マイホーム購入前に読みたい液状化現象の豆知識防災・防犯ラボ

液状化現象はあなたの地域でも起こるかも? 地震地盤工学の専門家に、液状化が起こる条件や「そもそも液状化現象って?」という疑問、地名由来の注意点などを聞きました。

» 2011年09月28日 11時00分 公開
[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]

 前回「全力ダッシュで津波から逃げ切れるのか? 南三陸町の語り部に聞いてみた」に続き、今回も8月20日〜9月4日に東京臨海広域防災公園で開催された防災イベント「そなエリア ボウサイウィーク!」で学んできたことを紹介します。

 今回のテーマは「液状化現象」。皆さんは、液状化現象についてどの程度ご存じですか? 私は正直なところ、今回のお話を聞くまでは「地面から水が噴き出る現象のことでしょ?」や「埋立地で起きやすいって聞くよ」くらいの知識しかありませんでした。

 よって「液状化現象は沿岸地域や埋立地に住む人たちの問題であって、内陸に住んでいれば心配はないよな? できれば、自分とは縁のない話だといいな……」という淡い希望を抱いていたのですが、話が進むにつれて、その考えは見事に打ち砕かれました。

東日本大震災が152回目の液状化現象

 お話をして下さったのは、関東学院大学工学部 教授の若松加寿江さん。若松教授は、地震地盤工学、地域防災工学、地形工学を専門分野とし、長年にわたり液状化現象の研究をしてきた液状化現象のプロフェッショナルです。

 東日本大震災後には、千葉県浦安市での液状化が大々的に報道されていました。しかし実際に発生したのはもっと広範囲。なんと1都10県(144市区町村)に及びます。震源地から遠く離れた埼玉の加須市、久喜市、横浜市港北区といった首都圏でも起きていたりします。

 冒頭でも述べましたが、液状化現象ってそうそう発生しない極めてレアな現象というイメージがあったのですが、実はそうでもないようです。液状化現象の歴史をひも解くと、西暦745年から2008年の約1300年間の地震のうちの150回、1万6500カ所で発生しています。意外にも身近な出来事なんですね。そして、東日本大震災が(西暦745年から数えて)152回目の液状化現象であるとのこと。

ほんのわずかな家の傾きで、生活に支障が出てしまう

 そもそも液状化現象とは、「地盤が地震時に働く“層せん断力”に対して抵抗する能力を失い、液体と同じような状態になること」だそうです。

 また一般的に、液状化現象は砂地盤(特に表層に緩い砂質土が分布し、地下水位の浅い所)において発生します。地盤が液体と同じような状態になるため、その上にある重い構造物は沈み、地中にある浄化槽やパイブなどの軽いものは浮き上がる被害が生じます。

 重い物は沈むということは、では一度液状化が起きた場所は「雨降って地固まる」のごとく「地盤はむしろ強固になるのでは?」と思います。しかし、そんな好都合なことはまったくありません。やはり再発の恐れがあります。うーむ、そりゃそうだよな……。

発生の3つの条件

 液状化の直接被害は、なんといっても“家が傾いてしまう”こと。家は0.29度傾くとドアの開け閉めがしにくくなります。0.34度で物が転がり、0.6度になると三半規管が刺激されて目まいを感じます。「とてもじゃないが、生活できなくなる」のだそう。目視すら難しい、ほんのわずかな傾きで生活がおぼつかなくなってしまうんですね。

 液状化発生の条件は、

 1.緩い砂質地(乾くとサラサラになる砂っぽい土地)

 2.低い地下水位

 3.強い振動(目安は震度5以上)

 の3つ。この全部がそろってしまうと、液状化が発生しやすくなります。

イメージアップを狙った地名に注意

 「発生しやすい土地」は、以下の6タイプに分かれます。

土地のタイプ 理由
(1)若い(新しい)埋立地 特に終戦後にできた埋立地
(2)旧河道、旧池沼 以前は川や沼だった場所。例えば、利根川は(昔は)蛇行していたが、氾濫を防ぐためなるべく真っすぐに流れるよう埋め立てた箇所がある
(3)大河川の沿岸 江戸時代に起きた川の氾濫で溢れた土砂が堆積した箇所がある。都内や神奈川で局地的に発生した液状化現象はこのタイプ
(4)砂丘 まあ、当然でしょうね
(5)砂鉄の採掘跡地を埋め戻した地盤 内陸であっても近くに河川がなくても、液状化現象が発生する理由の1つ
(6)谷埋め盛り土の造成地 斜面を住宅地用に造成する場合、斜面を階段状に削る必要がある。削り取った土砂を(底部の谷を埋めるために)盛り土として使うケースがある

 私は(1)〜(4)までは予想通りで「まあ、そうだよな」と思い、(5)で「砂鉄の採掘跡地は思いもよらなかったなー」。(6)で「そ、そんなケースがあるのかー!?」とのけ反りました。

 (6)の「谷埋め盛り土」は聞き慣れない言葉ですが、要は斜面の土地造成の過程で余ってしまった土砂を、低い場所の埋め立て用に流用するということです。

 驚いたのが、こういった造成地は住宅地開発会社によって「美しが丘」「緑ヶ丘」などの“○○ヶ丘”的な響きのよいネーミングに変更することがあります。昔の土地の名前が上書きされてしまうわけで、これは盲点でした。

注:全国の“○○ヶ丘”の名誉のために付け加えますが、そういう例もあるだけで、全ての土地に当てはまる訳ではありません

 イメージアップを狙ったネーミング以外では、以下の地名も要注意だそうです。

地下水位が浅いことを示す地名

湿地や水(池、沼、潟、赤)

湿生植物(芦、茅、菅、菱、蓮、柳、芹、蘆)

湧水(泉、和泉、清水、井戸)

若い(やわらかい)地盤であることを示す地名

新開地(新町、新田、派立、羽立)

氾濫(押切、押堀、川内、河合、河増、大曲)

砂地盤であることを示す地名

砂地(砂町、砂原、砂田)

自然堤防や中洲(島、曽根、桑、洲)

河原や急河道(川久保、川通、古川、川端、堤外)


不動産業界からの圧力はあるのか?

 気になったことを3つ、若松教授に尋ねてみました。

質問その1:液状化の被害に遭ってしまったら、どうすればいいんですか?

――百万円単位のコストが掛かりますが、復旧は可能で、幾つかの工法があります。ただ、再発の可能性は残ります。詳しくは「液状化被害を受けた場合の修復方法・費用」(日本建築学会)をご覧になってください。

質問その2:これから家を建てる人に、アドバイスをいただけますか?

――中立的な土地の情報を得るのに、不動産会社や住宅販売業者はあてにできません。役所にも地質の専門家はいないと思った方がよいでしょう。お勧めできる情報源は、国土交通省、日本建築学会、関東地質調査業協会のWebサイトで、どれも一般公開されています。購入検討中の土地の地質や歴史について、照らし合わせて調べましょう。

関連Webサイト

1886年(明治19年)創立の公益法人。所属会員は研究教育機関、総合建設業、設計事務所をはじめ、官公庁、公社公団、建築材料・機器メーカー、コンサルタント、学生。調査研究の振興や情報の発信と収集、教育と建築文化の振興、業績の表彰、国際交流、提言・要望などの事業を幅広く実施している

社団法人全国地質調査業協会連合会の下部組織

被害の事例、危険度の調べ方、地盤調査法、対策と費用、修復方法と費用、健康障害、復旧のための融資制度、相談窓口リンク集をまとめている


質問その3:「住宅販売の足かせになるような液状化現象の情報を公にするな!」といった不動産業界からの圧力などはあるんですか?

――ありません(笑)。むしろ積極的に発信してくれと言われるくらいです。例えば、食品に含まれる原材料や添加物、産地、製法といった情報は開示されていますよね? それと同じで液状化に関する情報も既にオープンになっています。不動産業界もこういう情報を求めていて、我々が業界を対象に講演活動を行っているくらいです。ただ、住宅販売会社が購入者に対し、土地に関するマイナス情報を積極的に告知してくれるといった期待はしない方がよいでしょう。消費者の皆さんには、食品に対して向けるような厳しいまなざしを、土地に対しても向けていただきたいです。

 ……業界からの圧力がないと聞いて、ちょっと安心しました。でも、公開されている情報を、我々一人一人が知らなければ意味はなく、個々の意識と行動にかかっています。土地の購入は、生涯にそう何度もあるわけではないので、手間を惜しまずに調べてみてはいかがでしょうか。

お知らせ:防災イベント「BO-SAI 2011 in 豊洲 〜EXPO version〜」

 10月1日(土)と2日(日)に、ららぽーと豊洲で親子で学べる防災スクールの無料イベントが行われます。

 豊洲地区一体で開催する防災をテーマにしたユニークなイベント「BO-SAI 2011 in 豊洲 〜EXPO version〜」は今年で4年目。今回は3月11日の東日本大震災を受けて、より詳しく実用的な防災に触れてもらえる展示や体験プログラムを用意しました。非常食の試食ができるカフェスタイルの防災情報提供コーナー「地震ITSUMOカフェ」も楽しめますよ。

 無料イベントですので、お気軽にお越しください。ナカヤマもサポートスタッフとして、イベント運営のお手伝いをしてきます!

著者紹介:中山順司(なかやま・じゅんじ)

 シックス・アパート株式会社 / スキナヒト製作所 所長。1971年生まれ。Covenant College(米国)卒業後、携帯電話キャリアでマーケティングと営業に携わり、2000年にネット業界に転身。旅行予約サイト(現楽天トラベル)で観光旅行コンテンツビジネスを立ち上げ、その後始めた個人ブログがキッカケで、ブログソフトウェアベンダーのシックス・アパートに(現職)。

 2010年12月、フツーの男女のフツーの出会いをプロデュースすることに特化した、世界一マジメな恋愛インキュベーション・プロジェクト「スキナヒト製作所(β)」を設立。


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