2009年ごろ米国の労働生産性が四半期で6%以上上昇したことがあった。理由は簡単で、生産性の低い仕事をどんどん切り捨てているからだ。リストラされた労働者は需要のある産業で再チャレンジしているのである。
人事コンサルタントを務めるかたわら、人事制度、採用などの各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。著作に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか−アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』ほか。
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2009年ごろ米国の労働生産性が、四半期で6%以上上昇したことがあった。2009年以前の過去6年間で最大の上げ幅らしい。理由は簡単で、生産性の低い仕事をどんどん切り捨てているからだ。
ではリストラされた労働者は? 当然、人を雇いたがっている産業、新たな職場で再チャレンジすることになる。そのダイナミズムの一端を描いているのが本書『グリーン・ニューディール』だ。
グリーン・ニューディールの名の下に、10年間で1500億ドルを投資し、500万人の雇用創出を掲げるオバマ政権。世界のエネルギー大国の中には、イランやベネズエラのように、米国とあまり関係のよろしくない国もいる。そういった“敵”に払う金を国内に向けるというエネルギー戦略&内需拡大というメリットがある。
現在、米国で何が起きているのか。そんなエネルギー分野でベンチャーやファンドが活発に活動し、人や金が流れ込みつつあるのだ。例えば、ソーラーパネルの設置技術を教える公的な職業訓練講座は、今回の金融危機で職を失った失業者で満席状態だ。もちろん、それは需要があるからで、スカウトのためにやってくるリクルーターも絶えることはない。大手鉄鋼を解雇された労働者は風車を作る工場に再就職した。ブルーカラーから“グリーンカラー”への転職である。
僕は、こういうところに、米国の真の地力を感じてしまう。どん底の80年代も、ITバブル崩壊後も、米国は常にリストラをし続けてきた。でもそのたびに、新たな価値とそれを産む産業を作って帝国を維持している。リーマンショックの震源地でありながら、国民が楽観的なのも、そういう新陳代謝のDNAを国民がよく理解しているからだろう。「大丈夫、またなんとかなるさ」
一方で、なんともならないのが日本である。日本の場合“古い仕事”からの新陳代謝を法で禁じた上に、さらに助成金などで補強しているのだから、そりゃあ労働生産性が低迷するのも仕方ない。
大手は組織改革を何一つ満足にできず、下請けにコストカットを押し付けるだけ。それでもダメなら、JALみたいにお上に税金で支援を求める。お上はお上で、230万人以上の社内失業者を食わせるために、税金をばらまく。そういう無責任政策を泣いて喜んでいる有権者も少なくないので、救いようが無い。
せめて、そういうバラマキ賛成者のカンパでやりくりしてくれればいいのだが、当たり前のように借金でツケは将来に先送りされる。
で、たまに「もうこんな先送りはやめよう」と誰かが正論を言うと「このサッチャリストめ!」とか「日本の伝統を守れ!」とか左右のバカから十字砲火を浴びるのだ。もう無茶苦茶である。
なんだろう、腐敗も新陳代謝もしないよう、ホルマリン漬けにされてるようなものか。ホルマリンの中では、息苦しいのも無理は無い。
連合などの社内失業擁護論者は「安定した雇用が消費拡大を生む」と説くが、くだらない言い訳だ。若いもんも(ついでになぜか老人も)経済や社会保障制度を信頼してバンバン消費している人間なんて見たことない。みな心の底では、この先、先細る一方だと感じているに違いない。
今必要なのはモルヒネでもホルマリンでもない。抜本的な大手術である。
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この連載は城繁幸氏の公式ブログ「Joe's Labo」から抜粋・再編集したものです。
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