まずは既に確定した、ぐっと身近な増税を見てみよう。東日本大震災の復興財源を賄う臨時増税として、国は所得税を2013年から納税額に2.1%上乗せする定率増税を25年間実施する。個人住民税は2014年6月から10年間、年1000円を上乗せ。25年ということは、定年が60歳のままなら現在34歳の人は2013年から定年までずっと増税なので、臨時増税というよりは恒久増税に近いイメージだ。神戸の震災から東日本大震災まで16年、次の震災が25年の間に来ると別の増税が追加されるのだろうかと心配になるほど長い増税だ。
増税額を試算してみよう。計算のプロセスは複雑なので次回に譲るとして、概算を出してみると年収400万円の独身サラリーマンは所得税が約1800円。住民税の1000円を足すと年間2800円となる。年収800万円で奥さんと子供2人がいる場合は約5000円。住民税を足して6000円だ。これを多いとみるか少ないとみるか。
住民税は1000円の定額で期間が10年だが、所得税は例えば給与所得控除、配偶者控除などの廃止、見直しでベースとなる納税額が増えると、復興増税の部分もスライドして追加増税となる。もし25年間のうちに所得税を倍増したとすると、復興増税も倍になり、発行した国債を越え余ってしまったらどうなるのかという疑問も残る増税だ。自分自身の復興増税額の計算方法は次回詳しく解説するが、今は少額でも年収が増えたり他の増税により将来は高額になったりする可能性もあるので要注意だ。
消費税の増税が低収入の人ほど税率が高くなる可能性があると書いた。次は高収入の人だけに影響する増税だ。筆者がサラリーマン時代には理解できなかった「給与所得控除に245万円の上限」を設けた場合の増税額を計算してみよう。
筆者の様に独立して個人で仕事をしている人は個人事業主と呼ばれる。八百屋さんのような個人商店の多くも個人事業主だ。個人事業主は売り上げから経費を引いた金額が所得。奥さんがいる人は配偶者控除、年金や健康保険を支払うと社会保険料控除といった各種控除を所得から引いた金額が課税所得となる。
課税所得に金額に応じて税率を掛けると所得税の金額が決まる仕組みだ。課税所得が195万円以下なら5%、195万円を越え330万円以下の部分は10%と徐々に税率が上がり、1800万円を越えると40%となる。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円〜330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円〜695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円〜900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円〜1800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800万円〜 | 40% | 279万6000円 |
ではサラリーマンはどうなっているか。サラリーマンには給与所得控除という個人事業主からみるとうらやましい制度がある。サラリーマンは出張代や会社で使う事務用品、接待の費用などは会社が払ってくれるので、個人の経費としては認められない。だがスーツを買ったり、家で仕事をするためにPCを購入したり、自腹で取引先と飲んだり、微妙にお金が必要なこともあるだろう。そうした経費に代わって登場するのが給与所得控除だ。
年収 | 給与所得控除額 |
---|---|
180万円以下 | 収入金額×40%(65万円に満たない場合には65万円) |
180万円〜360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円〜660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円〜1000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1000万円〜 | 収入金額×5%+170万円 |
計算すると、
となる。年収400万円、手取りが20万円のサラリーマンが、毎月11万円は仕事のために使うから収入はなかったこととして税金は免除しましょう、ということだ。筆者は23年間サラリーマンを続けてから独立したが、サラリーマン時代は給与所得控除を知らなかった。人間は勝手なもので独立してその存在に気付くと「うらやましい」と思うのである。
そして今回の増税は、高額所得者の給与所得控除額に制限を設けるというものだ。対象となるのは年収1500万円を越える人。筆者の周りにも外資系企業に転職した後輩など数人は年収2000万円を越えているので増税の対象となる。ちなみにサラリーマンの1.2%、50万人が増税になるらしい。
筆者と同様、多くの読者は関係ないと思われるが、冷やかし半分に計算してみよう。給与所得控除の額は、
年収2000万円の人は、現在の控除額が270万円なので改正後は25万円控除額が減り課税所得が25万円増える。年収1億円の人は、670万円が245万円となり課税所得が425万円増えることになる。
増税額は年収2000万円の場合、所得税が8万2500円(税率33%)、住民税が2万5000円(税率10%)、合計10万7500円。年収1億円の場合、所得税が170万円(税率40%)、住民税が42万5000円(税率10%)、合計212万5000円の増税となる。年収1億円は想像しがたい金額だが、リーマンショック以前に話題になった外資系金融機関の社員や一部の会社役員などの超高額所得者が対象となると思われる。この増税は2013年に実施となる予定だ。
さらに高額所得者に対し国は、課税所得が5000万円を越えた部分の税率を現在の40%から45%に引き上げる最高税率の引き上げも検討している。筆者には縁のない金額で、高額納税者には感謝しつつ「稼ぐと大変だなあ」と思ってしまう。
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