の考えを整理する方法
  • 第3章:「合体ロボ作戦」でシナリオに磨きをかける…プレゼンの流れを作り出す
  • 第4章:魅力的なスライドラフを描いてみる…ハイクオリティなラフ描きの技術を公開
  • 第5章:図解プロットに挑戦!…実際に、考えをまとめ、シナリオを作り、ラフを描く
  • 第6章:魅力的なアイデアを作り出す10のテクニック…使えるアイデア発想法

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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