65万円の控除を青色申告で得る“超”具体的な方法(e-Tax編)イチから分かる確定申告(1/5 ページ)

いよいよ最終回を迎えた短期連載「イチから分かる確定申告」。最後はe-Tax編です。

» 2011年03月14日 15時00分 公開
[奥川浩彦Business Media 誠]

 確定申告をする人には「e-Tax」という言葉自体はかなり浸透しているだろう。e-Taxの正式名称は「国税電子申告・納税システム」といい、インターネットを利用し、税の申請や納税に使用する、国税庁が開発・運営するシステムだ。ちなみに開発費は500億円、ランニングコストは年90億円、随意契約によりNTTデータが運用を行っているらしい。

 サラリーマンや個人事業主の視点で見ると所得税申告が主な対象となるが、申告手続きとしては法人税、個人の消費税、法人の消費税、酒税、印紙税も対象となっている。さらに法定調書、給与所得と退職所得の源泉徴収票、納税証明書の交付請求、開始届出書……といったオンライン利用拡大対象重点手続が15項目、それ以外にも申請、届出、納付手続などが対象となっている。

 e-Taxの普及状況を見てみよう。国税庁のWebページに掲載されている「平成21年分の所得税、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」を見ると、平成21年(2009年)分=平成22年(2010年)に確定申告書の提出を行った人数は2367万人、IT利用人数は960万人で40%を越えている。

 もう少し細かく見ると、960万人の内、自宅のPCを使用した人は494万人、税務署のPCを利用した人は466万人となっている。自宅利用者の内訳を見ると、各種ソフトを利用しe-Taxで申告した人が231万人で全体の9.7%、国税庁のWebページにある「確定申告書等作成コーナー」からe-Taxで申告した人は49万人で全体のわずか2.1%しかいない。

 各種ソフトを利用しe-Taxで申告というのは、「やよいの青色申告」などの青色申告ソフトはe-Taxへのデータ書き出しが可能で、申告書を作成する作業は市販ソフトを利用し、送信するところはe-Taxを使用している人だ。各種ソフトと国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使ってe-Taxで申告している人を足すと10%を越え、10人に1人が自宅からe-Taxで申告をしていることになる。ちなみに1度だけ受けることのできる「電子証明書等特別控除」の適用を昨年受けた人は18万人となっている。

 e-Taxを利用するには、PCやインターネット回線以外に、

  • 電子申告・納税等開始届出書の提出
  • 住民基本台帳カードの発行&電子証明書の発行
  • ICカードリーダーの購入

 が必要となる。「電子申告・納税等開始届出書」の提出はインターネットを使用して行えるので問題はない。住民基本台帳カードの発行&電子証明書の発行は、役所に行って手続きをしなければならない。筆者の住む名古屋市の場合、住基カードの発行に500円、電子証明書の発行に500円、郵送による申請は可能だが、交付の際は役所に行く必要があるので交通費と郵送料も自己負担となる。

 ICカードリーダーは市販の製品を用意する。価格は2000円前後だ。住基カード、電子証明書、交通費、ICカードリーダーの合計金額は3500円前後となるので、「電子証明書等特別控除」の5000円をゲットしても、実質は1500円くらいにしかならない。「電子証明書等特別控除」は1度だけなので、雰囲気は1万円払ってETCを付けると高速料金が人生で1度だけ14000円安くなるといった感じだろうか。

 先日「確定申告、e-Taxを“知っていながら使わない”理由とは」という記事を本誌で掲載した。記事のアンケートによるとe-Taxでインターネットから申告できることを知っている人は86.9%だが、今年の確定申告方法でe-Taxと答えた人は14%。利用しない理由の1位は「ICカードリーダライタの入手に費用がかかる」で21.4%。2位は「電子証明書の取得に手間がかかる」で19.1%となっている。

 多くの方がインターネットを通じて買い物をしてお金を動かしていると思うが、ICカードリーダーで認証しないと使えないサイトというのは世の中にどれくらい存在しているのであろうか。そもそも他人に成り済まして税金を払いたい人がいるのであろうか。クレジットカードを持っている人は、それで認証できるようになれば、大幅に利用者が増えそうな気がしてならない。

 首相官邸のWebページでは「オンライン利用拡大行動計画」という資料を掲載している。2008年の作成だが、全体で148ページもの資料の中の66ページに「平成23年度以降……納税者本人の電子署名を不要とし、ID・パスワード等による方式を導入することについて検討」と書かれている。もしかすると来年は住基カード、電子証明書、ICカードリーダーが不要になるかもしれない。いつかはe-Taxと思っている人は期待せずに待っていよう。

コラム:普及に差――ETCとe-Taxの違いとは

 3年前70%だったETCの利用率は現在、90%弱までアップしている。筆者がETC利用率の高さを実感するのは御殿場インターチェンジだ。富士スピードウェイの取材で年に数回利用するのだが、いつも料金所のETCのゲートに長蛇の列ができ、一般のゲートにはほとんど列ができていない。せっかちな筆者は一般のゲートでETCカードを手渡して精算し通過している。

 ETCは料金以外にもメリットはある。御殿場インターチェンジの渋滞例は特別として、普段は料金所で停止の必要がなく、現金を用意する必要もない。e-Taxも「電子証明書等特別控除」の5000円以外に確定申告会場に行かなくていい、書類を添付する必要がない、還付が早いなどのメリットはある。

 利用率90%弱と10%強の差は、やはり金銭的なメリットの差であろうか。高速料金休日1000円が始まる前から深夜割引や通勤割引などの金銭的メリットがあったETCは、早い時期から高い利用率を達成していた。もしETCのメリットが料金所の停止や現金だけだったら多くの人がETCを装着しないと思われる。

 筆者は2005年春にETCを装着した。ポイント2倍、3倍といった大盤振る舞いをした時期で、グラフを見ると30%の普及率が1年で倍近くまで上がっている。ETCは早々に飛びついた筆者だが、e-Taxは今のところ様子を見ている。とは言え、来年、再来年あたりはe-Taxで申告という記事を書く(書かされる)可能性は感じている。


 今のところ筆者はe-Taxを利用する気にならないが、毎年この原稿を書く度にブログなどに書かれたe-Taxの評判はチェックしている。気になる方は「e-Tax 体験記」「e-Tax あきらめた」などで検索すると興味深いコメントを多数読むことができる。

 ブログに書かれた内容の多くは「前準備(住基カード、カードリーダー)が大変」「PCに詳しくないとセッティングが難しい」「メリットがない」という話が多いが、一度成功した人は「2年目からは楽だ」という声もある。

 以前は筆者も誤解していたのだが、国税庁のWebページを利用して申告することの総称をe-Taxと思っている人は多い。国税庁のWebページには「平成○○年分 確定申告書作成コーナー」というサイトも用意され、青色申告やサラリーマンの方の還付申告などに利用できる。筆者もサラリーマン時代に使ったことがあるが、源泉徴収票を見ながら簡単な確定申告を行う程度なら難しくはない。

 先ほどの昨年の利用率のデータでも、確定申告書作成コーナーを利用して書面提出した人は9.1%、e-Tax利用者の2.1%を足すと1割以上の方は確定申告書作成コーナーを利用している。書面提出した9.1%の内訳は公開されていないので、決算書まで作成したのか、簡単な還付申告をしただけなのかは不明だ。

 e-Taxは送信手段の名称で、この確定申告書作成コーナーとは別もの。確定申告書の作成は市販ソフトでもできるし、確定申告書作成コーナーでもできる。できた確定申告書(のデータ)を提出する手段の一つがe-Taxということだ。

 筆者はe-Taxを利用する気がないが、記事で紹介できないかと国税局のWebページにある「確定申告書等作成コーナー 操作の手引 電子申告編」などを見たが、役所に行ったり前準備をしないと操作することは不可能だった。手引き書を見ると多くのブログに書かれている大変さを垣間見ることができる。電子申告の手引は54ページ、書面提出の手引き書は19ページ。両方の手引き書の最初と最後の共通分を除くと、電子申告部分の説明は40ページ、書面提出の説明は6ページとなっている。約7倍のページ数で、7倍難しいかは不明だが、それなりに難易度が高いことが想像できる。

インフレ時代の確定申告
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