説明書は分かりやすければいいってもんじゃあない説明書を書く悩み解決相談室(1/2 ページ)

説明書と言っても、プレゼン用から教育用までさまざまあります。誰向けの説明書かによって、分かりやすさを調整していかねばなりません。なぜでしょうか? 例に沿ってその訳を解説します。

» 2011年11月24日 10時00分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]

 「説明書を書く悩み解決相談室」第4回です!

 分かりやすい説明書を書きたい、という思いをテーマに始めたこの連載ですが、ここは1つ、その思いに水をぶっかけてみましょうか(笑)。というわけで今回は、

 分かりやすければいいってもんじゃあない!!

 という話です。

 きっかけは、ある人と話をしていたときのこと。仮に土門さんとしておきます。土門さんが社内教育用にあるテキストを作っていて、それに開米(私)が意見を求められたので改善案を作ってみた、というシーンです。

開米 例の資料ですが、こんな形に整理してみるのはどうでしょうか?

土門 おっ……ほお、これは……こりゃすごい、分かりやすいですね。いいですね。

開米 じゃ、これでいけそうですか?

土門 えっ。うーん……。

開米 あ、何か引っ掛かるところがあるんですね?

土門 いやその、うまく言えないんですが、何かこう、ちょっとキレイすぎるような気も。

開米 キレイすぎる?

土門 強いて言うなら、ですね。いや、キレイなのが悪いわけじゃないんですが……。

 「キレイすぎる」という意見を聞いて、土門さんのもどかしげな様子を見ているうちにちょうどその少し前に聞いたある研究を思い出しました。一言で言うと、

アイデアを書くために読みにくいフォントを使うと、

読者にとっては理解しにくくなるが、記憶には残りやすい

 というもので、2010年にプリンストン大学准教授(心理学)のダニエル・オッペンハイマー博士らによって行われた研究です。これは「フォント」だけに絞った研究ですが、個人的にはフォントに限らず、学習教材の構成法について幾つか思い当たる節がありました。「分かりやすい」説明書はかえって深い理解を得るための妨げになることがあるのです。

 そんなことを思い出したこともあって私は土門さんの懸念が分かるような気がしました。ちょっと極端な表現をするとこういうことです。

 「分かりやすい説明書」で「分かったつもり」になってしまう奴はプロにはなれない。

 引き続き、土門さんと私の議論をご紹介しましょう。

開米 「分かりやすい説明書」は、知識ゼロの分野をまず初めに理解するためには必須なんですよ。

土門 この図の青い矢印の部分ですね。「入門の壁」ですか。

開米 そうです。でもその段階だと理解度「低」です。分かった気はするレベルの話であって、資格試験じゃ点数が取れる可能性があっても現場で使えるかといったらまだまだですね。ここから、理解度「高」に上がるためには何が必要か。

土門 赤矢印のところですか。もっと分かりやすい説明書……ではない、ということ?

開米 そうそう。入門を超えて、現場に出て1人で仕事をしていいという免許が得られるレベルです。分かりやすさだけではこの「免許の壁」は越えられない。というより分かりやすい説明は逆効果になっちゃうんですよ。

土門 え、逆効果?

開米 そう、逆効果。土門さんがさっき言ってた「キレイすぎる」というのはそのへんの感覚じゃないですか?

土門 えっと……そうですねえ、開米さんが作ってくれた改善案、確かにすごく分かりやすくてキレイにできてたんですけど。何というか、あ、あれだ。丸暗記しやすそうだなあ、と思ったんですよね。

開米 丸暗記ですか、しやすいはずですよ。理解しやすく覚えやすいように作ってますから。

土門 でも丸暗記して欲しくないんです。もっと苦心惨憺(さんたん)して自分なりの理解をつかみ取ってほしい。そんな気がしたんですよ。

開米 なるほど、それはもっともな話です。私もそう思います。

土門 そう思いますか?

開米 思いますよ。ちょうどあの赤い矢印のところですけど。ここ、本質的に難しい話なんだから、いくら分かりやすく書いたってアタマぐちゃぐちゃになるに決まってるんです。でもそのアタマぐちゃぐちゃを乗り越えた先に理解度「高」があるんで、避けて通っちゃいけない。

土門 そうですよね、一度、わけワカラン状態から手探りで「行ける方向」を見つけ出すみたいな、そんな経験をしてほしいんですよ。

開米 そういう経験をさせようと思うと、分かりやすい説明書ってかえって邪魔になることがあるんですよ。分かったつもりになっちゃうから。

土門 ……それだ!!

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