やりたいことを具体化する3段階のリサーチ発想をカタチにする技術

面白いことを見つけるために欠かせない「リサーチ」。新しいアイデアを生み出すリサーチ術とは?

» 2014年02月13日 11時00分 公開
[吉田照幸,Business Media 誠]

集中連載『発想をカタチにする技術』について

 本連載は、2013年11月14日に発売した吉田照幸著『発想をカタチにする技術 新しさを生みだす“ありきたり”の壊し方』(日本実業出版社刊)から一部抜粋、編集しています。

 どんな会社でも、面白いことは始められる! あの「サラリーマンNEO」を生み出し、「あまちゃん」を担当した異色のNHKディレクターの仕事術!

 面白いアイデアを思い付いても、それを伝えて思惑通りに実現していくのはなかなか難しいもの。ともすると「前例がない!」「そんなのできない!」という声にかきけされてしまいます。

 そんな中で、会社からも多くの人からも認められるものを作るには「きちんと人に伝えること」「自分の意思を通すこと」でも「独りよがりにならないこと」が大事です。

 さらに、そのアイデア自体が画期的であれば、一番です。本書では、30代まで芽が出ず退職を考えていたという、異色のNHKディレクター吉田照幸氏(2013年9月よりNHKエンタープライズ)の番組制作での経験を交えながら、尖っているのに愛される企画の作り方や通し方、アイデアの発想法などを紹介します。


 何か企画を立てるときに、漠然としたリサーチからはじめる人、いませんか?

 世の中でウケてるものは何かなー、売れてるものはナニかなー、これでは絶対新しいアイデアは生まれません。そもそもそれで生まれるなら、世の中、新しいアイデアだらけです。アイデアは声にならない声を実現させることです。

 では、リサーチは必要ないか? そんなことはありません。

 僕は、3段階のリサーチをしています。

第1段階 直感を刺激するリサーチ

本屋巡り

 主にアイデアが見つからないときにやります。自分の心を空っぽにして、何か面白いものないかなーと、本屋やYouTube巡りなどをします。大事なのは、「今、流行っている」「他の人々がウケている」といった情報をカットすること。自分の心に響くかどうかが鍵です。

 これは、自分でも気づいていない自分の中にある面白いものや、やりたいことを、リサーチするプロセスです。些細なことやバカなことを見逃さないでください。ハッと思ったこと、ドキッと感じたことには何かあります。

第2段階 直感を具体化するリサーチ

 「何を面白いと思ったのか」「何を取り上げるか」という狙いが決まったら、今度はそれを広げるためのリサーチをします。

 例えば、NEOには、「世界の社食から」というコーナーがありました。これは、「世界の車窓から」のパロディで、世界各地の社食を訪ねるというVTRコーナーです。ちなみに、タニタブームも、「世界の社食から」のタニタの回を見たある編集者が本を作ったことからはじまりました(そしてその本はあんなベストセラーに。きっと、この本はその500分の1も売れないはず……)。

食堂 (写真はイメージです)

 少し脱線しましたが、「世界の社食から」なら、世界にはどんな社食があるんだろうと調べます。昨今、インターネットで検索できるので比較的容易な作業です。僕らも調べはじめたときにすぐ、シリコンバレーの社食を回ってブログにアップしている人を見つけました。その中にグーグルがあったのです。当時ちょー話題の企業。しかも日本のテレビ局が入ったことはありません。ダメ元で交渉しました。なんとOK。日本で初潜入の快挙です。

 多分、あのとき、世界の有名企業の社食を調べていたテレビクルーは僕たちだけだったんじゃないかと思います。

 「面白さ」がはっきりしてからはじめるリサーチは、ユニークなものを生みます。考えてみてください。イケてる会社はないかなーと探す。グーグルに行き着く。では、グーグルをどう表現するか? ま、グーグルだけで話題なんだからいいか、ってことになりがちです。

  • 急成長するグーグルを紹介
  • 急成長するグーグルの社食に潜入

どちらが、「やりたいこと」が分かりやすいでしょうか。

 面白さがはっきりしているリサーチは、自然とユニークな視点で物を見ています。ただ、イケてる会社を探そうとググっても、膨大なネタが集まるだけで、かえって切り口は見えなくなります。

 面白いことが分からないまま、闇雲に調べて材料を集めないこと。やればやるほど、面白さが見えづらくなっていきます。無駄と感じても、第1段階のリサーチをやってみてください。心に触れたものからスタートしてください。自然とユニークな視点が生まれます。

第3段階 さらに深める内的リサーチ

 材料が集まり、プロジェクトが進行しはじめ、ある程度材料がそろったら、一旦立ち止まり、自分から離れ、自分の心がどう反応するかをリサーチします。

 前述の「世界の社食から」はウケました。特に最初は話題の企業が多かったので、その人達が食べているメニューは興味深かったのだと思います

 ただ、何かそのとき心に引っかかりを感じました。「どこか違う気がする」。

 もう一度「世界の車窓から」を見直しました。「世界の車窓から」は長寿番組です。何か秘密があるはずです。

 そして、「は!」と気づきました。思ったより風景が映ってない。ほとんどが、その土地で暮らす人々の表情で構成されているのです。「世界の車窓から」とはいうものの、風景ではなく、人の表情の豊かさがこの番組を支えている魅力だと感じました。

 そこで、自分の心を探ります。「あ!」と気づきました。実際にロケに行っている自分も、メニューよりそこで働く人の姿に魅かれていることに。

 以後はメニューにはそれほどこだわらず、社員が食べているカットを多めにしました。リラックスした社食の環境は、社員の方の自然な表情を引き出し、社風が現われています。松下電工とソフトバンクでは、まるっきり違います。

 このリサーチをせずにメニューにこだわり続けていたら、この企画の命は、長くはなかったと思います。基本的に社食のメニューは大したことはないのですから。

 世界の社食は、ヨーロッパ、アジア、南米まで足を伸ばし、世界各地の働く人々の表情を伝えてきました。途中で制作費が厳しくなったので、今度は色々な日本企業を巡りました。我ながら本当にいい企画だと思います。逆に以後これを超えるVTR企画が生み出せなかったことにじくじたる思いも感じます。

 ま、それはともかく、面白さが見えたら、一度「これ、なんで面白いんだろう」と、自分の心をリサーチしてみましょう。狙いをもって道を進め、本質を深く掘り下げる、これがリサーチのコツです(正直無駄が嫌いなので、こうなったのかもしれませんが……)。

今回のPOINT

「面白い」と思ったことの本質を見つけ出そう


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