ガス抜きをするための愚痴はある程度は有用なこともありますが、四六時中愚痴を言う人は職場の士気を下げてしまうもの。そういう人に上手に対応するにはどうすればいいのでしょうか。
苦手な上司やクレーマーのようなお客など、世の中には思わずキレてしまいたくなる“嫌な人”たちが存在します。しかし、そんな嫌な人たちに感情任せにキレても問題の解決は望めません。この連載では、どこにもいる嫌な人を対象とした、スマートで賢いキレ方を提案します。
この記事は10月5日に発売された文響社の『出世するキレ方』(楠元博丈著)から抜粋、再編集したものです。
町田さんは私の放送作家の先輩です。
彼はよく「はあーあ」と、あからさまなため息をついていました。“イジられ待ち”とも取れるそれは、もはやため息でなく「はあーあ」と発声しているように聞こえます。後輩としては、そのイジってほしい空気感を無視するわけにもいかず「そんなため息をついてどうしたんですか?」と尋ねるしかありません。しかし、町田さんの話は「なんで俺がこんな雑用ばっかり」「あー。めんどくさいなあ」といった不平不満ばかりでした。
一緒の企画が重なって、2人で話す機会が増えたある夏のことです。仕事の終わり、2人で歩いていると町田さんは言いました。
「お前さあ、相川さん(仮名)のことどう思う?」
その日の仕事中、こめかみと眉間の意味をはき違えていた町田さんが、先輩放送作家の相川さんに叱られていたのを私は知っていました。そしてその時、彼が相川さんへの愚痴を吐き出したがっていることも分かりました。
「いや。まあどうなんですかね。引っ張ってくれるいい先輩だと思いますけど」
私が相川さんを悪く言えば、怒濤の愚痴が飛び出すことは分かっています。
「引っ張ってってくれてるかあ?」
「まあ……。1年目の僕にいろいろ教えてくれますし」
それでもこめかみと眉間の場所を相川さんから教えてもらうことはないだろうと思いながらも、とにかく相川さんを悪く言わないように気をつけました。
「教えるって言うか、説教って感じだろ?」
「まあ、ごくたまに言い方がきついなと思うことはありますけど」
ほとんど誘導尋問的にそれを口にした瞬間でした。
「だろ? あの人言い方がきついよな!? 今日だって俺もいろいろ考えて最善を尽くしてるってのに、全然分かってくんないんだよ。腹が立つよなあ」
こめかみと眉間の件でどう最善を尽くしていたのか、それは1つの謎ではありましたが、こうなっては私は町田さんからあふれ出した愚痴を黙って聞くことしかありません。
「俺の方が相川さんより動き回ってるのにギャラは全然安いし。はあーあ」
まくしたてるように始まった町田さんの愚痴は、駅で別れる瞬間まで続いていました。
それから15分後、私が最寄りの駅に着いた時、ちょうど町田さんから着信がありました。先ほどの帰り道は愚痴話だけだったので、話せなかった仕事の要件を思い出したのかな、と電話を取りました。
「もしもし。楠元です」
「うん。ってか思ったんだけど相川さんてさ……」
彼はまだ言い足りないようでした。
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