自分で考えることをしない……。そんな指示待ち族の相手に疲れたことはありませんか? 今回はビジネスシーンで重要な思考力の向上方法について、そのヒントを解説します。
「説明書を書く悩み解決相談室」第9回です!
新年明けましておめでとうございます。2012年もよろしくお願いいたします。
さて、年末は1年を振り返るには手頃な時期。ということで、2011年に担当した「教える技術」公開講座での受講者コメントを見ていたところ、こんな声が目につきました。
「考える力」です。「思考力」です。同じように、指示待ち族の後輩のおもりに疲れて「少しは自分で考えろよ……」というイライラを感じたことのある方も少なくないことでしょう。
ロジカルシンキング講座がなかなかの人気なことからも、思考力は現代のビジネス人材育成の重要なテーマであることが分かります。とはいえ、実際にどうすればその課題を解決できるのか? となるとなかなか難しいところ。そこで今回はそのための1つのヒントをお届けしましょう。実は、説明書を書く工夫1つで思考力も上がるのです。
職場の先輩が後輩に対して自分で考える力を持ってほしい、と感じる典型的なシーンは「指示待ち族への対応」ですね。
指示されたことをうのみにしてハイハイとやる……だけではロボットのようなもので、使いづらくてかないません。1から10まで「その通りやればできるように間違いなく」指示しなければ成果を出せない人間では、変化が激しい現代のビジネス社会では生きる場所が限られてしまいます。完ぺきな指示を出せる人間なんているわけがないので、必ずある“ヌケた部分”本来書いてあるべきなのに書かれていない穴になった部分を見つけること。これが最初のハードルです。
もちろん、ヌケへの対応を自分で考えて、元の指示を出した上長を含む関係者に了承を取って、までできるのが望ましいです。ただそこまでいかずとも「気付いて、上長に照会して」くれれば一歩前進。ところが、それさえ怪しい人もちらほら見かけるのが現実です。
せめて、明らかなヌケには実行する前に気付いてほしい――と、私が切に感じたシーンが以前にありました。
10年以上前の話ですが、ある、バイト学生A君に指示を出していたときのことです。
開米 次は「kill -HUP 5721」というコマンドを入力して
A君 こうですか?
と言うやいなやA君は華麗なキーさばきでまたたくまに「kill -HUP 5721」と打ち込み、そして私が止める間もなくEnterキーを押してコマンドを実行させてしまいました。
「おいちょっと待てこのスットコドッコイ、もしミスがあったらどうするつもりだこの野郎!」……なんて乱暴な言葉は使いませんでしたが(笑)、私はそこで「こういうときは最後のEnterを押す前に確認しろ」と注意しました。その前であれば例え入力にミスがあっても修正が効くからです。
このとき、注意する一方で私はある疑問を感じていました。このA君は
――指示が間違いである可能性を考えもしないのだろうか?
という疑問です。A君は確かに私が口頭で指示した通りのコマンドを入力していました。そこにミスはありませんでしたが、もし私の指示自体が間違っていたら、扱っていたシステムに損傷を与える可能性がありました。もちろん、聞き違いやタイプミスがあっても同じです。そもそもこのときA君は“kill”というコマンドの意味も分かっていない状態でした。そのため、理想を言えば最終的に「実行(Enter)」をする前に、
「これで間違いありませんか?」
「killというのはどんな効果のあるコマンドですか?」
と念入りに確認と質問をするステップが必要なはずでしたが、彼はそれをしなかった。後者の質問は後でもできるものでしたが、ついにその日が終わるまで出てきませんでした。
その時のA君の知識レベルや周囲の状況を考えると「たとえ間違えてもやり直せるコマンドだから確認を省略して素早く実行した」というようなものではなく、単に何も考えてないがゆえの行動だということは明らかでした。その後のA君の行動を見ていて、私はさらにそう確信するに至りました。
そして私は気が付いたわけです。
世の中には、「与えられた指示に何の疑いも持たずただ受け入れて遂行しようとする者もいて、彼らは自分が知らないことを指示されてもそれが学ぶきっかけだとは思わない。これを学べ、と言わない限り学習しようとしない」ことに。
それはある意味幸せなことなのかもしれません。「それまでは、与えられた指示を受け入れるだけで生きてこれる環境だった」ということですから。
でも、これからはそれじゃダメです。上司の指示にだって間違いがあるのは当たり前、自分で気付いて対応できるようにならなければ、大した仕事は任せてもらえません。そのためには、人から言われたことをうのみにせずに、どこかに間違いはないか、ヌケはないかと吟味する姿勢が必要です。
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