無料サービスのビジネスモデルを描いて思うことプレゼンがうまい人の「図解思考」の技術

「図解思考」のセミナーで必ず参加者にやってもらうことの1つに、身近な企業のビジネスモデルを描いてもらう、というのがあります。今回は、無料でのコンテンツ配信サービスのビジネスモデルを描いてみて、あらためて発見したことについて説明したいと思います。

» 2011年06月14日 16時40分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 最近は、無料のコンテンツサービスが乱立し、一見するとコンテンツサービス自体が成り立たなくなっているようにも思えます。筆者自身も昔は出版社に勤めていましたから、コンテンツづくりにどれほど手間がかかるのかは肌身に感じます。それに対して、価格をつけることのできない状態というのは、なんとも厳しい……。大手新聞社では有料の電子版サービスを模索し始めています。

 今回は、無料でのコンテンツ配信サービスのビジネスモデルを描いてみて、あらためて発見したことについて説明したいと思います。

なぜ有料購読者は料金を支払うのか

 無料サービスのビジネスモデルを描く前に、まずは最もトラディショナルな「商売のかたち」を確認しておきましょう。サービスや商品を提供して、対価を得るという基本形です。例えば、ニュースを配信する会社であれば、記事を提供し、その購読料を得るのが基本的なビジネスモデルになります。

 しかし、最近のニュースはWeb上で簡単に無料で見ることができます。そこで、ニュース配信業者としては、コンテンツを「無料で見れる標準コンテンツ」と「有料会員だけが見れるプレミアムコンテンツ」にわけて、購読者の一部に課金するようにします。

 この場合、大多数は無料購読者なので、有料購読者はその分のコストも含めたプレミアムを支払うことになります。それを図解すると、以下のようになるでしょう。

 この場合、無料購読者が大多数ですから、有料購読者は相当の料金を支払うことになります。しかし、多くの記事が無料な中、有料購読者はあえて有料記事を購入する「理由」があるはず。それは、なにか――。「業務で使う」「投資情報に利用する」「自分の生産性を大きく変える」など「購読料よりもはるかに高い付加価値」を生み出すためのコストと考えているから平気なんですね。

 一方、ニュース媒体としては、読者が増えると広告媒体としての価値が生まれます。そこで無料の購読者に対しては、記事を無料で提供する代わりに広告を閲覧してもらうことにします。ニュース配信業者は、広告主に「記事の横に広告を出す権利」を提供し、その見返りに「広告代金」をもらいます。

 そして、広告主は、無料の購読者が広告を見て商品を買えば、そこで「商品代金」(下図の例ではビール)を得ることができます。記事は一見すると無料ですが、結局、利用者はそのコストを別のかたちで支払っていることが分かります。最近の無料でコンテンツを提供するサービスの多くが、こうしたビジネスモデルをとっているのです。

フリーライダーは幸せか

 さて、利用者が最終的にコストを負担しているといっても、まったく負担しないユーザもいるわけです。このケースでいえば、有料購読もしないし、ビールも買わないで、記事を無料で見るひとたちです。いわゆる「タダ乗り(フリーライダー)派」です。しかし、タダ乗り派は果たして、本当にお得なのでしょうか?

 商品やサービスの購入者は、自分の考える代金以上の価値があるからこそ、それを購入するものです。たとえ有料であっても、たとえ高額であっても、それ以上の付加価値を自分の中に生み出すからこそ、代金を支払えます。有料だけど、それによって「株やFXで儲かる」「自分の生産性が向上することで給与が上がる」「ビールを飲むことによって代金以上に幸せな気分になれる」……。

 そう考えるとタダで得られることに固執するのもどうかと考えてしまいます。タダで得られる情報は、一般的には希少性に乏しく、価値が高くありません。そうした情報から生み出される付加価値も知れています。

 個人的には、日本全体で付加価値(その総和がGDPなわけですが)を高めていくために、もっと良質のコンテンツにお金を支払うトレンドを作るのも大事だと思います。私は、無料が基本のWebサービスの中で、多くのサービスを有料で受けています。無料との差異が小さくとも、その差が生み出す自分自身の知的生産性を考えると、絶対にペイすると考えているからです。

 あなたは、どちらのタイプの利用者ですか?

集中連載『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』について

『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』 『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』(永田豊志・著、中経出版・刊、A5判/208頁、本体1500円)

 パワポの前に「図」で考える――。ベストセラー『頭がよくなる「図解思考」の技術』の第2弾となる本書は、プレゼンテーションの根幹とも言える「メッセージをどう作り、どのように伝えるのか」を図で整理する方法を解説しています。

 「見栄えのいいスライドを作ること」や「説得力のある話し方をすること」も当然大事ですが、プレゼンの目的(メッセージ)そのものが洗練されていなくては、聞き手の心には届かないからです。営業プレゼンテーションや講演に限らず、ちょっとした説明や商談、または報告などにも応用可能で、あらゆるビジネスシーンで活躍するはずです。


目次

  • 第1章:残念なプレゼンは、なぜ眠たくなるのか?…面白いプレゼンの秘密とは?
  • 第2章:考えがスッキリまとまる図解プロットの技術…自分の考えを整理する方法
  • 第3章:「合体ロボ作戦」でシナリオに磨きをかける…プレゼンの流れを作り出す
  • 第4章:魅力的なスライドラフを描いてみる…ハイクオリティなラフ描きの技術を公開
  • 第5章:図解プロットに挑戦!…実際に、考えをまとめ、シナリオを作り、ラフを描く
  • 第6章:魅力的なアイデアを作り出す10のテクニック…使えるアイデア発想法

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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