コミュニケーションの“対立”を「価値観の相違」と決めつけてしまうのは簡単だが、対立から生まれる痛みを感じたり、協調を図ろうとする時に働くのは私たちの脳。近年の研究によって脳が周囲に対してどのように働きかけるのかが明らかになりつつある。そうした研究成果をまとめたのが日本科学未来館の常設展示「ぼくとみんなとそしてきみ」だ。
生活スタイルや価値観が多様化する中、私たちの日常生活、そしてTwitterなどのソーシャルメディアでのコミュニケーションに“対立”はつきものだ。「価値観の相違」と言って議論を打ち切るのは簡単だが、それでは協調から生まれる未来の可能性をつみ取ってしまうことになる。
対立から生まれる痛みを感じたり、そこから協調を図ろうとする時に働くのは私たちの脳だ。霊長類学や認知科学といった関連研究の進歩によって脳がどんな反応をし、周囲に対してどのように働きかけるのかが明らかになりつつある。
そんな研究成果を体験しながら理解できるのが、2012年末にリニューアルした日本科学未来館の常設展示「ぼくとみんなとそしてきみ―未来をつくりだすちから―」だ。
従来、脳の展示と言えば輪切りになった標本を展示したり、各組織の働きを説明したりするものが多かった。今回のリニューアルでは絵本をコンセプトにした体験型展示がメイン。大人から子供まで楽しめるのが特徴だ。アイドルグループで1月16日に8枚目のシングルCD「HEART〜僕らはひとつ〜」をリリースしたばかりのFeamのメンバーに足を運んでもらった。彼女達の新曲も「違いを乗り越えて1つになりたい」という思いを込められている。
リニューアルした展示はポップなイラストや模型を採用。Feamの3人も「かわいい!」と声を上げながら楽しく見て回れたようだ。最初のパートで脳が目や耳など、体のさまざまな部分からの信号をどのように処理しているのか、特に好き嫌い・快不快をどう扁桃体などで分類し、ドーパミンなどの脳内物質がどんな風に働いているかかを学び、「2巻 ふたりで ―他者をとりこむ性質―」へ。人間の脳が他の人間と向き合ったときに激しく反応するようすが分かる展示だ。
脳は他人と向き合ったときにさまざまな反応を見せる。他者の感情と自分の脳が呼応する「共感」、体の動きを真似ることで心が発達する「模倣」などを、体験型の展示を通じて確認できた。
3つめのパート「みんなと ―社会の中で生きる―」以降では、チンパンジーの研究を通じて人間の脳の働きを明らかにする霊長類学の成果を紹介。この研究成果によると、脳には「他者の存在を自然に意識する性質」が備わっており、そこから「言語」や「協力」が生まれたという。
人類の発展とともに獲得してきたこの性質だが、一方で「ストレス」を生んでしまう。自分が行いたい行動と社会が求めるそれにズレが出てくるためだ。展示ではこういった「社会的ジレンマ」についてもイラストやアニメーションで分かりやすく解説されており、Feamの3人もふむふむと頷きながら学んでいた。
ヒトの脳は大変発達しているが、とてもだまされやすい性質ももっている。展示では他人の手がハケでなでられたり、ジェル状のものをかけられる映像を見て、そうした状況を自分に行っていると錯覚してしまうという展示がある。私たちは実際にそうされていなくても視覚情報からそう感じてしまうのだ。
このように脳の中では、自分と他人といった周囲の環境を必ずしもありのままに認識しているわけではない。このことが私たちと社会の関係にも大いに影響している。それを象徴するのが「ハサミで指を切られそうになったとき」と「社会的な絆を失ったとき」に脳の同じ部分が反応するという研究結果だ。
仲間はずれやいじめなどの問題がクローズアップされるなか(そして、それが時には「いじめられている側の捉え方の問題」などと軽んじられるなか)、脳が精神的な痛みと実際の身体的痛みとを同じように処理しているというのは、興味深い。
展示の最後のパートは、「4巻 きみとの未来―未来をつくりだすちから―」と銘打たれている。世は一種ノマドやフリーランスのブームだが、私たちが生きていく上で社会との関わりは避けては通れない。人との関わりを通じて社会と向き合うことで私たちは未来を切り拓いてきたと言える。
「絵本の中に入ったような体験型の展示で分かりやすく楽しかったです」(Maiさん)
「脳の働きを学ぶことを通じて、人は1人ではいけないということを改めて感じました」(Rinaさん)
「人間って複雑なんだということを再認識。その上で素敵な未来を築いて行ければと思いました」(Yukiさん)
働き方や生活スタイル、価値観の多様化は私たちにさまざまな変化をもたらしている。その在り方を捉え直す上でも、今回リニューアルされた展示はヒントに富んでいるはずだ。一度足を運んでみてはいかがだろうか。
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