家庭用とはどう違う? エプソンのビジネスインクジェット「PX-K751F」をあえて私室で使ってみた仕事耕具

職場で使うプリンタの主役と言えば、ここ十数年に渡ってモノクロ印刷のレーザープリンタだった。今回は、同社のビジネスインクジェット複合機「PX-K751F」を一般住宅で使ってみることで、家庭用とビジネス用製品の違い、印刷方式によるメリット・デメリットを探ってみたい。

» 2013年02月15日 13時15分 公開
[森田秀一,Business Media 誠]
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 オフィス用プリンタと言えば、モノクロ印刷のレーザープリンタが主役だ。「素早く、安く印刷できさえすれば、モノクロプリンタで構わない」というニーズが根強い。

「業務用=レーザープリンタ」で本当にいいのか?

 しかし、よくよく考えてみると、ユーザーが求めているものはあくまでも「印刷の素早さ、安さ」であり、印刷方式がレーザー(トナー式)であるかは必ずしも関係ない。エプソンをはじめとしたプリンタメーカーが“ビジネス用インクジェットプリンタ”をプッシュする背景には、そんな固定観念を打破したいとの願いがあるのだろう。

 今回お借りしたA4モノクロインクジェット複合機「PX-K751F」は、こういったビジネス特有のニーズにズバリ沿ったものだ。本体はレーザープリンタ然としていながら、中身は黒1色のインクジェット印刷という、実に割り切った構成。「とりあえずは年賀状印刷。もしかしたらデジカメ写真を印刷するかもしれないから、多機能なプリンタがいいな……」という、家庭向け需要を想定した製品とは根本的に異なる。

 そして、重要なのが価格だ。PX-K751Fの直販サイト価格は3月28日までの期間限定で2万9980円。約2500枚印刷できるインクカートリッジ「ICBK91M」は4980円。比較的似たスペックのレーザープリンタとしては「LP-M230FDN」があるが、こちらは本体価格4万2980円、2500枚印刷可能なトナー「LPB4T17」が1万2350円。機能や印刷スピードの微妙な違いに加え、期間限定価格を考慮する必要もあるが、イニシャルコスト、ランニングコストの面からもPX-K751Fが優れている。

液晶画面や各種操作キーを備える。テンキーがあることからも分かるように、FAXとしても使える
原稿台を開いた状態

本体、インクカートリッジ、給紙トレイ、すべてが“ビッグ”

 筆者の自宅に送ってもらったPX-K751Fだが、まあとにかくデカい。梱包箱のサイズは実測で615×520×550ミリほどあり、築50年に迫ろうかという木造住宅の廊下を通して2階へ持ち上げるのは、かなりの一苦労だった。筆者は2012年末にエプソンの家庭用複合機「EP-905A」を個人的に購入していたこともあって、その大きさの違いには特に驚かされた。PC上級者ともなれば「インク代がかかるからモノクロプリンタで十分」という考えをお持ちの方もいるだろうが、設置の準備はぜひ周到に。

 カテゴリ違いを承知の上であえてEP-905Aと比べた場合、本体サイズの違いも際立つ。横幅は約70ミリ、奥行きが81ミリ、そして高さは150ミリもPX-K751Fのほうが大きい(数値はいずれも収納時)。実際の使用時は、正面の排紙トレイを引き出す必要があるため、専有面積はさらに余裕を持たせておく必要があるだろう。

真後ろから見た状態。横幅は約460ミリ。A4用紙の長辺が294ミリであることを考えると、かなり大きい
右側面。この状態での奥行きが約420ミリ

正面の排紙トレイを引き出した状態。印刷時には必ずこのトレイを使うことになるので、前もってスペースを確保しておくべき
背面ユニット部。紙詰まりを起こした場合は、このように取り外す必要があるので、壁寄せ設置はできないと考えた方がいい

 本体が大きくなる理由は色々あるだろうが、素人目から見てもあきらかなのがインクカートリッジの容量だ。実寸にして約103×134×75ミリ。EP-905Aのインクカートリッジ6色分よりも間違いなく大きい。さすが、約2500枚の印刷を可能にするだけはある。その上、約1万枚印刷が可能な大容量カートリッジ「ICBK91L」もあるため、コストパフォーマンスを少しでも良くしたい、メンテナンスの手間を極力減らしたい場合には、そちらを選ぶ手もある。

インクカートリッジは非常に大きい。手前に置いたのはSDカード
インクカートリッジを設置した状態

 印刷枚数の多さに連動するかたちで、給紙トレイも大容量。1度にA4普通紙を250枚までセットできる。加えて、背面にもA4普通紙で80枚、ハガキなら30枚まで設置できるASF(自動給紙機構)がある。このリアASFは封筒や折り目のない往復ハガキも設置できるので、用紙対応度は必要にして十分だと言える。

給紙トレイを半開きにした状態。もちろん給紙時には完全に取り外せる
背面ASF。未使用時はフタを閉じて置ける

印刷はモノクロ、スキャンはカラー

PX-K751Fの印刷設定(ドライバ)画面。モノクロ/カラーの設定がそもそもない以外はごく普通

 プリンタとしての使用感は、実にオーソドックスだ。当初は「オフィス用だから音がうるさいのでは?」とも想像していたが、普段からEP-905Aを使っている身からすれば、特に違いは感じなかった。

 印刷スピードの面ではPX-K751Fのほうが、体感的には若干有利なように思える。参考までに、有線LAN接続したPX-K751Fで本誌のWebサイト1ページ分を印刷するスピードを測ってみた。印刷設定は「背景色と背景画像を印刷する」「印刷品質:標準」にし、用紙は普通紙。これで、PC画面で印刷実行してから排紙が完了するまでの速度をストップウォッチで5回計測してみたところ、平均で約18〜19秒ほど。体感的には「EP-905Aよりもちょっと早いかな?」といったところだ。

 電源をいれた直後、1回目の印刷からこの印刷速度なのはPX-K751Fの大きな強みだ。筆者が普段使いしているEP-905Aはカラー印刷前提のマシンで、さらに給紙トレイが自動オープンする仕様とあってか、印刷実行から排紙までに3分以上かかかるケースがザラにある。2回目以降の印刷スピードはPX-K751Fと遜色ないのだが、とにかく印刷前の“準備”に時間がかかっている印象だ。

 業務用の大型レーザープリンタやコピー機では、よく「電源をオンにしてから印刷可能になるまでの時間が長い」と言われがちだが、PX-K751Fではこの不満を十分払拭できている。

 加えて、PX-K751FとEP-905Aの比較で明らかにレベルの差を感じるのが「両面印刷」のスピードだ。1ページ目から2ページ目の印刷間隔は、PX-K751Fのほうが間違いなく短い。印刷枚数が多いユーザーであれば、この効果は無視できない。

 PX-K751Fの印刷機能はモノクロであるため、カラーコピーなどはできないが、スキャナ部自体はカラー取り込みに対応している。ネットワーク接続したPCや、PX-K751F前面のスロットにUSBメモリを挿せば、原稿をJPGかPDF形式で保存できる。

本体背面の接続端子部。なお、無線LAN接続には非対応
本体正面のUSBポートにフラッシュメモリなどを接続すれば、スキャンデータを直接保存できる

 PCを連携させない状態でも、PX-K751Fはモノクロコピー機かFAXとして使うことができる。いずれも、窓口で顧客対応をするような職場などでは欠かせない機能だろう。PX-K751Fは小型液晶に加え、テンキーなど各種操作キーも豊富なので、使い勝手はかなり良い。

 特にスキャナ部はADF(自動原稿送り機構)搭載で、なおかつ両面読み取り対応と、意外にハイスペック。複数枚の資料を一度に手間なくコピーしたり、スキャンできる。

操作パネル部左方のボタンで、コピー、スキャン、FAXを切り替える。
ADFは両面スキャン対応

なお、PX-K751Fに無線LAN機能はないため、ネットワークプリンタとして利用する場合は原則的に有線LAN接続となる。ただし、スマートフォンアプリ「Epson iPrint」を使ったリモートプリントないしスキャンは可能だ。

「Epson iPrint」アプリを使えば、スマートフォンからの印刷も可能。こちらの画面はiOS版
印刷だけでなく、スキャンもできる

早さ、静かさよりも安さを優先するならインクジェットか?

廃インクを回収ための「メンテナンスボックス」。ユーザー自身で交換できるので、わざわざ修理に出す必要がない。このあたりも、オフィス向けプリンタならではの装備と言えそう

 以上、PX-K751Fの使用感を一通りご紹介した。当初は本体の大きさにこそ驚かされたが、そのほかの部分は意外なほどクセを感じなかった。よくよく考えてみれば、PCにほとんど触ったことのない、中高年の現場作業員でも触れる機会が多い製品なだけに、シンプルな使い勝手が求められるのだろう。

 もちろん、その本体サイズゆえに、一般家庭に置く製品でないことも改めて実感した。自宅で仕事をする人、例えば筆者のようなフリーライターでも、私室と仕事場を兼用している程度の業務規模では、完全にオーバースペック。少なくとも、複数人が集まって仕事をする専用オフィス向きだろう。

 職場にプリンタを設置しようとしたとき、多くの方はレーザープリンタをまず想像すると思う。トナーによる高精細な印刷、印刷のスピード、静粛性などを勘案し、その上でレーザープリンタを最終選択する人も当然多いはずだ。事実、同価格帯のレーザープリンタとインクジェットプリンタを比較しても、印刷速度はレーザー式の方が速い傾向にある。

 しかし、この評価軸に「価格」が入ってくると、ビジネスインクジェットの存在感はいきなり大きくなってくる。本体価格が比較的低廉な傾向にあり、ランニングコストも決して高くない。印刷品質の面でもPX-K751Fは顔料インクを採用し、耐候性、耐水性を高めるなど、トナー特性を意識しているのだろう。

 例えば、図書館のように静粛性を求められる場所であれば、レーザープリンタを選ぶのが無難。しかし、すべてのオフィスで静粛性を求められるわけでもない。「印刷コストを安くしたいからモノクロでガマンする」という選択肢があるように、「スピードや音はそんなに重視しないからインクジェット」という観点があってもいいはずだ。

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