レディー・ガガのチケットと病院の予約券、許せるダフ屋は?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(6/6 ページ)

» 2012年06月05日 18時05分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]
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レディー・ガガのチケットは良くて、医師の診察券のダフ屋行為はダメ?

男性(反対) 私はレディー・ガガのチケットの場合も医師の診察券の場合も両方とも反対しました。ただ問題は、レディー・ガガがチケットのダフ屋行為についてどう思うのか、そして病院や医者がどう思うのかにかかっていると思うんですね。レディー・ガガが自分のチケットがダフ屋で売られていると知ったらどう思うでしょうか? そして医者も自分の診察の予約がお金で売り買いされていると知ったらどう思うでしょうか?

 非常に残念でがっかりすると思います。ですからこの問題は、供給サイドと需要サイドの気持ちが重要ということです。資本主義というのは、需要サイドにばかり目が向いて、供給サイドを忘れていると思います。

サンデル でもそんなこと構わないんじゃないですか? あなたがレディー・ガガだったらどうしますか? 気にしますか?

男性(反対) いや、レディー・ガガの気持ちは分かりません。ただ、恐らく彼女のこれまでの行動などを見るならば、いろいろな非営利団体での慈善活動をしているので競り行為でチケットが売られるのは嫌がると思うんですよ。皆が平等に見られるように願うと思うんです。

サンデル では逆に、ダフ屋行為に反対はしない、レディー・ガガのチケットも医師の診察券もどちらの場合も構わないんじゃないかという人に聞いてきたいと思います。どうぞ立ちあがって意見をお願いします。

女性(賛成) 私は医師の診察を受けるのも、レディー・ガガのコンサートに行くにも、それが本当に必要だとするならばお金はいくらでも後から貯めることができると思うんです。特に病院の場合は、私はお金で片が付くのならば、お金を貯める方を考えます。

サンデル では医者の予約は、最も高いお金を払った人が行くべきだと思うのですか? それで構わないんですか?

女性(賛成) いえ、それが本当に必要であるならば、そのお金を貯めるために何でも努力をすると思います。

サンデル では構わないということですね。では次にレディー・ガガのチケットの場合は構わないけども、医師の診察券の場合には反対という人の意見も聞いてみましょう。

男性(医師の予約券は反対) 人は皆、貧しい家庭の出身かお金持ちの家庭の出身なのかにかかわらず、誰もが同じ権利を持つべきだと思います」

サンデル 「それは医師の予約についてということですね。ではレディー・ガガのコンサートについてはどうですか?

男性(医師の予約券は反対) 私はレディー・ガガのチケットが手に入らないからといって、そんなに苦しむことはないと思います。

サンデル でもつらい人がいるかもしれませんよ?

男性(医師の予約券は反対) それほどひどく辛いとは思わないのではないでしょうか。医療行為を受けることができない人の方が辛いはずです。

サンデル では医療行為については誰でも受ける権利があるけれども、コンサートには行く権利はないということですか?

男性(医師の予約券は反対) そうです。

サンデル 分かりました。では他に、やはりダフ屋行為について、医師の予約券には反対だけどコンサートのチケットは問題ないと考える人、どうぞ。

レイカ レディー・ガガのコンサートはエンターテイメントで、なくても生きていけるものだと思います。行けなくても次のチャンスがあります。でも医師の予約券は人間にとっては健康が必要ですから、もしお金がなくて医師の予約が取れなかったら死んでしまうかもしれません。ですから、お金を貯めて医者にかかる、そうでなければいけないというのは、正しくないと思います。

サンデル あなたの名前は? レイカですね。ではレイカ、別のケースについて聞きましょう。哲学の授業のダフ屋行為はどう思いますか?

レイカ この講義であれば私は払います。(会場笑)

会場 拍手

サンデル でも、出なくても生きていくことはできますよ。

レイカ 私の知識や勉強のためです。

サンデル では教育というのは医師の予約に似ていますか? それともエンターテイメントに似ていますか?

レイカ 医師の診察券に似ています。

サンデル 医師の予約に似ているということですね。それは気に入りました。(会場拍手)

サンデル この議論で面白かったことは、ダフ屋行為、これはもちろん自由市場の活動と捉えることができるのですが、どういう場合ならば良くて、どういう場合は良くないのか。今の議論を聞いていると、状況によって変わるようですね。

 すなわち、どういう対象物に関してのダフ屋なのかで、許せるか許せないかが変わってくるということです。例えば自分のよい生活のために、あるいは人間の暮らしの中で娯楽といえるエンターテイメントならばダフ屋行為もよいのではないか、市場経済は構わないのではないかということだと思います。

 ところが大多数の人は、医師の予約券に関しては市場主義は適切ではないという意見でした。これは絶対的に必要なもの、人間の尊厳にかかわるものは、売り買いしてはいけないのではないか、という気持ちが強くなっているからだと思うんです。つまりわれわれは、お金で買えるもの、買えないものをどこで線引きをするのか。どういうものならば許されるのか。そういう議論が必要だということではないでしょうか。


 次回、金銭的インセンティブの議論に続きます

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