平日の昼間から釣りがしたいから独立した私脱ガンジガラメの働き方(1/2 ページ)

東京の最高気温は39.5度。2004年の夏は暑かった。ふと外を見たら、平日なのに釣りをしている人がいた。すでに定年を迎えて悠々自適だったのかもしれない。しかし、そのときの私には、ただただ、うらやましかった。

» 2011年08月29日 07時32分 公開
[森川滋之Business Media 誠]
写真は本文とは関係ありません

 2004年の夏は暑かった。特に7月が酷かった。7月20日の東京の最高気温は39.5度。8月は少しマシになったが、この年の暑さは、私の重い気持ちをさらに重くするには十分だった。

 当時、私は行徳から大門まで電車で通っていた。門前仲町で東西線と大江戸線を乗り換える経路だ。東西線は、西船橋から西葛西まで高架を走っている。その間に新旧の江戸川と中川の3本の川を越える。

 重い気持ちを引きずりながら、ふと窓の外を見たら、平日なのに釣りをしている人がいた。すでに定年を迎えて悠々自適だったのかもしれない。しかし、そのときの私には、そんな当たり前のことを考慮する余裕もなかった。ただただ、うらやましかった。

 私も好きなときに釣りがやれる身分になりたいと思った。このときに、独立することを決めていたのだろう。

 この時から1年と少し後、私は独立していた。

たぶん、君のほうが向いている

 私は、独立のすすめはしない。会社員でありながら「制度、ツール、システム、評価」のしばりから自由になれるのなら、それに越したことはないと思う(「脱ガンジガラメの働き方:あなたをしばっているものは何?」)。

 ただこれは、限りなく自営業に近い働き方を求められるのではないか。そうだとすれば、自営業者の実感を知っておくのもムダではあるまい。そう思って、キーボードをたたいている。

 昨日、古巣の会社に同期を訪ねていった。数日前、彼がFacebookでメッセージをくれたのが発端だった。

 いま、人事部長をやっているのだという。私は法人向けの研修事業を始めようと思っていたところだったので、営業させてもらおうと思った。ただ、彼は実にいい男であり、人に好かれている。本当のところは彼に久しぶりに会いたいという気持ちのほうが強かった。

 最初の挨拶のときに、彼が「この不況の中で独立して6年も続いているのはすごい」と言ってくれた。

 私は、ちょっと複雑な気持ちになった。

 彼は、社交辞令を言うような男ではない。人並みに追従することがあっても、それは先輩やお客を少し持ち上げるだけのことで、嘘はつかない。彼は本気で「すごい」と思っているのだ。しかも、顔が少し疲れていた。現在会社が大変な状況なのだという。

 複雑な気持ちになった理由は、どう考えても私よりも彼のほうが自営業に向いているからだった。話を聞きながら「たぶん、君のほうが向いているよ」と私は思っていた。

 しかし、彼はそのことを知らないし、敢えて伝えることもしなかった。知ったからといって、それが彼の問題を解決することにはならないからだ。

自由にやりたいと思ったら成功しない

 彼はたぶん、独立できるのはそれなりに才能があるからだ、と思っているのだろう。

 もちろん才能が皆無では独立はできない。ただ、それほど特殊な才能も実は必要ない。

 自営業者の友人は「10年同じ仕事をしていたら、素人からみたら神に見える」と言う。「神」は大げさだと思うが、10年やり続けていたら独立するには十分な能力が得られるという点では、友人に同意する。

 大事なのは才能ではないのだ。濃密な時間をどれだけ使っているか、なのである。

 私の周囲には、自営業者や中小企業経営者がたくさいんいる。私自身、6年やってみて、ハッキリ分かったのは、努力した分収入も多いという、実にありきたりな事実だった。

 努力というのは、労働時間が長いという意味ではない。一点に絞って、それに対して、常に工夫を怠らない。当然労力もかける。 この時間をどれだけかけているか、それだけなのである。

 松下幸之助、稲盛和夫のようなビッグネームはもちろんのこと、私の周囲のプチ成功者も含めて例外はない。才能だけなら、彼らより優れた人はたくさんいるが、成功は才能ではないのだ。

 成功は才能ではなく、事業にかけた濃密な時間――。これは断言できる。そして、このほかに成功法則などないのだ。

 先ほど、私の同期のほうが私より自営業者に向いていると思った理由は、これである。彼の仕事ぶりは、在籍当時から聞き及んでいたが、それから判断すると、必ずこのような努力ができる男だと思えるからである。

 だから、これも断言できるが、私のように好きなときに好きなことがしたいという動機で独立しても、成功はしない。

 でも――でも、なのである。

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