―― 具体的にどのような制度を作られたんですか?
青野社長: 仕事を重視する人、仕事とプライベートを両立させたい人、残業をなくすことで、家庭や社外の活動にも積極的に参加する人――といったように、それぞれライフスタイルの変化に合わせて働き方を選択できる「選択型人事制度」を導入しました。
具体的な働き方として、「在宅勤務制度」や時間や場所ではなく成果や生産性をより重視する「ウルトラワーク制度」も用意しています。
現在では社員が自分に合ったさまざまな制度を積極的に利用していますが、最初からうまくいったわけではないんです。これまでみんなが同じ働き方、残業が当たり前の組織でしたから、新しい制度だけつくってもなかなか利用されないんですよ。
人事制度は少しずつ成功事例が出てきて、社員に浸透していくもの。例えば、残業しない制度を妊娠中やお子さんがいる人だけではなく、働きながら定時後に学校に通う人が活用しはじめると、「あの制度はこんなふうに使えるんだ」という良いウワサも出る。
マネジメントする側も、こうやって仕事を振り分ければチームがうまく回る、という体験を社内で共有したり。そういう多様な制度を活用する人たちを受け入れる組織文化を醸成することで、制度が本当の意味で活用されることを学びましたね。
―― 特に効果が高い施策はどのようなものなのでしょうか?
青野社長: 珍しいものではないかもしれませんが、2005年から始めている『社内部活動』の促進制度はコミュニケーションの活性化に非常に貢献していると感じます。
年数回の活動報告書の提出と、複数の部署に所属する5人以上の部員で構成されていれば、どんな部でも設立でき、補助を受けられるものです。
社員数が毎年数十%で拡大していくと、組織はどうしても縦割り構造になってしまいます。横串のつながりを形成する部活動が積極的に行われることで、部署間の連携が容易になり、全社の業務スピードアップにつながっています。
余談ですが、部活動が活発になると社内恋愛……社内結婚が非常に増えるんですよ(笑) サイボウズには30組60名の社内夫婦がいて聞いたところによると結婚予備軍も多数いるらしいんですね。
会社としても、パートナーがサイボウズで働いていることをお互い良しとしたということ。離職率の改善だけでなく、「社内恋愛が増えた」なんてことも制度がうまくいっているポイントの一つかなと考えています。
―― 企業がさまざまな制度を整備する一方、社員からすると使いづらく利用されないケースも多いと耳にします。きちんと“活用”される制度を生み出すポイントは何なのでしょうか?
青野社長: ボトムアップ型で制度づくりすることでしょうか。
以前、小さな子どもを持つ社員から「託児所がなかなか見つからず、すごく困っている」という相談をいくつか受けたんです。
そこで、社長自ら「会社に託児所を作ろう! 会社に子どもを預けられると安心だし、仕事にも支障が出にくいでしょ」と提案したんですね。
すると社員から直接「通勤ラッシュを避けられない東京のどまん中に、小さな子どもを連れてくることがどれだけ大変か!」という反応を受けたんですね。トップダウン型で、制度を整備したところで、なかなか社員のニーズに合ったものは生まれないと私自身も経験しましたよ。
またポイントとなるのは、制度が完成するまでのプロセスを社員全員に共有し、制度設計の段階から自分事化させることだと思います。
社員が求める制度のニーズを吸い上げて、どうしたら可能になるか? その制度は本当にサイボウズの向かうべきベクトルに合っているのか? と、妥協せず検討していきます。
社員に求めているのは「質問責任」を果たすこと。制度にかぎらず、経営や目標まで何でも疑問に思ったら果たすべき義務として人事や上長、社長である私に質問すること。それに対して私たちは必ず説明責任にを果たすと。お互いが義務を果たすことで信頼関係が生まれ、よりよい制度、組織が生まれるはずです。
今後も、会社の目標達成に寄与するため、よりよい会社にしていくために誰にとってもよりよい環境にみんなでしていく。これに尽きますよ。
取材・文:松尾彰大
撮影:梁取義宣
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