留学しても、ほかの会社へ行ってもOK――“辞めても戻れる”人事制度を作ったサイボウズ

高い離職率を劇的に改善させたサイボウズが新たに導入したのは、なんと「社員が会社を辞めやすい」制度だった。退職後、6年間復帰可能な「育自分休暇」という制度が生まれた背景やその活用のされ方、同社が目指す理想の組織像について、社長の青野慶久氏に聞いた。

» 2014年01月07日 11時00分 公開
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 さまざまな人事制度を整えることで、社員個人個人の求めるワークスタイルを実現し、一時は28%まで高まった離職率を4%まで低下させたサイボウズ

 しかし同社は2012年、一風変わった「育自分休暇」という制度を導入した。35歳以下のエンジニアやスタッフを対象にした、“転職や留学など、環境を変えて自分を成長させるために利用できる”制度で、利用者には「再入社パスポート」が交付され、退職後6年間は復帰が可能というものだ。

 「人事制度は常に変わっていくもの」と語るのはサイボウズの人事制度改革を推進してきた青野慶久社長。離職率の大幅な改善に成功したサイボウズはなぜ「育自分休暇」という、一見すると退職を促進するような制度を作ったのだろうか? その背景と活用のされ方、そしてサイボウズが目指すという多様性を受け入れる組織づくりについて、同社社長の青野慶久氏に聞いた。

「辞めやすい人事制度」があってもいい

―― 昨年、「育自分休暇」という、一風変わった制度を作られたそうですね。

青野社長: ある新卒の若手社員とランチを食べながら話をしている際、彼はこう言ったんです。「僕はサイボウズが大好きだし、この環境で成長できているけど、他の会社も見てみたいと思ってるんですよね……」と。

 その気持ち、分からなくもないと思ったんです。私も転職を経験した身ですし、新卒で入った会社にずっと居続けるのが当たり前の時代ではないですよね。

 彼のような気持ちを持った社員に、どんな制度を整えられるかを考えた結果、できたのが「育自分休暇」になります。

 その名の通り、自分を育てるためにサイボウズを一度離れる制度。この制度を作った“副作用”なのか、一度サイボウズを退職したエンジニアやスタッフが6人も戻ってきてくれました(笑)

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―― 制度はどんな形で利用されているのでしょうか?

青野社長: まだ1年程度の運用ですが、さまざまな使い方をされています。この夏に育自分休暇を利用して退職した女性社員は青年海外協力隊に参加し、2年間ボツワナに単身赴任するそうです。

 このような活動にチャレンジしやすくなるようにできたのも、育自分休暇制度を整えた一つの功績かもしれません。

ちょっと変な技術者やスタッフが集まる組織ほど面白い

―― それはすごい! しかし、社員個人としてはいいコトずくめに感じますが、会社側の狙いはどこにあるのでしょうか?

青野社長: 例えば、彼女が戻ってきてくれる時には間違いなく既存の社員が持ち合わせていない経験と感覚を身につけているはず。そうした人材をチームの一員にできると必ず組織は強くなります。

―― 「多様性のある組織」という話にもつながりそうですね。

青野社長: 以前CAREER HACKで多様性のある組織としてGoogleが取り上げられていましたが、サイボウズもまさに同じ考え。ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(受容性)を備えた組織を目指しています。

―― サイボウズはなぜ、多様性のある組織を目指すのでしょうか?

青野社長: 私は以前、社員が2万人もいるメーカーに勤めていたのですが、当時は中途採用者がほとんどいない、新卒で入社した人が定年まで勤め上げるという、いわゆる“日本的な”企業でした。

 そこで社員はどんな働き方をしているかというと、ほとんど皆、同じ人生を歩むんですね。入社と同時に社員寮に入り、20代後半から30代前半には結婚して社宅住まいに。40代で課長になると、子どもが大きくなりマイホームを購入する。というような。

 そんな、皆が同じ価値観、労働観で埋め尽くされた環境でイノベーティブなモノづくりができる感覚がまったく沸かなかったんです。

 この見解は僕の価値観によるものですが、ちょっと変な技術者やスタッフが集まる組織ほど面白い、素晴らしいモノが生まれるんじゃないかと思うんです。

Photo サイボウズには毎日着物で出社するエンジニアもいる(中央)

青野社長: 当然ですが、元々どんな人でもまったく異なる人間。価値観も違うし、その時々によって最高のパフォーマンスを発揮する働き方も違ってくる。にも関わらず、すべての社員を会社の都合で同じルールに縛り付けておく事自体、おかしな話です。

 サイボウズはチームワークをテーマにした会社。自社サービスを世界一のグループウェアにしていくためにも、自分たち自身が多様な人を受容し、最高のチームワークを発揮できるような環境をこれからも整えていきたいと思っています。

取材・文:松尾彰大

撮影:梁取義宣

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