炎上リスクへの体制はこう作る――IBMに学ぶソーシャルメディア活用ソーシャルメディアガイドライン(1/2 ページ)

早期からブログやSNSなどを積極活用してきたIBM。同社では社員向けに独自のガイドラインを設け、社員のソーシャルメディア利用を推奨している。その背景にある理由は何だろうか?

» 2012年02月28日 10時00分 公開
[「月刊総務オンライン」]
SOS総務

 日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)は、早くからWebやSNSを積極的に活用している企業として注目を集めてきた。同社はTwitterやFacebookの公式アカウントだけでも60ほどを有し、社員がソーシャルメディアを積極的に活用していくことを推奨している。

 このような施策の背景と効果について、社内広報およびソーシャルメディアを担当する栗原進さんに聞いた。

BtoB企業にとって重要なコンシューマーとつながるツール

 IBMで社内広報を担当する栗原さんは、同社が社員のソーシャルメディア積極活用を推奨する理由について、こう説明する。

 「当社は2005年にPC事業を売却し、BtoB企業になりました。そのため一般の人にはなかなか顔が見えにくくなってしまいました。そこで、IBMがどのような企業なのか、社員1人1人が社会に向けて発信していくことが重要だと考えたのです」

 同社のソーシャルメディアについての考え方は「やってはいけない」ではなく、「これを守れば自由にやっていい」が基本だと栗原さんは言う。

 同社のソーシャルメディアに対するガイドラインは、BCG(ビジネスコンダクトガイドライン)とSCG(ソーシャルコンピューティングガイドライン)の二層構造となっている。

日本アイ・ビー・エム、マーケティング&コミュニケーションワークフォース・イネーブルメント&デジタルの栗原進さん

 BCGは、数十年前に米国本社で策定したIBM社員の行動規範だ。全世界で共有しており、時代の変化に合わせて随時改定もしている。全社員が毎年eラーニングを受講し、確認した旨を署名。その際には理解度を確認するテストもあり、合格しないと署名画面に進めないなど、社員へ確実に浸透させる仕組みを実現している。

 そして、基本的な行動規範であるBCGの上に設けているのがSCG。12条にまとめているSCG(以下表を参照)の最初の項目は、「ビジネスコンダクトガイドラインを熟知し、それに従いましょう」となっている。


IBMソーシャルコンピューティングガイドライン(SCG):エグゼクティブサマリー
項目 内容
1 IBMのビジネスコンダクトガイドラインを熟知し、それに従いましょう
2 IBM社員はブログ、ソーシャルメディアまたはその他のユーザー参加型メディアにおいて、自分が掲載した内容に個人的に責任を持ちます。あなたが書いたものが長期間公開されることになることに留意し、自身のプライバシー保護に努めると共に、ルールを守ってサービスを利用してください
3 IBMやIBMに関連した事柄(製品やサービスなど)について書く際には、身元(氏名、必要に応じてIBMでの職務)を明らかにしてください。人称は1人称を使います。書かれたことは、自分の個人的見解でありIBMの意見を代弁するものではないことを明確にしてください。
4 IBMでの自身の仕事やIBMに関する話題でブログを公開したりコメントを掲載したりする際には、次のような免責文を入れてください。「このサイトの掲載内容は私自身の見解であり、必ずしもI B Mの立場、戦略、意見を代表するものではありません」
5 著作権とその公正使用、および財務情報公開に関する法律を順守してください。
6 IBMおよび他社の機密情報やその他の専有情報の提供や、IBMの業績またはその他の機密情報を公的に発言することは禁止します。
7 承認を得ずにお客様、パートナー、サプライヤーを引き合いに出したり、言及したりしてはいけません。また言及する場合においては、ソースへのリンクを張ってください。憶測を呼び、その結果お客様を困惑させる、あるいは損害を生じさせるような情報を公表してはなりません。
8 読者に敬意を払いましょう。人種に関連した中傷や特定の個人への侮辱、わいせつな内容、またはIBMの職場では許されないような行為などは禁止します。また、他者のプライバシーや、政治、宗教など異論が出たり扇動的になったりする可能性のある話題については、十分に配慮してください。
9 オンライン上のソーシャルネットワーク参加に当たって、IBMの社員としての自覚を持ってください。IBM社員を名乗る場合は、自分、同僚、および顧客について記載した内容が誤解されないようなプロフィールや記載内容にしてください。
10 けんかを仕掛けてはいけません。自分の間違いがあればいち早く訂正しましょう。
11 価値を付加するよう心掛けてください。値打ちのある情報と見識を提供しましょう。IBMのブランド価値は社員により示されること、そして皆さんが公表する内容はIBMのブランド価値を左右するものであることを忘れないようにしましょう。
12 許可なくIBMのロゴや商標を使うことは禁止します。

 SCGはもともと、2005年にブログをする社員向けにまとめられたものだ。それを2008年と2010年に改定し、ソーシャルメディアの普及を考慮した現在の形となった。

実名、顔出しであることで生まれるコミュニケーション

 2009年、IBMは“スマータープラネット”を企業ビジョンとして掲げた。これは、エネルギー問題、食糧危機、気候変動といった地球が抱える問題をITで解決していこうというものだ。このビジョンに関しても、同社はFacebookページ「SmarterPlanet −Japan」を開設し、メッセージを発信している。しかし、それだけではない。

SmarterPlanet −Japan

 「スマータープラネットを広めるためには、会社の公式アカウントだけではなく、社員が個人で行うSNSの活用も重要だと考えています」

 そう言う栗原さんも、ブログを大いに活用している1人だ。個人ブログ「栗ッピング」を10年近く続けている古参ブロガーでもあり、ITmedia オルタナティブ・ブログで「塞翁が厩火事」も開設している。前者は趣味の映画や落語の話題がメイン。後者はブログの特性上、IT関連の話題が多いものの、会社付近のグルメ情報など、職場のこぼれ話にも触れる。

 これらのブログで栗原さんは、自らの顔写真を積極的に公開している。匿名文化が根付いている日本で、インターネット上での顔出しに抵抗のある人も多いだろうが、栗原さんは言う。

 「匿名掲示板といっても、もし炎上するようなことがあればすぐに個人が特定されてしまいます。それなら初めから分かるようになっていても同じこと。それに顔を出すと、カジュアルに人脈が広がっていくのが魅力です」

 実際、落語をテーマとしたブログに顔写真を出していることから、寄席に出掛けたときに「栗原さんですよね?」と声を掛けられることがしばしばあるそうだ。そうやって人と会えることがうれしいと、栗原さんは言う。

 「ブログも楽しんでいますが、やはり実際に会って話をするのがいちばん楽しいと私は思います。ソーシャルメディアを特別なものだと考えて身構える必要はありません。それは、手紙と同じようにコミュニケーションのためのツールにすぎないんです」

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