システム手帳復活にかけた名門「ASHFORD」の挑戦手帳2012

25年の歴史を誇るシステム手帳の“名門”、ASHFORD。その名門が2010年夏からシステム手帳の新規格を採用した「HB×WA5」を発売。システム手帳復活にかける同社の狙いを聞いた。

» 2011年07月12日 10時00分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]
新規格「HB×WA5」の売れ筋アイテム「LORFFER」(1万500円)。表面の本革と内側の合皮を組み合わせて、質感と価格のリーズナブルさを両立させたアイテム

 ASHFORDは25年の歴史を誇るシステム手帳のブランド。

 その名門が2010年8月からシステム手帳の新規格を採用した「HB×WA5」シリーズを発売している。システム手帳復活にかける同社の狙いを聞いた。


ブーム時以来の名門ブランド

 システム手帳ユーザーにとって、ASHFORDの名は名門として知られているだろう。

 システム手帳が日本に上陸した1980年代なかばに創業。1986年にはバイブルサイズのバインダーを発売。ブーム当時からずっとある息の長いブランドだ。またリフィルとバインダーの両方を作っている数少ない例でもある。

 その来歴はやや複雑だ。現在同ブランドを発売するシーズンゲームは、綴じ手帳で有名なダイゴーの子会社。同社は、かつてASHFORDブランドを販売していたチャンドラーから、2001年にブランドと事業を継承。以来名刺入れやシステム手帳などの革製品を中心に上質でカジュアルなアイテムを製造販売し続けている。

シーズンゲームの向井氏。もともとASHFORDブランドを持っていたチャンドラーの時代から一貫して同ブランドに携わり、現在は製品企画も担当する

 そんなASHFORDブランドの特徴を、同社営業部の向井善昭氏は次のように語る。「革製品というとビジネスのイメージが強いせいか、黒や茶色のイメージがあります。うちはプライベートでも使ってもらえることを狙っています」華やかでカジュアルな色柄が多い同社の製品ラインアップには、そんな狙いがあったのだ。

 名門の定評と確固たる個性を持つASHFORDだが、システム手帳に関しては課題があった。売り上げがここ数年、前年比を割続けていたからだ。激減ではないものの先行きは明るくないのではないか。

 「システム手帳はダイアリーとノートを1つにまとめ、しかもポーチなども内包できる。ポテンシャルが高いアイテムです。なくなることはないけれど、今の時代に合うシステム手帳を作ろうと考えました」

 ユーザーにヒアリングすると「システム手帳は重い」「バイブルサイズはユーザーの嗜好をアピールするには小さく、メモ帳みたい」「でもA5だとテレビドラマの秘書みたい」などの意見が寄せられたという。

試行錯誤した新規格

試作品の1つ。高さがミニ6穴。横幅をバイブルサイズにしたもの
試作品バインダーを開いたところ。確かに記入面は大きくなっている

 そこで既成のものをベースに、いくつかの試作品を作った。まずコピー用紙を新規格のサイズにカットしてみた。例えば、

  • ミニ6穴の高さ×バイブルサイズの幅のもの
  • A5の高さ×ミニ6穴の横幅

 などだ。特に前者は実際にバインダーを制作してプロポーションを確かめた(写真)。その中でも感触がよかったのが、高さがバイブルサイズ、幅がA5のものだった。「HB×WA5」という名前は「高さ(Height)がバイブル(Bible)、幅(Width)がA5」に由来している。

 このプロポーションにすることで、手帳としての最低限のコンパクトさを保ちながら、記入面を確保することができる。また、既存のアイテムが流用できるメリットがあった。そもそもリング規格まで一から作るのはムダが多い。そうではなく例えば、ブックマークリフィル(しおり)や穴の補強パッチ、それにパンチなどバイブルサイズのアイテムが流用できるメリットはとても大きかったという。

 規格の検討は2009年10月からはじまり12月にはGOサインが出た。そしてある販売店グループに相談し、先方からアイデアももらいつつ開発を開始した。

「売れるってこういうことなんだな」

 こうやってできた製品を2010年8月にその販売店グループのある店舗で先行販売したところ、好感触を得た。なにより販売店のストアマネージャーが向井氏に急に優しくなったという。そこで向井氏は「売れるってこういうことなんだな」と実感。以降9月には各地の系列店舗で、11月以降はすべての扱い店で展開することになった。

 この先行販売は、販売戦略の転換にも役だった。8月の時点ではチラシのメインビジュアルは女性と花や蝶のイラストだったが、販売店からは「システム手帳らしさをもっとアピールするほうがいい」という意見が出ていた。そこで11月には「システム手帳革命」というコピーを大きくあしらった広告を出すことになった。これもいきなり手帳シーズンから展開していたらできなかったことだろう。

リフィルフォーマットも一新

 長年販売されている手帳は、システム手帳に限らずあまりフォーマットを変えられない。ずっと購入している顧客が混乱するからだ。ASHFORDもバイブルサイズのリフィルはその例に漏れなかったが、新規格のリフィルはデザインも一新した。

 想定ユーザーは、30代前半から40代、50代ぐらいまで。ただ実際には「社会人5年目」ぐらいの層を意識したという。「この層の方は上司からの通達や部下の管理などがあり記入面が大きなものが必要ではないかと想定しました」(向井氏)。

 例えば見開きで2日分のスケジュールを見渡せるリフィルのデザイン面での特徴は、レイアウトにある。システム手帳はどうしても真ん中のリングが気になる。だからいったん記入したら見るだけのスケジュールを左ページに、頻繁に記入するメモ部分を右ページに配置した。


LORFFERのバインダーを開いたところ。記入面のプロポーションはスクェアだ。右の写真の左側はHB×WA5の人気アイテム「FINADO」(フィナード、2万4150円)、同じく右側は「CHARTRES」(シャルトル、1万9950円)。FINADOは牛革にトカゲのパターンを型押ししたもの、CHARTRESはやはり牛革にクロムなめしを施して彩色したもの。いずれも人気のアイテムとのこと

スマートフォンと共存できる手帳

 また、バインダー部分の根幹となるリングも見直したという。ASHFORDは長年ドイツ製のクラウゼブランドのリングを使っていた。ところが工場がドイツ以外の国になったとたんに品質が落ちた。そこで急きょ中国の工場に発注。ASHFORDのブランドネーム入りのリングを生産し利用しているという。

 「HB×WA5という規格をもっと普及させたい」と向井氏。今年はリフィルをさらに充実させる予定だ。現在の課題は、スマートフォンとの共存である。iPadもiPhoneも使っている向井氏が発想する次なる製品の形が待ち遠しい。

7/12 15:45【記事修正】初出時、具体的な販売店名を挙げ、販売施策などを示しておりましたが、メーカーからの要望により、具体名を削除しました。


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