スマホ普及時代の今、手帳が選ばれる理由スマホ時代の手帳再入門

Googleカレンダーやスマートフォンの便利さが認知浸透されるようになって久しい。にもかかわらず手帳に注目が集まっている。このアナログツールがどうしてビジネスマンから熱い視線を浴びているのか。手帳とは何かをもう一度考えてみたい。

» 2012年04月17日 13時15分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]

 このところ手帳が見直されている。まず、手帳の出荷数は年々微増傾向にある(日本能率協会マネジメントセンター調べ)。手帳をテーマとしたビジネス書も毎年のように新しいタイトルが登場し、雑誌の手帳特集号は恐ろしく売れている。

 確かに、PCやスマートフォンは普及しているし、Googleカレンダーの便利さを誰もが享受しているように思える。にもかかわらず、手帳はどうやら多くの人たちがいまだに活用しているらしい。これはなぜなのだろうか?

 理由はいろいろ考えられる。順に見ていこう。

手帳の基本5機能のうち、スマートフォンで代替できるのは?

 手帳の基本機能は(1)スケジュール管理(2)メモ(3)ToDo管理(4)便覧(5)アドレス帳の5つだ。

手帳の付録(画像はGoogle Playより)。「年齢早見表」「郵便料金」など、ビジネス現場でも役立つ情報をさっと調べられる

 このうち、(4)はPCやスマートフォンの検索機能で代替できるものが多い。一例を挙げればスマートフォンには「手帳の付録」(iPhone版は85円、Android版は100円)というアプリもあるほどだ。また(5)もPCの住所録ソフトやスマートフォン、携帯電話のアドレス帳に置き換わっている。そもそも紙の手帳に電話番号やメールアドレスを逐一記録するメリットはほとんどなくなっている。

 また(1)スケジュール管理は、Googleカレンダーがあればできるし、(3)ToDo管理もやはりPCとスマートフォンで同期できる「Nozbe」のようなアプリが幾つも登場している。(2)のメモだけは、手帳やメモ帳の方が瞬時に利用できそうだ。しかし、例えば高速でiPhoneのフリック入力ができる人にとっては、絶対的なアドバンテージにはならないかもしれない。

手帳をライフログに活用するという新提案

『一冊の手帳で夢は必ずかなう』(熊谷正寿著、かんき出版)。自らの夢や目標を手帳に書いて日々努力することで、夢をかなえる方法を説いた2004年のベストセラー。同書中で紹介しているシステム手帳「ファイロファックス」を購入するために、当時の銀座伊東屋には問い合わせが多数寄せられた

 従来的な手帳の機能はほとんどデジタルな手段に置き換わりつつあるのにもかかわらず、手帳が注目を集めている理由の1つは、新しい活用提案の登場にある。

 ライフログもその1つだ。生活や仕事の中で単位時間ごとにやったことを記録し、後から振り返るこの方法は、時間の使い方を見える化するための方法として手帳を使う。

 また、リストを作るのも人気だ。やりたいことや旅行に行きたい場所のリストを作る。また欲しいものや読みたい本、見たい映画のリストを作ることで、ふだんは気にしていない、本当は何をしたいのかに気付くことができる。

 その逆に「やりたくないリスト」や「Not ToDo(=やるべきでない)リスト」というのもある。望んでいないことや、悪い習慣などをリスト化≒見える化することで、それを積極的に避けるための工夫だ。

 また手帳の欄外に名言を書いてモチベーションを維持、向上したり、目標を手帳に書くなどの使い方も、比較的新しい活用パターンだ。特に後者は、1990年代後半に上陸したフランクリン・プランナーや、GMOの熊谷正寿社長による2004年のベストセラー『一冊の手帳で夢は必ずかなう』(かんき出版)などの影響で注目された活用方法だ。

ユーザーの考え1つで柔軟な使い方ができる

 これらの新しい活用提案を柔軟に受け入れられるのは、手帳が道具としての自由度が高いからだ。手帳は、日付入りの予定記入欄のあるノートだが、ユーザーの考え方1つで、旧来的な予定管理用にも、あるいはライフログを書くためにも利用できる。

 ちょっと前にはやったレコーディングダイエット(これもライフログの一種だろう)にも使える。こういう道具としての柔軟性がユーザーに発見され、あるいは手帳活用の書籍の中で提案されつづけている。

『手帳カスタマイズ術』舘神龍彦(ダイヤモンド社)

 つまり手帳は従来的な使い方のものとして売られてはいるが、実際に使うユーザーの側にはもっと多様な利用の実態があるわけだ。また今回は深入りしないが、最近の文房具ブームにはちょっとガジェット類みたいなところがある。マルチペン1つとっても、互換性のある他社のリフィルインクを入れ替えたり、紙との相性(書き心地)を追求したりするのがそれだ。

 手帳においても、拙著『手帳カスタマイズ術』でも触れたが、手帳を丸ごと一冊自作してしまう人がいるし、リフィルやバインダーの自作をする人もいる。

 ちょっとした工夫で意外な可能性が引き出せるのが手帳や文具の面白いところかもしれない。


 かつては会社からもらい、予定管理の道具だった手帳。それが今では、利用目的も使い方も、そして手帳自体も十人十色千差万別になっているのである。

 手帳を巡る現代の事情を通じて、なぜ手帳が注目されているのかを概観してみた。次回以降はスマートフォンとの上手な使い分けや、手帳活用における機能の定義=手帳のコントロールパネルについても触れていきたい。

著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)

 アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。近著は『使える!手帳術』(日本経済新聞出版社)。『手帳カスタマイズ術』は台湾での翻訳出版が決定している。誠Biz.IDの連載記事「手帳201x」「文具書評」の一部を再編集した電子書籍「文具を読む・文具本を読む 老舗ブランド編」を発売


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