意識的に問いかけると言っても、あまり難しく考えないでください。簡単な魔法の言葉があります。
「あなたはどう思う?」
これを使いましょう。例えば、
「お客さんに提出する資料の書き方は、これでいいでしょうか?」と聞かれたら、「資料の書き方に悩んでいるんだね。ところで、あなたはどう思っているの?」と問いかければいい。これで、自分で考えるきっかけができます。
もし、今までの習慣で、つい自分の考えを言ってしまったり、アドバイスしてしまったりしても大丈夫。「わたしは○○がいいと思うけど、あなたはどう思う?」と、最後に「あなたはどう思う?」と問いかければいいんです。
たったこれだけのことで、相手は自分で考え始めます。
ここで、わたしが仕事で体験した「あなたはどう思う?」の例をお話ししましょう。
わたしのチームにA君というエンジニアがいました。A君は技術力があり、言われたことはやりますが、それ以上のことは自発的にやろうとしない人でした。口癖は「○○さんが、そういっているから……」。お客様と打ち合わせに使う書類も、過去につくったものをコピー&ペーストして持っていくようなタイプです。
A君が、これから開発しようとしているプログラムの設計書を書いた時のことです。顧客に確認してもらいにいく前に、書類の品質チェックを受けるために、その設計書を持ってA君が来ました。
「竹内さん、設計書ができました。これでいいでしょうか?」
以前のわたしは、書類の全体をチェックして、「ここは、○○ではないよね。△△のほうがいいよ」とアドバイスしていました。しかし、その時のわたしは、A君にもっと考えてほしい、コピー&ペーストでOKにしないでほしいと思っていたので、「問いかけて」みることにしました。
わたし A君は、この設計書の出来をどう思っているの?
A君 そうですね、今まで指摘されたところはチェックしました。
わたし じゃあ、もっと良くするには、どうしたらいいと思う?
A君 ○○のあたりが、あまり具体的じゃないような気がします。もっと○○にしたほうがいいかなと思いますけど。
わたし あぁ、それは確かに分かりやすくなるね。そのように修正できる?
A君 分かりました。
問いかけることで、わたしがアドバイスをしなくても、A君は自分なりに改善点に気づき、その解決法を考えてくれたのです。「問いかけ」の効果を実感しました。
その後もA君とはこうしたやりとりを何度かしました。そしてある日のこと。いつものように、A君が書類を持ってきました。「竹内さん、書類のチェックをお願いします」。そこで、ざっと書類に目を通し、言葉を発しようとした、その時です。
「あ、自分で考えなきゃいけないんでしたね。もう少し考えてから、また持ってきます」
そういって去っていったのです。この言葉を聞いた時は、本当にうれしかったですね。
これまで自分ではあまり考えようとしなかったA君。しかし「問いかけ」を繰り返すことで「自分で考える」習慣がつきました。その後、A君の設計書の品質は格段に良くなり、わたしも書類をチェックする時間を短縮することができました。
こうして1人、自ら気づき、考えて、行動できるスタッフが生まれたんです。
テイクウェーブ代表。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分が辛かった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場が作れるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、Webや新聞などで幅広い執筆活動を行っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「竹内義晴の、しごとのみらい」で、組織作りやコミュニケーション、個人のライフワークについて執筆中。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。Twitterのアカウントは「@takewave」。
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