所得(給与所得)と控除の部分はサラリーマンと個人事業主に差があったが、課税所得に税率を掛けて所得税、を算出する部分はどちらも同じだ。
(3)課税所得×税率=所得税
住民税は均等割、調整控除などがあるが、最終的な税額は課税所得が同じならサラリーマンも個人事業主も同じだ。
さて、サラリーマンの中には「自営業の方が税金で得をしてる」と思っている人もいるのではないだろうか。筆者自身、サラリーマン時代は何の根拠もなくそんなイメージを持っていた。果たしてサラリーマンと個人事業主はどっちが税金が得なのか。まずは2つの式を見比べてみよう。
サラリーマン:給料−給与所得控除−各種控除=課税所得
個人事業主 :売り上げ−経費−各種控除=課税所得
給料と売り上げは比較しても意味はない。そもそも業種や職種で個人事業主と言っても売り上げには大差がある。給与所得控除と経費も実際に支払わなくても控除される給与所得控除と、実際に支払った金額である経費とでは比較にならない。個人事業主の経費は売り上げと同様に業種や職種で大きな差がある。ということで個別の比較ならまだしも、一般論としてはどちらが税金が得という疑問に対する答えはないというのが結論だろう。
本質的には税制でサラリーマンと個人事業主の差を考えるより、仕事のスタイルとか安定度とか姿勢といった違う側面で比較するのが妥当な気はするが、今回の記事のテーマが税金なので比較的似ている各種控除の部分を比較してみよう。
偶然にも年収と売り上げ、給与所得控除と経費が同じサラリーマンと個人事業主がいたとしよう。同じ所得で税額の差はどうなるか。年収と売り上げが550万円、居住地は大阪市内、年齢は30代、妻はパートで年収90万円、子供は小学生、生命保険料は10万円を越えている条件の場合で比較すると以下にようになる。
サラリーマン | 個人事業主 | |||
---|---|---|---|---|
年収・売り上げ | 550万円 | 550万円 | ||
所得 | 386万円 | 386万円 | ||
年金 | 44万1595円 | 18万240円 | ||
健康保険 | 25万6300円 | 49万2862円 | ||
雇用保険 | 3万3000円 | − | ||
社会保険計 | 73万895円 | 67万3102円 | ||
所得税 | 住民税 | 所得税 | 住民税 | |
基礎控除 | 38万円 | 33万円 | 38万円 | 33万円 |
配偶者控除 | 38万円 | 33万円 | 38万円 | 33万円 |
扶養控除 | 33万円 | 33万円 | ||
生命保険料控除 | 5万円 | 3万5000円 | 5万円 | 3万5000円 |
課税所得 | 231万9000円 | 210万4000円 | 237万6000円 | 216万1000円 |
税額 | 13万4400円 | 21万1900円 | 14万100円 | 21万7600円 |
合計税額 | 34万6300円 | 35万7700円 | ||
※平成23年は所得税の扶養控除なし
サラリーマンの給与所得控除後の給与所得が386万円、個人事業主の経費を引いた後の所得も386万円という条件では、サラリーマンの税額34万6300円に対し個人事業主の税額が35万7700円と1万1400円高くなった。
差が付いた理由は社会保険控除の差だ。年金は厚生年金のサラリーマンの方が高く、健康保険は国民健康保険の個人事業主が高い。雇用保険の差もあって社会保険の合計額はサラリーマンの方が高くなり、全額が控除されるため最終的な納税額に差が付いた。
この金額だけを見ればサラリーマンの方が税金が少ないとも言えるが、それほど大きな差ではない。社会保険の支払額を加味すると個人事業主の方が手元に残るお金は多いという見方もある。しかし、サラリーマンが納める年金が多いということは、将来もらえるであろう年金も増えるということや、サラリーマンはこのシミュレーションと別に退職金を積み立てていると考えると、同じ所得ならサラリーマンの方が税金面では得のように思える。ということは、売り上げから経費を引いた所得がサラリーマン時代よりかなり多くならないと独立して稼ぎが増えたとはいえない。やはり税の仕組みとしては自営業が得ということはなさそうだ。
この例では個人事業主ならではの節税対策を行っていない。青色申告をすると65万円の控除が受けられるなど、節税ができる。売り上げ、所得が増えると消費税、事業税といった別の税金も出てくる。この辺りは次回以降で説明したい。
確定申告の主役は個人事業主だが、サラリーマンでも一部の人は確定申告をする必要がある。あるいは申告した方が得をする。申告の必要があるのは年収2000万円を越える人、給与を2カ所以上でもらっている人、給与所得以外、退職所得以外に20万円以上の所得のある人などだ。
サラリーマンでも副収入が20万円以上の人は確定申告が必要だが、稼ぐための経費は差し引くことができるので、例えば原稿料が23万円になったとしても、そのための経費が5万円掛かっていれば対象とはならない。
気になるのは申告を行った方が得をする人だ。代表的なのは多額の医療費を払った人。前回のサラリーマンの節税で書いたが、10万円以上の医療費を払っていれば税金が還付される。
家を購入した場合、最初の1年は確定申告、2年目からは年末調整を行う。住宅ローン控除は所得控除ではなく税額控除なので、算定額が納税額から差し引かれてかなり嬉しい控除となる。
他にも還付が受けられる条件はあるが、2012年の確定申告で多くのサラリーマンが還付を受けられる可能性があるのが、寄付金控除だ。東日本大震災で多くの人が義援金などの寄付をした。このような寄付は寄付金控除の対象となり還付を受けることができる。
確定申告をするためには領収書、振込明細など寄付を証明できることと、寄付をした先が寄付金控除の対象になっていることなどがある。街頭募金やコンビニのレジ横の募金箱で義援金に参加した場合は対象外だ。
実際にどれくらいの還付が受けられるか計算してみよう。所得税の所得控除と住民税の税額控除の式は以下の通りだ。
所得税:寄付金−2000円=所得控除額
住民税:(寄付金−2000円)×10%+(寄付金−2000円)×(90%−所得税の限界税率)
※所得税の限界税率は所得税の課税所得額で決まる税率
例えば年収400万円、所得税の課税所得が175万円で1万円の寄付を行った場合、受けられる還付は以下のようになる。
所得税の所得控除額=1万円−2000円=8000円
課税所得から8000円を引くことができる。課税所得が8000円少なくなると税率は5%なので、所得税の税額が400円少なくなるというわけだ。
所得税の還付額:8000円×5%=400円
住民税の税額控除=(1万円−2000円)×10%+(1万円−2000円)×(90%−5%)=7600円
となる。サラリーマンの場合は所得税は既に納税済みなので、400円が還付され、住民税は2012年の6月から天引きされる分が年間7600円少なくなる。合計で8000円が戻ってくる計算だ。よほど多額な寄付をしない限りは、1万円の寄付も3万円の寄付も実質は2000円で、越えた分は税金で戻ってくる計算となる。
3万円を寄付して2万8000円が戻ってくるのは不思議な感じもするが、普通に国や地元自治体の納めても何に使われているのか分からないなら、被災地のために使ってもらった方がいいという考えもあるし、寄付したのだからあえて確定申告はしないと考える人もいるだろう。
この連載を読んで税金に興味を持った人は、せっかくの機会なので確定申告で寄付金控除を受けてみるのもいい経験になるだろう。戻ってきた税金をまた寄付すれば2度寄付したことにもなるし、寄付金(義援金)の総額が多くなれば、そのことがまた誰かの寄付を呼び寄せる効果もあるかもしれない。
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