スライドのラフを描かずに、PowerPointやWordでいきなり提案書を作っていませんか? 何事も、アウトラインを固めてから作業に移ったほうが、最終的に効率がよくなるものです。
ラフスケッチ(下描き)は、ハイクオリティな提案資料づくりに欠かせないスライドの設計図です。前回は、ビジネスの提案に欠かせない「スケジュール」「予算」「体制」のラフをご紹介しました。今回は、数値データを示す際に、どのようなグラフを使うべきか、そのラフづくりについて説明したいと思います。
グラフのラフを先に描くメリットは、自分のメッセージに合うグラフで、メッセージを補強するために必要な部分だけをチョイスする習慣をつけるためです。Excelで出来上がったグラフをスライドに貼ると、「そこから何が言えるのか?」という分析モードに陥りがちです。
これだと、オーディエンスにとっては「Too Much !」。あくまで、必要最小限の裏付けデータで、プレゼンの信頼性を高めるためにグラフは使うべき。ここでは、主なグラフを使う目的に合わせて、代表的な「グラフのかたち」を紹介したいと思います。
マトリクスは数値データを一覧化する一番シンプルな方法です。グラフ化する前の基本データとなりますが、数値の量を感覚的につかむのが難しいのが弱点です。
数字が細かくなると聞き手はストレスを感じますから、虫眼鏡が必要なマトリクスは使わないように。見た瞬間に、思わず眉間にしわをよせてしまうスライドは失格です!
損益分岐点、需給曲線など、複数の方程式の交点によって、均衡するポイントを見つけるのが、このグラフ。傾きや交点の位置を感覚的に把握できるのがメリットです。
計画を立てる場合にどこまでやれば損益分岐点を越えることができるか、絶対値だけでなく、こうした図として共有しておくとリアリティが違ってきますよ。
パーセンテージ(百分率)によって構成比を示す代表格が円グラフ。円の1一周で100%となるため、構成要素の角度でおおよその比率がイメージできる点が優れています。特に目立たせたいシェアについては、その部分だけ色を変えたり、吹き出しやバルーンをつけて強調しましょう。
円グラフの構成比と同じことを棒グラフで示すパターンもあります。円グラフが相対的な値しか示さないのに比べ、縦軸に目盛りをとることで絶対値も示すことができるのが利点です。
時系列の変化を棒グラフで示した場合。1つの日時に複数の数値を示す場合には、このような複数棒グラフを並べてもよいでしょう。ただし、横並びの棒グラフの種類が3つ以上になるのであれば、次に解説している折れ線のほうがスッキリとして見やすいです。
変化の激しい時系列変化を示すには折れ線グラフが適切です。また、棒グラフやほかの折れ線グラフとの混在も比較的見やすいのが特徴。 例えば、主要5カ国の金利の推移を示す、などいくつもの数値が上下に交差するような場合は折れ線以外は成立しません。
標準偏差や分散など、平均的な値に対してどれくらいバラツキがあるかを示す分布にはこうしたグラフが適しています。物事を単純化するためには「平均」は便利ですが、より統計的な妥当性を求めるのであれば、標準偏差や分散によって平均からの乖離(かいり)がどの程度あるかを示す必要が出てくるでしょう。
縦軸、横軸に任意の項目を設定し、その数量を円の大きさで示す分布図。1つのデータに対して、3つの値(X 軸、Y 軸、円の面積)を示すことができます。ポジショニングマップは、競合する事業や商品の立ち位置や差別化度合いを確認する上で有効な図です。
目標に対しての不足分あるいは余剰分などを示す場合に便利なウォーターフォール図。要素を階段状に分解し、目標値(左端)との最終ギャップ(右端の斜線部)を見える化したものです。さりげなく使えればコンサルタントっぽくてカッコイイですね(笑)。例えば、上図であれば、売上、経費1、経費2、経費3、そして斜線部がターゲット利益――といった具合に使えます。
ウォーターフォールほど複雑でない、2つの数量を比較する場合に便利。例えば、目標と実績の差、2つの事業者間の差など……。矢印によってギャップの大きさを強調でき、明確になります。
比較する対象が2つしかない場合は、このように項目をまとめて、左右対称に配置することで比較しやすくなります。項目名が左右センターにくるので、すっきりします。
レーダーチャート、くもの巣チャートなどとも呼ばれます。製品の機能比較(※機能が何点、デザインが何点、価格が何点……というアレ)などでよく利用されています。複数の対象において、複数の軸で比較する場合に便利です。
さて、これまで3回に分けてスライド作成前の「ラフ描き」を紹介しました。次回は、グラフ編の補足として、グラフ使用時の注意点をピックアップしたいと思います。
パワポの前に「図」で考える――。ベストセラー『頭がよくなる「図解思考」の技術』の第2弾となる本書は、プレゼンテーションの根幹とも言える「メッセージをどう作り、どのように伝えるのか」を図で整理する方法を解説しています。
「見栄えのいいスライドを作ること」や「説得力のある話し方をすること」も当然大事ですが、プレゼンの目的(メッセージ)そのものが洗練されていなくては、聞き手の心には届かないからです。営業プレゼンテーションや講演に限らず、ちょっとした説明や商談、または報告などにも応用可能で、あらゆるビジネスシーンで活躍するはずです。
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。
連絡先: nagata@showcase-tv.com
Webサイト: www.showcase-tv.com
Twitterアカウント:@nagatameister
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.