賛否両論を呼んだ楽天の社内公用語英語化の取り組み。実は筆者の会社でも導入してみました。まずは朝会だけのミニマムな導入ですが、3カ月たった今、徐々に成果が見えてきたのです。
今年になり社内公用語の英語化が話題になりました。有名なのは楽天です。日本同士の会話や社内資料のすべてを英語化。社員食堂のメニューも英語です。同社の三木谷浩史社長はこう公言しています。
英語ができない役員は2年後にはクビにします
しかし、楽天のようにすべての業務を英語化するとコミュニケーションの齟齬(そご)でトラブルが起こりそうです。でも一方で、英語でビジネスできるのは必須のスキルになることは間違いない……と悩んだ結果、わが社は朝会のみを英語にしてみました。
もともと、うちの朝会は1日のアポイントや会議の予定などを淡々と共有する場。時間も10分程度と短いため、英語化を試すのにピッタリと思ったわけです。
ちなみに、当社は海外取引の必然性もなければ、英語ネイティブの社員もおりません。そういう意味では「英語化」に必然性があって始めたわけではなく、どちらかといえば実験的な意味合いが強かったのです。
まずは、スタッフに「1週間だけだから」と言ってスタート。そして1週間後の会議で、継続するかどうかを全員にヒアリングしたのです。そしたら「できれば継続したい」という意見が圧倒的でした。それ以来、英語の朝会を続けているのであります。
そして、3カ月が過ぎました。最初は、日本人同士なのに英語でしゃべっているというシチュエーションになんとなく恥ずかしい気持ちがあったようですが、それは直ぐに消えてしまいました。
自分の話す内容を翻訳ソフトで英語化し、丸暗記して話す人、なんとか自分で分かる単語を組み合わせて必死にコミュニケーションをとろうとする人、いろんなタイプがいます。
短い朝会の合間に、英語のニュースを1本ピックアップして、ほかの人に説明するというコーナーも作りました。ホワイトボードに、よく使うイディオムを書いて説明する場合もあります。iPhoneなどでスキマ時間に英語を勉強するノウハウやアプリなどを共有したり、社内ポータルの中に英語勉強法ページを設置したりしました。
外国語の学習に関する会社の一部費用負担などもスタート。とにかく、あらゆる方法で英語でコミュニケーションすることを推奨してきたのです。そうやって3カ月が過ぎました。やった感想としては、主に3つの効果があったように思います。
以前の朝会は、自分の予定をダラダラしゃべる人が多かったのですが、英語の朝会では英訳して覚えて来なければなりません。そのため事前に話す内容を決めておく必要があるのです。朝会の緊張感も増しました。
また、日本語特有のダラダラ文、あいまい文は、キレイな英語に訳しづらいので、自然と理路整然とした簡潔な文章になります。最初に概要を述べ、詳細を後から補足する。最初にいくつの問題点があるかアウトラインを述べ、順に1つずつ解説する。プロジェクトのゴールに対して進捗が何パーセントで、問題点がいくつ残っているかを説明する――。こういったロジカルな説明は日本語でも表現可能なのですが、英語化することで、必然的に備わってくる、そんな気がしました。
2つ目の効果として、英語でのコミュニケーションに対する苦手意識が減りました。無論、まだ意志を自由に伝えられるほどのレベルではないのですが、スタッフが皆、英語を楽しむようになったように感じます。
翻訳でしか触れたことのない、あこがれの作家の公式ブログなどを見て、コメントを残したり、Twitterで感想を投稿したりするのもドキドキしますが、刺激的です。
「楽しむ」という感覚は、学びを継続する上でもっとも重要なファクターです。語学は特に継続と場数がモノを言う世界。楽しめえさえすれば、みな自然ともっと上手くなりたいと思って努力します。
英語のニュースやブログ、Twitterなどをチェックする機会が増えると、視点が自然とグローバルになります。日本のニュースしか見ない人と、ニューヨークタイムズを毎日見る人では視点も異なります。「世界で何が起こっているのか?」「日本はどう見られているのか?」「何が話題となっているのか?」と考えるようになってきます。
欧米で人気のサービスであれば、日本でも同様のビジネスチャンスがあるかもしれません。ブログやTwitterなどを通じて、外国の同業者から一次情報が得られるのであれば、とても強力です。毎週会う友達とWebサービスでコミュニケーションをとるのも良いですが、せっかくなら、物理的に接触することのできない人とのコミュニケーションに使いたいものですね。
とはいえ、英語化を今後どこまで進めるのかは議論が必要です。日本語でコミュニケーションをしなくなったときに失われる暗黙知もあるでしょう。業務の処理だけでも一杯なのに、英語化するとなると勉強がおぼつかないスタッフも多いでしょう。
しかし重要なのは、好む好まざるに関係なく、英語化という波は避けられないということです。先ごろノーベル化学賞を受賞した根岸さんも「若者は海外に出よ」と言っています。同じような研究をやっていた人は多いようですが、結局英語圏で活躍し、名を馳せないとグローバルでは認められないということを言っているのだと思います。
最初は「小さな、小さな変化」でいいのです。しかし、継続することで「大きな変化」につながります。みなさんのやれそうな「小さな変化」は何でしょうか?
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。
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