世の中を動かす発明家のマインドセット最強フレームワーカーへの道

電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベル。同時代には同じく電話を発明しようとしていた研究者たちが大勢いました。その中で、ベルだけが持っていたものは何だったのでしょうか。

» 2010年11月08日 18時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 わたしはいつも、発明やアイデアには2つのアプローチがあると言っています。1つは、すでに存在しているものを改善するというアプローチ。欠点を見つけては改良し、より高い価値を付加するものです。より使いやすくなった電気製品や燃費を向上させた自動車などが好例です。

 もう1つは、まだ存在しないものを創造(クリエイト)するというアプローチ。人がまだ気づいていない可能性を発見し、世の中に出して生命を与えます。このアプローチをわたしは“イノベーションのアイデア”と呼んでいます。昔ならソニーのウォークマン、最近ではAppleのiPhoneやiPadなどもこうしたアイデア商品です。

 ところが、世の中にはしばしば、発明した本人すら予測できない、驚くべき結果になる発明というものがあります。その1つが「電話」です。

ベルがどのように電話を発明したのか

電話に向かって話すベル。1876年撮影(Wikipediaより)

 電話の発明はご存知のとおり、アレクサンダー・グラハム・ベルによるものですが、それまで多くのアイデアマン、発明家たちが電話を発明しようとしたのですが、うまくいきませんでした。マイケル・ファラデーが電磁誘導を発見したことで技術的な基礎理論はできていたわけですが、この「ファラデーの法則」以来40年間も電話は発明されていなかったのです。ところが、ベルはそれまで発明家たちが思いもつかなかった方法で、電話を発明しました。iPhone発売より約130年前の話です。

 この発明の原点はさらにベルの子供時代までさかのぼります。ベルがピアノを弾いているとき、ほとんど耳の聞こえなかった母親は、ピアノの共鳴版に補聴器をあてて息子のピアノを聴いていたのでした。そうした光景をいつも目の当たりにしていたベルは自然と、聴覚障害者に共鳴振動を用いて声や音を伝えることができないか、ということに興味を持ったのです。実際、その後ベルは米国に移住し、ボストンろう学校を設立しています。

 プロの発明家たちが電話の発明競争に興じていたころ、彼らは電気信号ばかりに着目していました。そのため声のトーンや声量、微妙な抑揚をとらえることができず、機械的なトーンを運ぶモールス信号みたいなものしか作れなかったのです。

 一方、電磁誘導についてよく知らなかったベルですが、彼はどうやったら声の抑揚を遠くまで伝えることができるかを研究しました。声の発話でゆれる炎や、死体の耳を切り取って小さな骨が音声にどのように共鳴するのか――などを熱心に観察。そして、さまざまな実験を積み重ねて、とうとう連続した電流パターンを送ることで、どのような音でも伝えられることを発見し、特許を出願。電信でばく大な利益をあげていたウェスタン・エレクトリックのグレイが特許を出願する数時間前のできごとだったのです。

心からの欲求に気付いているか

参考文献:『発明家たちの思考回路』エヴェン・I・シュワルツ著(ランダムハウス講談社) 参考文献:『発明家たちの思考回路』エヴェン・I・シュワルツ著(ランダムハウス講談社)

 ベルのマインドセット(思考様式や心理状態)は、あくまで聴覚障害者に音声を伝えられないかという欲求からスタートしています。そして、一見すると電気製品の発明からは遠い、人体と音響の研究、聴覚障害の克服という分野での知見が、この世界を変える大発明につながったわけです。

 わたしたちは商品を作ったり、サービスを提供したりする場合に、その機能や提供方法に意識が行きがちです。しかし誰か身近な人たちを助けたい、役に立ちたい、そうした心からの欲求に促されて行動するとき、誰も見たことのない新しい発見に遭遇することがあるのではないでしょうか。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

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