見えない不安を見える数字に――福島で放射能と向き合う(後編)正しく怖がる第一歩

3.11から1年以上経過したが、いまだに放射線量を計測する機器に対するニーズは高いという。6月上旬に福島市に測定器のトレーニングセンターを開設した、PCショップを展開するサードウェーブに取材した。

» 2012年06月25日 14時40分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
サードウェーブの資料より。放射性物質はそれぞれ半減期が異なる。長い期間、強い放射線を出し続ける物質は、内部被ばくのリスクがそれだけ高いことになる

 震災から半年後のころを振り返ってもらいたい。津波による被害の全ぼうはほぼ明らかになったが、原発事故による放射能汚染が私たちの生活にどのような影響を与えるのか、多くの人が強い不安にかられていた。

いまだ放射能測定の需要は多い

 そのころ、まだ供給が十分ではなかった空間線量計を持って、都内(世田谷・秋葉原)でその試用リポートをお伝えしたのがこちらの記事だが、ここでも書いたように空間線量計はあくまでその場所が危険か否かを判断するもので「そこにどんな放射性物質があるのか」までは知ることはできない。

 食品など、より精密な測定が求められる場面にはスペクトルメーターやゲルマニウム半導体検出器という機械が必要だ。ところがこうした測定器はより大型で、1台数百万円〜数千万円と高価だ。PCでの長時間の分析も必須となる。また分析装置は外部の自然放射線を鉛で遮へいする必要もあるため、重量もある。1台数万円の一般向け測定器とは異なり、おいそれとは導入できないし、基本的に一度設置したら動かすことも難しい。

南相馬市に設置されたゲルマニウム半導体検出器。これとスペクトルメーターをあわせて2台を市が管理している(2011年11月撮影)
福島県が運営するサイト「ふくしま新発売。」では品目や地図から食品の放射線量を確認できる

 3.11から1年以上経過した現在も、農作物をはじめ食品に含まれる放射能測定の需要は多い。国が定めた検査方法で測定し、今年4月からの新しい基準値(暫定基準値よりも厳しい基準値)を参考して判断しているが、個人が栽培した野菜や、外食店などで独自に測定をしたいというニーズも存在する。

 福島県では「ふくしま新発売。」というサイトを立ち上げ、県内産の食品の放射線量を公開。トップページでは福島県産の食品の安全性をうたうこのサイトだが、残念ながら現在でも多くの農作物に対して、国の定めた暫定基準値を超える放射性物質を検出していることも分かる。現実問題として、福島県の多くの農作地が放射性物質で汚染されてしまったが、有効な除染方法はまだ見つかっていないのだ。

福島県飯舘村のかつての農地。現在は除染方法の各種実証実験が行われている
ホットスポットがいまだに点在する福島県飯舘村で、前回の記事で使用。数値は1マイクロシーベルト強と比較的高い数値を示している(地図はこちら

PCショップがなぜ測定器を販売するのか

 そんな中6月9日、秋葉原などにPCショップ「ドスパラ」を展開するサードウェーブが、そのスペクトルメーターなどの測定器の販売や使用方法のトレーニングを行う施設を福島市にオープン。2011年8月に安全環境事業部を立ち上げ、10月には秋葉原にトレーニングセンターを開設しているが、その2カ所目となるものだ。


福島トレーニングセンター開設セレモニーであいさつする尾崎氏

 PCショップのサードウェーブが、なぜ放射線測定器の展開に乗り出すのか。同社の尾崎健介社長は「3.11の直後から測定器は取り扱っていないのかという問い合わせが多数寄せられた。そこから放射能の問題にきちんと向き合いたいと考え、5月にはチェルノブイリ原発事故を経験したウクライナを訪問しました」と振り返る。

 その後サードウェーブは、ウクライナと福島に社員を常駐させている。ウクライナでは現地の原理力学会、医学アカデミー、商工会議所などと連携し、福島で放射能とどう付き合っていくのか、そのノウハウの共有を図っている。そこで重要になってくるのが、生活の中――例えば学校や市場などで――いつでも放射能測定が行える環境作りだ。

 サードウェーブが、測定器の販売に力を入れるのは、ウクライナでは生活の一部となっている放射能対策をここ福島でも実現したいという思いからだ。そしてもちろん「事業としての収益化も図りたい」(尾崎氏)。すでに空間線量計約5000台を消防庁から受注したほか、スペクトロメーターは大手寿司チェーンなどからの受注があったという。

サードウェーブが販売するウクライナのAKP製Nal(TI)シンチレーションスペクトロメーター「SEG-63」

 除染方法はまだ試行錯誤の段階にあり、先に挙げた放射能物質の半減期からみても、数十年単位での息の長い取り組みが求められる。善意、無償が前提となるボランティア活動も引き続き求められるところだが、サードウェーブのように事業化、収益化を目指した動きにも注目していきたい。

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