安倍政権のTOEFL必修化は必要? 「日本人の9割に英語はいらない」著者、元マイクロソフト社長成毛眞氏に聞く企業家に聞く:成毛眞氏【前編】(1/2 ページ)

元マイクロソフト社長で2011年に話題となった書籍『日本人の9割に英語はいらない』を出版した成毛眞氏。いま、安倍政権の下でTOEFLの必修化などが打ち出されているが、氏はそれをどのように見ているのか? 

» 2013年07月05日 10時00分 公開
[まつもとあつしBusiness Media 誠]
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 成毛眞(なるけまこと)氏。1991〜2000年の間、黄金期にあったマイクロソフト日本法人の社長を務め、その後投資会社や書評コミュニティーサイト「HONZ」を立ち上げ、多方面に渡る活動をしている。社会に対するオピニオンの発信も積極的に行っており、2011年に出版した書籍『日本人の9割に英語はいらない』は大きな反響を呼んだ。

 いま、安倍政権の下でグローバル人材育成計画に向けた施策の1つとしてTOEFLの必修化などが打ち出されているが、氏は今、それをどのように見ているのか? また、マイクロソフトの現在や起業、教育などについてどのように考えているのか? 幅広く話を聞いた(後編:元マイクロソフト社長の成毛眞氏――「もう10年来MS製品は使っていない」)

絶対に英語が必要な1割に集中せよ

まつもと 個人的にも英語偏重の政策が打ち出されるのに違和感があったところに、『日本人の9割に英語はいらない』はうなずきながら読めました。2011年9月出版の本ではありますが、これを書いたきっかけはどういうものだったのでしょうか?

成毛眞氏

成毛 小学校での英語必修化が打ち出されたのを目にしたことがきっかけだったと思います。「これはヘンだぞ」と。週1回くらい、英語に触れる程度であれば「ああ、こういう世界があるんだ」という刺激になっていいと思いますけどね。博物館を見学して、科学者を志したりするのと似ていて。

 本書のタイトルは『9割の人に英語は要らない』ですが、逆に言えば1割の人には必須だ、とも言っているわけです。1割と言えば約1300万人ですが、いま英語を本当の意味で「話せる」人はそんなにいない。

 その1割の人には、もっと英語が話せるトレーニングを施さないといけない。そこに資源を集中すべきであって、残りの8000万人余りの英語を話さなくても生きていける人たちにまで小学校から英語教育を施すのは間違いだし、そんな国はないぞ、と言いたかったんです。

まつもと グローバル化で日本を再生させる。つまり早い段階からの英語教育がその要だ、という風に教育再生実行会議の報告書は述べていますが(教育再生実行会議第6回議事録)。

成毛 正直関係ないですよね。僕は帰国子女でもなく、マイクロソフトに勤め始めたころは全くといって良いほど英語が喋れませんでした。でもね、年齢にもよりますが英語って3000時間くらいトレーニングすると、誰でも自然に話せるようになるんですよ。つまりその時間さえかければ、英語っていつからでも自分の道具になる。英語を一生懸命教える=英語教育って言葉自体に僕は反発すら覚えます。

 1000時間くらいは現在の高校までの英語の授業で得られているはずですから、英会話じゃなくても、リーディングでも良いのでそこにプラス2000時間を積み上げる。それでOKなんです。僕は今の中高で教えている英語は悪くないと思っていますよ。あの内容で専門的な内容を除けば、おおよそのコミュニケーションは取れる。

まつもと 書籍では石川遼選手の例を引き合いに出しながら、むしろ英語が必要になる環境に身を投じること、それだけの仕事などのスキルを磨くことを勧めていますね。

成毛 中小企業の社長さんなんかもまさにそうですよね。工場進出とかして海外にビジネスを拡げてそこで初めて英語や現地の言葉が必要になる。でも、2年くらい向こうに行って帰ってくるとペラペラになって帰ってきたりするでしょ。「どうやったの?」って聞くと、昼間は片言で商談、夜はキャバクラみたいなお店で向こうのお姉さんと3〜4時間話していたりするわけです。そりゃ身に付くはずです(笑)。仮に1日5時間×2年(600日)であればそれで3000時間ですからね。

 そういう環境に身を置くことが大事なんです。海外に行く機会がなければ仕事しながらCNNなんかを横で流しておくだけでも良い。まさにスピードラーニングだよね(笑)。英会話教室なんか通う必要はない。ただ、大人の場合は自分の専門分野に関する単語は覚えた方が良いね。それが分からないとコミュニケーションが取れなくなっちゃうから。これも目安は3000語くらいかな。IT分野だと結構カタカナでそのまま入って来ている外来語が多いですから、その分楽ですけどね。あとは、本書でも触れたビジネスの現場で頻出するイディオム。

まつもと 書籍では“You gotta go!”といった例が挙げられていましたね。

成毛 「夕方? 行け?」だと話にならないからね(笑)。でも上司は部下に必ず言う言葉なんです。「あれこれ議論する前にまず現場に足を運べ」ってね。そういうのが100〜200フレーズくらいある。

 逆に言えばその程度だから、必要に迫られてから覚えても十分間に合う。社会人がナントカ留学みたいな感じで、使いもしない英語を勉強しに教室に通う必要なんてないよというのが、本書で言いたかったことですね。同じく使う機会や必然性もないのに、英語を公用語化したりTOEICの点数を昇進の条件にする企業なんかもナンセンスだと言いたい。

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