祝日法が改正!? 手帳の暦はどう変わる

民主党が議論を進める祝日法改正案。手帳業界はこの祝日法改正の実施をどう見ているのだろうか? また実際にどのように対応する予定なのだろうか。クオバディス・ジャパンと日本能率協会マネジメントセンターに話を聞いた。

» 2010年06月16日 15時30分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]

 2009年の衆議院選挙で民主党の大勝によって果たされた政権交代。翌2010年2月に話題になったのが同党による休日法改正案である。これが実施されれば、手帳の暦も大きな影響を受けるはず。今回は、休日法改正が手帳に与える影響について考えてみたい。

そもそも暦とは絶対的なものではない

 手帳とは暦に予定の記入欄を組み合わせたものだ。そして暦は、人間の行動をもっとも基本的な部分で規定しているものである。休日としての日曜日はその典型だ。そもそも月が1月から12月までであることや、各月がそれぞれが何日なのかも暦に規定されている。

 暦は客観的かつ絶対の尺度のように思えるが、実はそうではない。暦の変更は、しばしば為政者の統治の意思のあらわれでもある。例えば、16世紀にユリウス暦を改訂しグレゴリオ暦を採用したときがそうだ。ローマのカエサルが紀元前46年に定めたユリウス暦は、長年の利用によってずれが生じていた。1年を365.25日とするこの暦の1年では、16世紀には実際の年と10日もずれていたのである。

 1575年に暦法改革を命じた教皇グレゴリオ13世は、宗教改革によって弱体化した教会を立て直そうという意図を持っていた。社会の1年と太陽の運行による1年のずれを修正するとともに、暦を司るのが教会であることを明らかにすることで、教会の影響力を再確認させるという狙いがあった。

 その後、グレゴリオ暦は、カトリック教国を中心に広まり、現在に至るまで欧米や日本で使われている。

 やや話が大きくなったが、民主党の祝日法改正案は休日を変更するだけかもしれないが、休日という暦の変更にほかならない。為政者による暦の変更という例に当たるわけだ。

 つまり、政権交代の結果として暦の根幹ではないにしろ、休日・祝日のあり方を見直すことで、為政者の意志(≒政策)をそこに反映させるためという性格が見て取れるのだ。

祝日法改正案の要点

 さて、祝日法改正案の要点を整理すると次のようになる。

  • 地域ごとの大型連休の分散化。繁忙期を分散し、需要をならす。
  • 憲法記念日などの記念日は基本的に変えない。
  • 地方によって連休取得の時期をばらばらにする。「●●地方は5月第2週に取得」などとし、その期間は官公庁、公立学校が休みになる。国内を4〜6ブロックに分割する案を検討。
  • 対象は5月と10月の大型連休。
  • 政府の観光立国推進本部(本部長・前原誠司国土交通相※当時)が、「休暇分散化ワーキングチーム(WT)」(座長・辻元清美国土交通副大臣※当時)を設置して検討している。平成23年度(2011年度)の実施を目指す。
  • その目的は、連休時期における、各種交通機関(高速道路、鉄道)の混雑を緩和し、観光需要を喚起。同時に繁忙期と閑散期をならすことで内需を拡大し、雇用を創出することを狙う。

 詳細は、観光庁のWebページに休暇分散化ワーキングチームによる説明があるので、興味のある人は確認してみてほしい。

休日表記がばらばらになる?

 この祝日法の影響をもっとも受ける業界の1つが、手帳・カレンダー業界。地域によって休日が変わることには印刷物は対応しにくいからだ。また、多くのメーカーで休日への対応はほぼ1年前から行われており、急な法改正に対応しにくい。

 これが例えばiPhoneや一部のケータイならば、あまり問題はない。GPS情報をもとにそこ(機器の持ち主がいる場所)の休日を逐次変更することはできるだろう。Googleカレンダーなどもそれに近いことはできそうだ。PCのユーザーが複数地域の休日設定から、自分が住む住所のデータを選択・表示させることはできる。

 では、手帳業界はこの祝日法改正の実施をどう見ているのだろうか? また実際にどのように対応する予定なのだろうか。

 今回はクオバディス・ジャパンと日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の2社に話を聞いた。

 まず、クオバディス・ジャパンだ。フランスに本拠地を持つこのメーカーの手帳は、日本向けのものもすべてフランスで製造印刷している。フランスでは、地域ごとに休日の分散がすでに行われており、日本で手帳を販売しているメーカーのうち、この種の事例をすでに経験している数少ないメーカーだといえる。実際、本国のクオバディス・ダイアリーには、地域ごとの休日一覧のページがある。

 クオバディス・ジャパンの桐山章氏(セールス&マーケティンググループ)は、「仮に日本でも同じような制度になった場合、そのページ構成を元に日本用にレイアウトなどを考えていく形になるのではないでしょうか。今後、急に制度が変わった場合は、休日シールを付属として付けるなどで対応することになりそうです」という。

 また、仮にそのような事態になっても「日本語併記の全てのクオバディスダイアリーには以前より『Revisions in Japanese law may change holidays』(日本の法改訂により祝日の変更の可能性があります)と記載している」とし、ユーザーに対しても理解を求めているという。ただし「いずれにせよ法改正後の対応になります」(同氏)とのことだ。

 国内手帳市場のシェア1位であるJMAMは、「基本的には全国カレンダー出版協同組合連合会による祝日法の見解に歩調を合わせている」(同社経営企画室広報担当の矢野真弓氏)という。

 ただし、祝日法の動向そのものについては静観。というのも観光庁(およびその上位にある国土交通省)の方針に対し、経済産業省が経済活動に混乱を来すという理由から反対の立場をとっていることを鑑みてのことだ。また、近しい国会議員からの情報として、祝日法改正が実施される時期はどんなに早くても再来年だという判断があるからだという。

 当然ながら、手帳の休日表示を実際にどうするかについては検討中という立場にとどまっている。

 祝日法改正の問題は、手帳の構成に大きな影響を与える可能性がある一方、普遍的な価値を持つかに見える暦というものが、実は為政者の恣意に左右される不安定なものであることを示唆していると言える。

 そして、民主主義国家における為政者とは、選挙による国民の選択の結果でもある。選挙の結果は手帳の休日表記にも影響するのである。

著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)

 アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。


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