「何から教えていいか分からない」ときにするべきことプロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術

新入社員が配属された、新しいバイトを雇った、そんなときに「仕事を教えよう」とすると、教えるべきことが多すぎて「どこから教えていいか分からない」という状態になってしまうことがあります。そんなときにはどうするべきでしょうか?

» 2010年05月25日 08時43分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]

 あれは今から10年以上前のこと。その時わたしの部署に配属されてきた新人を前に、わたしはボーゼンと立ちつくしていました。いったい何が起きていたのかというと、

困った……どこから教えればいいんだ?

 と、悩んでいたわけです。新しく配属された新人君に仕事をさせなければいけないのですが、当然そのためには「仕事を教える」必要があります。

開米 じゃ、これなんだけど、Bを使ってAをやってほしいのね。

新人君 Bって何ですか?

開米 「え、知らないの? そっか、えーとね、Bっていうのは、CとDの機能を持ったツールで……。

新人君 ……(ぽかーん)。

開米 ん? どうかした?

新人君 その……CもDも分からないんですけど

開米 え……っ、マジ?

 と、そこでわたしはボーゼンと立ちつくしてしまったわけです。

 AをするためにはBの知識が必要で、BにはCとDの知識が必要で……というぐあいで、この「知識の連鎖」は延々と続きます。いったい、Aの仕事をさせるためにどこまでさかのぼって教えればいいのでしょう?

 CもDも知らないとなったら、下手するとさらにEやFあるいはその前からやらなければならない可能性があります。そこまでいちいち教えていたら何時間があっても足りません。

 だからといって、教えないと仕事はできないわけです。どうする? いったいどこから教えればAの仕事をさせられるのか? 正直言ってお手上げ状態になってしまっていました。こんなシチュエーション、身に覚えのある方は多いはずです。どうすればよいでしょうか?

「用語」を書き出してランク付けしよう

 この問題、率直に言いますが、魔法のような解決策はありません。地道にコツコツと努力を積み重ねるしかないのですが、その「地道な努力」の1つとしてオススメできるのが、

  • 「用語」を書き出してランク付けする

 という方法です。「用語」というのはそのままの意味です。どんな仕事にもそれぞれ特有の用語がありますよね? IT業界用語、法律用語、マーケティング用語のように、特定の領域には特定の用語がワンセットで必要になるものです。

 ですから、Aの仕事をさせたいなら、その仕事に必要な知識を教えるときに登場する用語をまず書き出してください。

 「Aの仕事」といっても、初めて配属された新人にやらせるような仕事であればかなり狭い範囲の仕事のはずです。「プログラマーの仕事」では範囲が広すぎて、「必要な用語をすべて書き出す」なんてことは不可能ですが、例えば「C言語を使って、ある特定の機能モジュールを作る」というように「仕事」の範囲を限定してあれば、「用語の書き出し」はある程度可能です。

 そうして用語を書き出したら、次はそこにランク付けをします。そのランクとは、

  • 相手が正しく理解していそうな度合いランク

 です。わたしと新人君の会話にこんなシーンがありました。

開米 Bっていうのは、CとDの機能を持ったツールで……。

新人君 その……CもDも分からないんですけど。

 Bについて説明しようとして持ち出したCとDもまた新人君に通じず、お手上げになってしまった場面ですが、知識を教えようとするときにはこういうケースがよく起こります。そしてこれは避けなければなりません。

 人は自分の知らないことが同時に2つ以上出てくると一気に混乱しやすくなるので、「相手の知らない用語を、知らない用語で説明する」ということをやってはいけないのです。そのために、教えようとする側が準備しておかなければならないことが3つあります。

  1. 必要な用語をすべてリストアップすること
  2. それらの用語間の相互依存性を把握すること
  3. 相手がそのうちのどれを知っていてどれを知らないかを把握すること

 以上3点です。「相互依存性の把握」というのは例えば図1のようなツリー状あるいはネットワーク状の図を書いて、関連する用語を把握することです。

 用語をリストアップして相互の依存性を把握してから、相手の知識レベルを推定して「相手が理解していそうな度合いランク」をつけると、どこから説明すべきかが見えてきます。これをやっていないと、昔のわたしがそうであったように、

ど、どこから教えてやればいいんだ?

 と、お手上げ状態になってしまうわけです。

 もう一度書きますがこれは地道な努力です。でもその地道な努力なしに、知識のギャップを埋めることはできません。遠回りのように見えても1つ1つクリアしていくのが結局は早道なのです。

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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』『図解 大人の「説明力!」』、『頭のいい「教え方」 すごいコツ!』


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