サンデル教授の特別講義は本当に「白熱」したのかハーバード白熱教室 in Japan(1/2 ページ)

講義の名手として知られ、日本でも『ハーバード白熱教室』と題して講義がテレビ放映された、ハーバード大のマイケル・サンデル教授。実際に彼の講義に出席してみて感じたのは、知的興奮とある種の違和感、そしてかすかな不満だった……。

» 2010年09月16日 13時12分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]
マイケル・サンデル教授

 8月末、『これからの「正義」の話をしよう』の著者であり、ハーバード大で政治哲学を教えるマイケル・サンデル教授が来日し、東京大学とアカデミーヒルズ(六本木ヒルズ)で2回の講義を行った。

 サンデル教授は類いまれなる講義の名手として知られている。サンデル氏がハーバード大で担当している講義「Justice(正義)」は1万4000人を超す履修者を記録、あまりの人気ぶりにハーバード大では建学以来初めて講義を一般公開することにし、その様子はテレビ放映された。日本でも『ハーバード白熱教室』というタイトルで放映されている(NHK 教育テレビ/BSハイビジョン)。

 筆者はアカデミーヒルズでの“出張講義”に参加することができた。内容の詳細については、別記事「マイケル・サンデル教授の特別講義に出席してきた」にまとめたのでそちらをご覧いただきたいが、実は2時間の講義が終わったあと、非常に面白かったと感じる一方で、筆者はなんともいえない違和感を覚えていた。アカデミーヒルズでの講義は本当に「白熱」したのか? 本コラムでは実際に出席した感想をまとめてみたい。

 →「マイケル・サンデル教授の特別講義に出席してきた」

サンデル教授は「指揮者」だった

黒板なし、スライドなし、テキストもなし。サンデル教授は壇上をぐるぐると歩き回るだけ、とてもシンプルなスタイルの講義だ

 サンデル教授の講義の特徴はソクラテス型の対話方式にある。アカデミーヒルズには約500人の“学生”(おそらくほとんどは社会人)が参加していたが、講義のほとんどの時間は、教授と学生との対話に使われる。

 最後、サンデル教授が講義のまとめを語り終えると、学生たちはみな立ち上がり、大きな拍手を送っていた。大学の講義で、しかも大教室の授業で、終わったあとに学生がスタンディングオベーションというのは初めて見る光景だ。

 講義の時間は約2時間。その間、気がそれることも、飽きることもまったくなく、ずっと講義の内容に没頭していた。筆者は講義中Twitterで実況中継していたので他の人以上に集中していたという事情はあるものの、私語をしたり退屈しのぎに携帯をいじったりしている人は、見回した限りいなかったはずだ。自分が大学時代に受けた大教室の講義を振り返っても、これほど“一体感”があった授業は思い出せない。

 しかしこの“一体感”が、一般的な大学の講義ともまた違うような気がしたのも事実だ。この違和感は何だろう? と考えて至った結論は「これは“ライブ”であり、サンデル教授は指揮者のようだった」というものだった。

 一定のストーリーと用意された結論に沿って、会場の聴衆を巻き込みながら講義という名のライブが進んでいく。ときどき指名される学生の答えは、オーケストラのソロパートのようなものだ。考えが面白かったり独特だったり、感動を呼ぶものであれば――つまりソロパートの演奏が秀逸であれば、ライブはさらに盛り上がる。

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