ボールペンとシャープペンシルを合体させた筆記具「シャーボ」が誕生してから37年。“究極のシャーボ”を考えるユーザー参加型ワークショップが開かれた。こだわりが強いヘビーユーザーの生の声を聞いた、開発チームの新たな挑戦が始まろうとしている。
「右へまわすとシャープペンシル、左へまわすとボールペン」――このキャッチフレーズに聞き覚えのある人も多いだろう。シャーボが世に出たのは1977年11月、安価な筆記具から高機能製品にシフトしつつある時代に即して高級路線で売り出した。発売からわずか4カ月で80万本以上を出荷。37年が経過した今では、50以上のシリーズが登場し、販売数は7000万本に上る。
「この商品をさらに改良し、新しいシャーボを作り出し、ブランド力を以前のように高められないか」――そんな思いから2013年、「究極のシャーボ」を作り出すプロジェクト「シャーボブランドチーム」が発足、ユーザー参加型ワークショップ「『シャーボ プレミアムナイト』〜究極のシャーボを考えよう!」が2月13日に開催された。
場所は表参道にある「文房具カフェ」。文具好きたちが集うカフェとして有名だ。
イベントには文房具カフェオフィシャル会員とその友人が参加した。募集人数は男性12名、女性12名の計24名。欠員に備えて27名で応募を締め切ったが、平日夜にもかかわらずキャンセルはなく、参加者のモチベーションの高さがうかがえた。
テーブルごとに6チームに分かれて「究極のシャーボ」を作るためのアイデアを出し合い、まとめた上でプレゼンする――それがこのワークショップの内容だ。プレゼンの内容は“トップシークレット”。参加者がイベント中にツイートすることも禁止された。イベントで出されたアイデアを本気で開発に活用する姿勢がうかがえる。
ワークショップの前に、開発チームからシャーボの歴史が語られた。前述のように、シャーボが誕生したのは1977年。日本は高度経済成長を経て、市場のニーズは「最低限の必要を満たす製品」から「付加価値のある高機能な製品」へと移り変わっていた。そのころのゼブラは、ペン先メーカーから、ボールペン、蛍光ペン、油性ペンなどを販売する総合筆記具メーカーへと転身中だった。
しかし、「総合筆記具メーカー」になるためにはまだ足りないものがあった。シャープペンシルと高級品のラインアップだ。
市場が求める高機能な製品を開発していたゼブラが悩んでいたのが、2色ボールペンの不具合だった。軸をねじることによって2色芯を切り替えるボールペンを開発していたが、ボディの上部と下部の接合部がガタつく、という不良をどうしても改善できずにいたのだ。回したい……でもガタつきが直せない……。
そこで出てきたのが、「どうせガタつくんなら、ボールペン2色ではなく、片方の芯をノック式の必要なシャープペンシルにしてしまえばいいのでは?」という逆転の発想だった。かくして、シャーボは誕生した。
価格は1000円から1500円になる予定だったが、ゼブラのブランド力を高めたいという社長の思いを反映して高級感のあるボディを採用。シンプルタイプは2000円、ボディに彫り込みを入れて、より高級感を出したものは3000円で販売されることになった。社内でも、販売店でも「そんな高い筆記具が売れるはずがない」と前評判は良くなかったが、ふたを開ければ、発売後4カ月で80万本という大ヒット商品に。
生産が追いつかず、取引先を回る営業マン同士で争奪戦が繰り広げられたり、ほかの業務を中止して組み立てを行う部署が続出したという。また、11月に販売開始してしまったがゆえ、忘年会を返上しただけでなく、除夜の鐘を聞きながら生産に携わったという秘話も明かされた。
そんなシャーボも誕生から37年。50種類、200以上のタイプを発売し、累計7000万本を売り上げた。国民の約2人に1人が持っている計算だ。
初代シャーボから30年経った2007年には、ゼブラの用意したさまざまなリフィル(替え芯)を使い5万通り以上の組み合わせができるというSHARBO Xも誕生。スパイラル式ノートのリング部に挿せるほどのスリムタイプから、3色ボールペン+シャープペンシルという高機能・高級タイプまで豊富なラインアップを備えている。
女性向けにデザインされた3000円のモデル、所有欲をくすぐるぜいたくな限定色タイプ、さらに40代、50代のビジネスパーソンからも圧倒的な人気があるキャラクター・スヌーピーとコラボした限定品も登場。5000円、6000円と筆記具としては高価であるが、会場内にも「持ってる!」「買いました!」という声が飛び交うほどの人気ぶりだ。
しかし、と担当者。「社内にいる限りは、ユーザーとしての立場に立ちづらいところもあります。もっと良く出来るはずなのに、という思いがあり、皆さんにお集まりいただきました。既存のシャーボの良い点も悪い点もぜひ教えて下さい。そして皆さんが『欲しい』と思うシャーボを考えていただきたいのです」
こうして“究極のシャーボ”を考え出すチームディスカッションは始まった。このワークショップのように、製品を愛するヘビーユーザーと協力して新製品を考えることで、企業は新たな発想が、ユーザーはアイデアの製品化という喜びが得られる。ユーザーに楽しんでもらいながらポジティブな意見を引き出す――。こうしたユーザー視点に立ったモノ作りが、愛される製品を作り続ける秘けつなのだろう。
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