「君はボールを投げたら拾ってくるワンコ。それだけ」――ぶら下がり社員を変えたひと言続「新・ぶら下がり社員」(2/3 ページ)

» 2013年09月30日 12時00分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

環境を変えても一緒だった

シェイクの吉田実代表

吉田 自分から環境を変えてみて、どうでしたか?

上口 結論から言うと、変わりませんでした。よくマイナスな理由で転職をすると、それは結局逃げでしかないから変わらない。人間関係で悩む人は新しい会社に行ってもまた人間関係で悩み、それでまた転職をして、逃げ癖が付く――というようなことを言いますよね。

 3つ目の編集部への異動はいわば転職のような感じでした。周りの人もほぼ初対面ですし、何よりも文化がまったく違います。最初はそれだけで戸惑い、あとは上司との人間関係で悩みました。これまでになかった経験です。

 変われると思っていたはずの異動が、むしろ逆に働いたような。これまで最低限守ってきた自分の中でのルール(上司に与えられた目標値は守る)でさえ達成できない、自分は無能な人間だ、とさえ思いました。本当なら年齢的にも第二新卒で転職のチャンスもあったのかもしれません。しかし現職への異動に関しては自分の意思できたわけですし、ここで辞めたら「完全に逃げだな」と思いました。そう思ってまた、「辞めません、でも頑張りません」というぶら下がり社員になっていったのです。

吉田 でも今は変わったのですよね? 何があったのでしょう?

上口 あるとき、見かねた上司が「こうすればいいよ」とアドバイスをくれたんです。要は仕事のやり方を教えてくれたといいますか。よく考えれば前の編集部では上司が「これやればいいよ」と与えてくれて、それに応える、という仕事の仕方をしていたんです。それまであまり指示をくれなかった上司が自分のことを見てくれていた、そう思った瞬間でした。

 同じようなタイミングで、同じ編集部の先輩にある一言を言われたんです。

 「言い方悪いけど、君はボールを投げたら拾って主人に返すワンコだよね。でもそれだけ。何をやっているときが楽しいの?」

 正直ショックだったというか、すごく的確なことを言われて、あいまいな返事しか返せませんでした。ただ、その日家に帰ってから考えました。「確かに、言われたことしかやっていない。もともとなんで編集者になりたかったんだっけ? 今の部署で自分にしかできないことって何だろう」と。そうしたら頭がすっきりとして、次の日からは「自分にしかできないことをやろう」という事だけ考えるようになりました。今回のこの企画も、その延長線上で生まれたものです。

吉田 この企画を扱おうと、ぐっと背中を押すキッカケは何でしたか?

上口 上司に相談したんです。自分にしか作れないコンテンツを作る時間を増やしたいと。ただ現実にはルーティンの作業で追われていて、だから働き方を変えたいと言いました。そうしたら上司が「いいよ」と。「理由は何にせよ、何かしら興味があって今の編集部に来たわけだから、自分にしか書けない記事、自分自身も面白がれて、読者にも広く読んでほしいと思える記事を作ってほしい」と言ってくれました。

吉田 その意味では、上司のその一言は背中を押されたキッカケということですよね。

上口 はい。

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