ほったらかしが「新・ぶら下がり社員」を生む「新・ぶら下がり社員」症候群(1/2 ページ)

30歳前後は人生のターニングポイントだ。この時期に起きる出来事が、これから先の将来を決めてしまう可能性もある。いい方向に転がれば「挑戦元年」になり、悪い方向に転がれば「あきらめ元年」になる。この時期に何もしないまま放置しておくと「新・ぶら下がり社員」はますますくすぶっていく。この年代のサポートは重要といえる。

» 2011年01月27日 11時45分 公開
[吉田実,Business Media 誠]

新・ぶら下がり社員はいつぶら下がるのか

新・ぶら下がり社員とは

会社を辞める気はない。でも、会社のために貢献するつもりもない。そんな30歳前後の社員のことを、本連載では「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。


 最近、IT系企業に勤める30代の男性と話す機会があった。

 彼は組織に対して何の希望も抱いていなかった。

 「職場でのコミュニケーションはほとんどありませんね。改善したほうがいいと思うことがあっても、上司に伝えることはありません。出る杭は打たれる。だから、上司に進言することはないです」

 淡々と語る彼に、昔からそうだったのかと尋ねると、20代のときは上司に対して言いたいことは言い、組織の悪い部分は改善しようと積極的に働きかけていたという。

 一体、何が彼をあきらめさせたのか。彼はしばらく考え込み、「そういえば、すべてをあきらめた瞬間があった」と原因に思い至った。

 31歳のとき、自分の後輩が先に昇進したのである。そのとき、「上に逆らったら組織ではやっていけないんだ」と悟り、上司に嫌われないようにしようと、反論したい場面でもこらえるようになってしまったのである。

 彼と話をしていて、興味深かったのは、自分が組織に対してあきらめた瞬間の出来事を、自覚していなかったことだ。上司からのちょっとしたひと言や出来事で、知らず知らずのうちに、あきらめ感を持ってしまうのである。人によっては、自分に対して、組織に対して、未来に対してあきらめてしまっていることにすら気づいていない場合もある。

 彼の場合、タイミングも関係したのかもしれない。

 30歳前後は人生のターニングポイントでもある。

 『論語』で「子曰く、吾(われ)十有(ゆう)五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず」という有名な一節がある。孔子は15歳で学問を志すと決め、30歳で自己の見識を確立し、独立したとある。

 この時期に起きる出来事が、これから先の将来を決めてしまう可能性は多分にある。

 30歳前後でいい方向に転がれば「挑戦元年」になり、悪い方向に転がれば「あきらめ元年」になる。この時期に何もしないまま放置しておくと社員はますますくすぶっていくので、この年代のサポートは重要なのである。

 私は、会社人生は大きく2つのステージに分けられると考えている。

1.社会人としての自律を目指す時期

 入社してから20代で目指すのは、社会人としての自律だ。自律とは、「自ら考えて行動し、やりきる」ことである。それも、自分1人だけではなく、自分の所属するチームや部署に能動的に働きかける仕事の進め方を覚えていかなければならない。周りの人を巻き込みながら、与えられた仕事において、期待される成果を出し、価値を出す。この時期は、ひたすら自分のレベルアップにまい進する時期だ。

 またこの時期は、「成果を出すことを学ぶ時期」ととらえてもいいだろう。成果を出さずして、仕事の喜びを感じることはない。成果が出せるようになって初めて、「自分がどのような仕事に喜びを感じるのか」「達成感を感じるのか」が分かるようになるのである。

 この段階で主体性やまわりを巻き込む行動力を身につけられないと、自分の軸が見えず、会社人生に限界を感じて、30歳前後で行き詰まる。

2.価値を発揮して貢献する時期

 30代になると、「与えられた仕事で成果を出す」段階を超えて、自分の価値観に沿って、周囲に影響力を発揮していく段階になる。「与えられる」時期から、「与える」時期への転換と言ってもいいだろう。「与える」ことに喜びを感じることができるようになってくる。未来の会社を担う、次世代リーダーやマネジャーへとステップアップする段階である。部下を育成したり、自らプロジェクトを立ち上げてチームメンバーを指揮する場面が増える。短期的・中長期的な企業の戦略など全体像を意識するようになり、自分で方向性を決めて推進することができるリーダーへと変革する。

 つまり、20代の「与えられる」時期から30代の「与える」時期への転換がうまくできないときが、会社人生で壁にぶつかる時期なのである。いつまでも、「与えられる」意識で仕事をしていれば、受身のまま、とにかく言われたことだけをこなすことしかできない新・ぶら下がり社員になってしまう。この30歳前後の転換の時期において、迷いが生じるのはむしろ当然であり、それを「今の若者は」などと一般論で切り捨ててしまうと、問題の本質が見えなくなってしまう。

 私自身も、32歳で壁にぶつかった。

 32歳のころの私は、経営がやりたいのか、営業がやりたいのか、ファシリテーターがやりたいのか、自分の目指す方向性が分からなくなり、悶々としていた時期である。結果的には、壁にぶつかり、自分自身を見つめ直したことで、肩書きや仕事の内容は問題ではなく、「自分は世の中の人の目の輝きを取り戻したい、すべての人が生き生きと働ける世の中を創りたい」という働く目的が生まれた。働く目的が定まったから、新たなことにチャレンジしようという意欲が湧いたのである。

 壁にぶつかった時期に、どう乗り越えるのかによってその後の会社人生が決まる。自力で乗り越えろと突き放したいところだが、今の時代は企業がその道筋を整える必要があるのである。

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