“全部入り”文具王手帳にないもの、あるもの手帳2010

文具王手帳は“全部入り”だと言ってはみたものの、実は入っていない要素もある。この有名人手帳には珍しい手帳を再度検証してみたい。

» 2010年07月22日 18時00分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]
文具王手帳。機能面は前回を参照

 「結論から言えば、これはある意味で究極の“全部入り手帳”」――と前回紹介したが、実は入っていないものもある。それは「神社性」だ。ここで言う「神社」とは、わたしが有名人手帳を語る際に使うキーワードである。

 文具王手帳は、有名人手帳につきものの神社性とは正反対のアプローチでつくられた、いわば全く新しいタイプの(しかし今までなかったのが不思議なぐらいある意味で正統派の)有名人手帳だといえる。以下に順を追って説明していこう。


神社系手帳とはなにか

 日本の神社は、主に伝説上の人物や土地の神様、精霊や自然の信仰対象を神としてまつっている。そして、実在の人物をまつっていることがある。これは2つの例に分けられる。1つは強い怨念を持って亡くなった人物をまつった神社。平将門をまつった神田明神(三之宮)などだ。もう1つは、武勲をあげた人物をまつった神社で、源頼朝をまつった鶴岡八幡宮や、徳川家康をまつった日光東照宮などがそれにあたる。

 そして神社系手帳(わたしの造語である)とは、有名人の名前を冠し、そのイメージを利用することで商品として成り立っているものをさしている。上記の武勲を挙げた人物をまつった神社とそこが似ている。ビジネス上の成果や高い知名度が、神社にまつられた人の武勲に相当すると言えば分かりやすいだろう。

 もう少し説明すると、

  • 有名人が発案したという事実と、有名人のイメージ
  • その有名人の発案した独自の構造や記入欄
  • 使い方のマニュアルが単行本やサポートメール、Webなどの形で存在
  • 全体として手帳を作った有名人の時間哲学に基づいて作られており、それを使うことで有名人のように時間を有効活用し、成功する(または成功に近づく)ことを意図する

 といった特徴がある。

 まず手帳の本体がある。これは有名人自らが制作・プロデュース。そして独自の記入欄やページ構成、セット内容を使いこなす活用法を、活用本やサポートメールなどで紹介する。場合によっては手帳の内部にその有名人の、メッセージ性の強い名言・箴言が書かれている。

文具王手帳にない「神社性」

 「○○さんのプロデュースした手帳を使えば○○さんのように時間を有効に使えますよ」。神社系の手帳が有形無形に発しているメッセージを言葉にすればこんなふうになるだろう。つまり時間活用のためには、自分が作った手帳が決定的な手段であることが、商品それ自体と活用本のそれぞれに盛り込まれているのだ。時間に関する哲学とその実践方法としての手帳。神社系手帳はそういう形でユーザーにアピールしている。

 ひるがえって文具王手帳はどうだろう。

 文具王が作ったという点では、有名人のイメージを利用していることになる。だが、この手帳には従来の神社系手帳に備わっているような神社性が決定的に欠けている。

 まず6月末の時点において、文具王自らがこの手帳の使いこなし本をだしているわけではない。いや実際にはWebサイトで説明しているが、これは開発秘話とか各所のギミック説明以上のものではない。

 さらに文具王自身による名言・箴言(しんげん)もない。というか、そもそもこれはバインダーであり、記入ページはおろか便覧すらも備えていない。つまり(従来的な意味での)神社性を備えようがないのである。

 有名人が作った手帳でありながら、従来の有名人手帳のような神社性を持たない。これは従来の有名人手帳の文脈では、理解しようとすること自体が難しい。

神社性ではなく機能性と合理性

 有名人手帳はまた、プロデュースした当人のワークスタイルにもっともフィットした手帳でもある。経営者や学者など、世の中にはさまざまな有名人による手帳があるが、スタイルもコンセプトもばらばらなのは、彼らのワークスタイルが多様であることの反映である。文具王手帳もまたこの例に漏れない。

 違う点があるとすれば、神社性というより、文具の集合体という、ひたすら実用的なものを合体させた点にあるのではないか。

 表紙のベルクロ、ゴムバンド、表紙裏のポケット、バイブルサイズ対応の6穴リング、A4対応のカンガルーホルダー。そして裏表紙のジョッター的構造。メモに用いられる各種アイテムをこれでもかとてんこ盛りにした点こそが、文具王手帳の文具王手帳たるゆえんである(機能を寄せ集めたものに特有の十徳ナイフのようなごちゃごちゃ感もないのは大したものである)。また、特定目的に向けて各種パーツを集合させた点は、かつてのスパイ手帳(この手帳を当時販売していたのがサンスター文具。現在の文具王の勤め先である)を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 それはまた、文具王がiPhoneやケータイなどのガジェットにすべてベルクロを貼り付けていることであり、ジョッターを日常的に使い、バイブルサイズリフィルもA4用紙も両方とも使っていることの反映だといえる。

 というよりこれは、時間哲学とかイメージという次元の神社性ではなく、ものの実用性を追求し、それらを合体させた形から効率を生み出そうという文具王のメッセージといえないだろうか。従来の有名人手帳のセールスポイントは神話性だったわけだが、文具王手帳は機能性・合理性で対抗しようとしているわけだ。

 それぞれは便利な道具を合体させて手帳とした文具王手帳。部分部分が実用的なしくみで作られたこの手帳は、文具好きならばすぐに活用してみたくなる仕掛けにあふれている。

 「すぐに使えるしくみをたくさん盛り込んだので、これであなたの生産性を自分なりに追求してみてください」――。箴言も便覧もないこの手帳からは、文具王のそんなメッセージが感じられるのである。

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