「MAKERS」に学ぶ、もの作りの未来と可能性5分で読むビジネス書(1/2 ページ)

Wired誌の編集長として、また『ロングテール』『フリー』の著者として有名なクリス・アンダーソン氏が、書籍『MAKERS』を出版。それによると、もの作りの世界は今後10年で革命的な変化を迎えるという。

» 2012年12月06日 14時30分 公開
[鈴木啓一,Business Media 誠]
誠ブログ

 『ロングテール』『フリー』と、ベストセラー書籍を連発しているクリス・アンダーソン氏の新作『MAKERS』を読んだ。今日はその感想などを書いてみたい。

もの作りは「工場に発注」から「3Dプリンタで“印刷”」へ

 クリス・アンダーソン氏によれば、これからの10年でもの作りの世界が革命的な変化を迎えるという。

 例えば、80年代に「デスクトップパブリシング」が登場し、われわれは印刷工場に発注しなくても印刷物を卓上のプリンタから手にすることができるようになった。いまとなっては当たり前になったことだが、確かに80年代に起きた画期的な新技術の1つだ。

book 『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』クリス・アンダーソン(著)、関美和(翻訳)

 近い将来、同じようにあらゆるものが工場に発注しなくても、3Dプリンタで「印刷」することで手に取ることができるようになるという。魔法のようにも聞こえる話だが、この動きはすでに始まっていて、日本でもローランドDGが「iModela」という3Dプリンタを製品化しているし、海外でもいくつかの製品が販売されている。3DのCADの情報があれば、デスクトップでその形状の物体を手軽に製造できる時代が始まっているのだ。さらに、電子回路まで印刷できるようになるには、時間は必要だがそれすらも可能だという。

 3Dプリンタのある未来では大きな工場を自ら持たなくてもよいので、メーカーとしての事業を立ち上げやすくなるという。20世紀のモデルでは、大量消費・大量生産でコストを安くできるが、3Dプリンタのある21世紀の「MAKERS」は、生産の自動化が進み、少量生産でもコストは大きく変わらないので、顧客の近くで細かなニーズに合わせて商売を行うことが逆に強みになり、大量生産の大会社とは差別化をしながら共存ができるという。まさにハードウエアの「ロングテール」の商売である。

 3Dプリンタをはじめとするこれらの新しい技術は今後の製造業を大きく変え、21世紀の産業革命としてわれわれの生活を大きく変えることになるだろうというのだ。これまでの情報革命は、パソコンやインターネットの登場により個人の情報環境を革命的に変えたが、それがもの作りにまで拡大し、革命はより深く広く産業構造にまで広がっていくという。

3Dプリンタ革命のインパクト

 中国の経済的成長に伴い、これまで中国の低賃金と生産力に依存してきた時代が変化しようとしているが、日本や米国の製造業が息を吹き返すチャンスが来るのかもしれない。誰でも3Dプリンタを使って手早く試作品を製造できるようになるだけでなく、そのデータを使って大きなロットが販売できそうな場合にだけ、大工場に製造を依頼すればいい。中国の大工場はそのときに大きな力を発揮する。技術の進歩の度合いにもよるが、小ロットなら3Dプリンタで製造したものを販売するだけで済ますことも考えられるという。大会社が行うような大規模なマーケティング調査の必要もなく、目の前の顧客の細かいニーズに小ロットでも応えられるようになれば、小さな会社でもリスクを抑えた商売が可能だ。

 もちろん、現在の3Dプリンタは、扱える素材や加工方法や解像度(例えば、できあがりの製品の細部の細かさ)が不十分で、デスクトップパブリシングの例でいえば、80年代のドットマトリクスプリンタの時代に相当するという。あのころはギザギザな文字しか印刷できなかったが、それから約30年経った現代ではデスクトップのプリンタによる印刷品質は大幅に進歩した。レーザープリンタの登場で解像度が上がりギザギザ感が解消され、その後、写真並みのフルカラー印刷まで手軽に行えるようになった。3Dプリンタも同様に、技術の進歩には期待できるという。

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