最先端技術を使う習慣があれば「先見」なんてなくても成功する堀江貴文に聞く【行動編】

携帯電話を使わないと意地になっていた人がいますが、携帯電話の普及が加速度的に進んだために、公衆電話はどんどん撤去されています。すると意地になってた人も否応なしに使わざるを得なくなる。使ってみて初めて便利さに気付くわけですが、「だったら初めから使ってみればよかったのに」と思ってしまいます。

» 2010年05月14日 20時40分 公開
[堀江貴文,Business Media 誠]
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まな板の上の鯉、正論を吐く ホリエモン108のメッセージ

この連載は書籍『まな板の上の鯉、正論を吐く』から抜粋、再編集したものです。最高裁の判決を待つ身ながらも活発に発言を続ける彼の頭の中に去来する思い。「クビにしないように採るのも企業の責任」「僕の経験上、返済できる金利の上限は5%」「今の日本は国家が借金したお金でGDPを支えている」「核武装して周囲に摩擦を生むくらいなら今のままで十分」――。その一部をご紹介します。堀江流思考のストレッチをお楽しみください。


新しい「便利」に敏感になることができた理由とは?

 僕が昔アルバイトをしていた会社が、デジタル製版システムをつくる会社だったので、そこで最先端の技術に触れられる機会があったのが大きいと思います。

 たとえ便利であっても、新しいものに乗り換えない人や企業は意外と多いものです。例えば、出版界においては、デジタル入稿のほうが、文書作成、受け渡しなどもろもろ便利なのは明らかなのに、稀に手書きで入稿する人を見かけます。手書き入稿だと、テキストデータに打ち直す作業が必要なので、その作業をする人の手間を考えると、手書きにこだわる人の考えは理解しがたい。携帯電話にしても普及が加速度的に進んだために、公衆電話はどんどん撤去されています。

 そうすると、それまで携帯電話を使わないと意地になっていた人も否応なしに使わざるを得なくなってくる。そこで初めて使ってみて便利さに気付くわけですが、「だったら初めから使ってみればよかったのに」と思ってしまいます。当然のように最先端の技術に触れ、実際に使うという環境、習慣があれば、「先見」なんてものがなくても、便利なものを先取りし、ビジネスに活かすことができるんです。

合理性や最適化を常に意識して行動するようになったきっかけは?

 もしかすると、「プログラマーの哲学」が働いているのかもしれません。プログラマーという人種は元来「怠け者」なんです。怠け者だからこそ、プログラミングをしていろんな作業を自動化しようとする。

 例えば、毎月ある種の統計作業があるとするならば、エクセルなどの面倒な作業をしなくても、たったひとつスクリプトを書いておくだけでその作業は済んでしまう。会社経営においても、プログラマーとしての気質が有利に働いていた、ということは言えるかもしれません。プログラマーをやっていると、コンピュータの中の世界だけでなく、世の中のシステムを最適化することにまで考え方が拡張していくのです。そういったものを最近では「ライフハック」と呼んで、いかに効率よく仕事を回せるかということを指していますが、僕の会社では業務の合理化、最適化のために「すべてのプロセスをまず疑え」と社員にいっていました。

 分かりやすいところでは、コピー機の最適化として、まずは裏紙を使う。また、社内資料はすべて白黒で済ませるといった身近なところから、契約上の規定でコピー機そのものを安くリースするところまでコストカットを考えました。これは会社の売上を上げるよりもコストを下げる方が利益率が上がるという原則に基づいています。当たり前だと思っているコストの中に意外と無駄なコストが含まれている。会社におけるライフハック――これは創業当初から一貫した考え方ですね。

事業を成功させた自分に、先見の明があったと思いますか?

 僕自身は先のことをあまり考えていませんでした。当時は受注をしてその仕事をこなすことしか頭にありませんでしたし、“何年後に会社がこれだけ成長する”というような計画も立てていなかったんです。また、そういった計画を立てることに意味があるとも思えません。皆さんの中には、僕が先見性を持って事業を発展させていった印象を持っている方がいるようですが、僕からすると、業界のマーケットが広がるか広がらないか、という未来を読むことはできない。「こうあったら便利だな」と思うことを推し進めてきただけなのです。

 例えばメールは、1996年当時、それを使っている人はまだ100人に1人くらいでした。しかし僕にとっては、当時からメールを使うことは当たり前だった。その当時考えていたことは「ケータイ電話でもメールが使えれば便利だな」ということです。ショートメッセージやポケベルはあったけれど、文字数が制限されていましたから。そして1999年にNTTドコモから「iモード」が発表され、メールは飛躍的に普及していき、100人いればほぼ100人が使うようになりました。何年後かにこれは必ず普及するという予想の下に使っているのではなく、僕にしてみれば、便利だから使っていただけです。

 ただ、すべてが普及しているとは限らない。普及しなかったもの、形を変えて普及したものなど、さまざまなケースがあります。例えば、僕が不思議に思っていることは、消費行動のひとつとして多くの人がインターネット通販をまだ十分使っていないこと。年々成長しているインターネットショッピングですが、日本の総流通量としてはまだ10%にも満たない。家電を買うことひとつをとっても、インターネットで買った方が家電量販店で買うよりも安く買えるし、持ち帰るときの手間もいらない。今は物流のネットワークも発達しているので一両日中に商品が届きます。

 ですからそれをあえて家電量販店で買う意味があるようには思えない。僕はもうすでにほとんどの商品をインターネットショッピングで購入しています。それを見たある人が「堀江さんはすごい。先見性があるよね」と言いますが、僕にとってみれば、その時々で最適化された行動を取っているにすぎません。

著者紹介:堀江貴文(ほりえ・たかふみ)

 1972年、福岡県生まれ。1991年、東京大学教養学部文科三類入学。1996年、東京大学在学中に資本金600万円で「有限会社オン・ザ・エッヂ」を設立。2002年、経営破綻した旧ライブドアから営業権を取得し、2004年、「株式会社ライブドア」に社名変更。同年6月、経営難に陥っていた大阪近鉄バファローズ(現・オリックスバファローズ)の買収を申し出たことにより、ライブドアとホリエモンの名前は一躍全国区に。2005年2月、ライブドアがニッポン放送の株主となり、フジテレビとの間でニッポン放送の経営権争奪戦が起こるが、4月には両者で和解。フジテレビはライブドアから1400億円でニッポン放送株を買い取った。2005年8月、広島六区から衆議院選挙に出馬し、亀井静香と一騎打ちになるも落選。2006年1月、証券取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕・起訴される。2007年3月、東京地裁で2年6カ月の実刑判決を受け、即日控訴。2008年7月、東京高裁は控訴を棄却。即日上告し、現在最高裁判決を待つ。現在、ロケット開発を手がけるSNS株式会社のファウンダー。


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