“せんべろ”居酒屋のビジネスモデルを酔っ払いながら考えた(ネタフル編)ビジネスフィールドワーク

最近話題の“せんべろ”居酒屋。「1000円でベロベロになるまで飲める居酒屋さん」のことで、サラリーマンにとって貴重な味方。そんなせんべろ居酒屋を体験することで、現代に必要な居酒屋ビジネスの本質を探るのが今回のお題です。「ネタフル」のコグレマサトさんとせんべろ居酒屋に行ってきました。飲みたいから始めた企画では決してないですよ(たぶん)。

» 2011年06月06日 10時45分 公開
[取材:コグレマサト,Business Media 誠]
ブログ「ネタフル」の中の人、コグレマサトさん

 最近話題の“せんべろ”居酒屋をご存知でしょうか。「1000円でベロベロになるまで飲める居酒屋さん」のことで、中島らもさんらが著した『せんべろ探偵が行く』などに詳しい。要は、安価に飲めて、十分に酔える(楽しめる)飲み屋さん――といったところです。2008年のリーマンショック以来、すっかり財布のひもが厳しくなったサラリーマンにとって貴重な味方でもあります。

 そんな、せんべろ居酒屋を体験することで、現代に必要な居酒屋ビジネスの本質を探るのが今回のお題。決して「昼間から堂々と飲めるぜ」などと、よこしまな気持ちで立てた企画ではありません。ブログでも何度かせんべろ体験をしたことを書いていた「ネタフル」のコグレマサトさんと誠 Biz.IDの編集長こと私、鷹木が東京・東十条から赤羽、茅場町、神田周辺のせんべろ居酒屋を1日で6件ほどまわりました。繰り返しますが、飲みたいから始めた企画では決してないですよ(たぶん)。

 なお、今回NTTコミュニケーションズの協力で、取材で撮影した写真(119枚)はすべて「OCNマイポケット」に保存しています。この取材で、コグレさんがスマートフォンで撮影した写真もアップロードしています。OCNマイポケットユーザーであれば、記事で公開していない写真も共有できるようになっています。OCNマイポケットユーザーの読者はぜひ編集部にIDをご連絡ください。

いざ、せんべろの聖地へ

 2011年5月某日16時ごろ――。われわれ2人は手始めに、せんべろ居酒屋の聖地とも言える十条・赤羽地域に向かいました。土地柄でしょうか、朝から開店している格安のお店が多いです。最初の目的地は知る人ぞ知る、十条の「斎藤酒場」。いざ出撃! と気合を入れましたが、なんと開店は16時30分から。「少し時間をつぶしますか」(コグレさん)と、十条銀座商店街へぶらりと入る2人でありました。

 天気は曇りでしたが、なんとなく蒸し暑い午後。早くキューっと飲みたい気持ちを抑えて商店街へ。16時過ぎの商店街は夕飯を準備する主婦たちが主役です。なかなか活気があって、「いまどきの商店街にしては、個人商店ががんばってますね」とコグレさんの分析もするどい。そんな時に目に付いたのが「鳥大」という焼き鳥屋さん。こんな時間だが早くも若干の行列もできていました。軒先の看板には「テレビでも紹介、名物チキンボール」とありました。このチキンボール、お店の人に聞くと1個10円だそうです。


鳥大の様子。大きい人が編集部の鷹木です。結構並んでました。

 焼き鳥を2本(1本80円)と、チキンボールを6つもらって合計220円。チキンボールは10個単位で購入する人が多く、がたいのいい男2人が6個しか買わないなんて貧相に見えたのか、お店の人には「それだけでいいの?」と言われましたが、気にせず会計。「われわれにはこれから先、長い戦いが待っているんです」とは言いませんでしたが、ありがとうの言葉とともにコグレさんと鷹木は焼き鳥とチキンボールをほおばったのであありました。


チキンボール(左)と焼き鳥(右)

 「まだ開店まで時間がありますね」ということで向かったのが、十条駅前にあった「龍馬」という、串焼きがおいしい立ち飲み屋でした。さっそく2人はビールで乾杯です。商店街が元気だからでしょうか、すでに先客もいるようす。

 ここで当初の目的どおり、コグレさんとせんべろビジネスを考えてみました。「やっぱり1000円でべろべろになるには、食べ物だけじゃなくて、飲み物が安いことがポイントですよね」とコグレさん。確かに、気取ったバーとかだとビール1杯で600円以上、時には1000円前後の場合もありますが、それではちょっとべろべろにはなれなさそう。ちなみに龍馬は5本の串焼きセットとビール2杯で1290円。2人でこの金額だからまずまずだったと思います。



斎藤酒場はジェントルマンのせんべろだった

 そうこうしているうちに、ようやく時間も16時30分をまわりまして、満を持して斎藤酒場に向かいました。入ってみると、ほぼ満席。こんな時間は働いている人が多いと思っていましたが、斎藤酒場ではこの時間帯から飲む時間なんですね。

 壁にかけられた飲み物メニューを見ると、ビンビールの大瓶が490円、小瓶が360円、エビスビールの黒生が380円、たる酒が250円、清酒が170円、酎ハイが280円と安い! 特にべろべろに酔えるであろう、焼酎が180円、泡盛が220円と激安です。

 斎藤酒場は雰囲気も印象的。普通、安い居酒屋というと若者が多くて、がやがやした状態になりますが、時間帯が早かったこともあり、お客さんの年齢層が比較的高いように見えました。皆さん黙々と飲んで、飲み終わったら帰るというシンプルな飲み方です。店員さんもせかすようなところがなく、本当に時間がゆったり流れていました。これは過ごしやすい! 「お客さんが非常にジェントルです。創業が昭和3年(1928年)ということもあるんでしょうけど、常連さんが多いのかな。お店の雰囲気にあった飲み方をしていますね」

 結局、コグレさんは酎ハイ、お湯割り、にごり酒の3杯、鷹木も電気ブラン、たる酒、清酒の3杯を開け、おつまみを数点つまみ、2人で2270円となりました。

いこいで感じたJSO、喜多屋で感じたフレンドリー

 続いて向かったのは、赤羽の「立飲みいこい」。18時前につきましたが、店内はかなりの人でにぎわっていました。こちらも飲み物メニューが手ごろな店名どおりの立ち飲み屋さん。斎藤酒場と大きく異なるのが、注文ごとに現金を支払う「キャッシュオンデリバリー方式」だったこと。このため、お店の人の仕切りがずいぶんカチッとしていた印象があります。

 僕たちも含めて、はじめて来たお客さんに「はじめてなの? うちはそのつど払ってもらうから。今日のおすすめは○○だよ。あ、あと携帯は禁止ね」と矢継ぎ早に伝えてきます(携帯が禁止なのは店内の撮影を禁じているのと、携帯をいじって客の回転が遅くなるのを防ぐ効果がありそうでした)。逆に常連さんには「いつもの○○ね」と言いつつ、すぐに飲み物を持ってくるのが驚異的。いったい何人の常連さんの「いつもの」を覚えているのでしょうか。

 注文ごとに支払うキャッシュオンデリバリーの場合、お金を用意しなくちゃいけないためちょっと注文が面倒くさくなりがちですが、逆に頼むととてもスピーディーに飲み物や食べ物が出てきます。雰囲気はピリッとしますが、スムース&スピーディーでこれはこれでいい感じ。「お金を支払えばやることをやる。情にほだされない感じがいいですね。それから常連さんへの対応がすばらしいです。これは『JSO』(常連さんオプティマイゼーション:JorenSan Optimization)と言ってもいいかもしれません(笑)。店のルールはありますが、そのルールを守る限りは竹を割ったように分かりやすい店なのでしょう。僕たち客側もお店へのオプティマイゼーション(最適化)が必要なのもしれませんね」

 いこいでは2人で2000円ほどの飲んで、同じく赤羽の「喜多屋」に河岸を変えます。こちらはいこいとは打って変わって、かなりアットホームな雰囲気。横で飲んでいるお客さんに「ここはモツ煮込みがおいしいんだよ」と言われてオーダーしてみたり、「へー、せんべろめぐりをしているんだ。そしたら王子の『平澤かまぼこ』に行きなよ」と取材先を教えてくれたり、とにかくお客さんがフレンドリー。フレンドリーすぎて、お客さん同士でケンカが始まっちゃうほどでした。ここでは2人で1000円ほど飲み食いし、次なるせんべろ、茅場町の「ニューカヤバ」へ向かうのでした。

せんべろってスポーツかも? キャンプかも?

 ニューカヤバへの移動中、コグレさんと話題になったのは「こんなせんべろがあったらいいなあ」という話です。例えば、お酒の種類を制限したせんべろ。日本酒だけ、ウイスキーだけ、さらに絞って日本酒ならぬる燗だけのぬる燗バーだったり、ウイスキーならハイボールだけのバーだったり。「1人でぶらっと来て、さくっと飲んでさくっと帰れるのがいいですよね」

 一方、喜多屋のようなオープンマインドでアットホームな居酒屋にも魅力はあります。1人でのんびりもできるし、気が合えば隣のお客さんとも和気あいあいと飲める――。そんなせんべろだったら、常連にもなれそうですしね。

 そうこうしているうちに、JRから東京メトロに乗り継ぎ、茅場町で下車。ニューカヤバを探します。一瞬お店の前を通り過ぎましたが「あれ、ここじゃない?」と何とか気付きました。というのも、入り口がガレージにしか見えなかったからです。大きな提灯があったから何とか気付きましたが、これは入り口からして期待大であります。

 入ってみると不思議空間。なんとお酒を自分で入れるセルフ方式なんですね。店の奥のほうには焼き場も開放していて、なんだかキャンプ場なみの自由度です。「鷹木さん、自由には責任もあるんですよ」とコグレさん。でも自分でお酒を入れるのは新鮮で、楽しいです。「このルールが楽しめる人にはニューカヤバ、オススメです」。というか、お店ごとのルールに従う必要があるなんて、せんべろってある種、スポーツのようですね。

 ちなみにニューカヤバの閉店時間は21時過ぎ。コグレさんと鷹木が到着したのは20時30分をまわったところでしたので、あまり長居はできませんでした。残念! 2人で700円ばかりお支払いして、最終目的地の神田に向かいます。

店長の人柄勝負!? 六花界

 いろいろな立ち飲み屋さんを回ってきましたが、最後は“立ち焼肉屋さん”です。神田に来たのは、コグレさんオススメの立ち焼肉屋「六花界」。普通の焼肉屋なら6人ぐらいしか座れなさそうなテーブルに七輪を2つ置いただけのお店ですが、中には店長さんも含めて10人以上がぎっしり。

 店長さんは元々大阪でボクサーをやっていたようですが、東京に出てきて焼肉屋をはじめたそうです。雰囲気は喜多屋以上にアットホーム。焼肉をこの狭さで焼くとあっという間に仲良くなるのでしょうか、2つの七輪をすみ分けて、お客さん同士も家族のように飲み食いしていました。店長さんがお客さんの名前をすぐ覚えて、ファーストネームやあだ名で呼んだりするのも独特。狭い店内で料理や飲み物を出すにも大変そうでしたが、お客さんがジョッキを運ぶのを手伝ったりしていて、店長さんの人柄が前面に出た“せんべろ”だったかもしれませんね。「お店の良い雰囲気は店主が作り出します。味もさることながらスタッフによるところが大きい――。その最たるものが六花界でしたね」(コグレさん)

 ちなみに焼肉だけあって、せんべろとしてはお値段は高めです。コグレさんと鷹木は最後の取材先ということもあり、普通に2時間以上飲み食いして、2人で4450円という結果になりました。基本的にお肉は全品500円、飲み物も全品400円なので、うまくコントロールすれば1000円前後で楽しめると思います。


 以上、6つのせんべろを回って、せんべろ居酒屋なるもののビジネスモデルを考えました。皆さんいかがだったでしょうか?

今回使った「OCNマイポケット」とは

 月額315円で10Gバイトまで利用できるオンラインストレージ。今回は、一部の写真をスマートフォンから直接アップロードしたほか、最大12枚まで写真を連続して再生できるスライドショーを活用しました。


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