「飛行船=パビリオン」計画、挫折した日本人と実現したフランス人の話樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

1975年に開かれた沖縄海洋博。三井グループのパビリオンとして、飛行船をパビリオンとして利用するプランを提案したのだった。

» 2010年04月28日 21時02分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 1971年、わたしは三井物産に入社した。所属は電気機械部通信機課だった。

 当時、わたしは色々なことに関心を持っていた。その内の1つが1975年に開かれた沖縄国際海洋博覧会だった。三井物産は三井グループの会社としてパビリオンを出展しようとしていた。まさにパビリオンのコンセプトが決まる寸前、わたしはグループの海洋博覧会事務局に(まったく非力だったが)1つ提案したのだった。

巨大な飛行船をパビリオンに

 それは、巨大な飛行船をパビリオンにして、数百メートル上空まで来場客ごとパビリオン自体が上昇しいくというものだった。イメージはこうだ。飛行船はヘリウムで浮力を得ている。飛行船と地上とは、数本の太い鋼線で結ばれていて、このワイヤーを緩めたら上空に上昇したり、ワイヤーを巻けば地上に下降したりという仕組みである。

 高さは決めていなかったが、100人程度を高さ200メートル程度まで1度に運びたい。上昇して美しい海と海岸の風景を堪能して降りてくる。こんなユニークなパビリオンは絶対にないし、実現したら必ず大入り満員間違いないと確信した。だが事務局は冷たかった。「それ面白いですね」とまでは言ったが、「まあ、三井グループの総意としては、あまりにユニーク過ぎてちょっと実現は難しいかも……」とのことだった。

 それから数年後の1975年に沖縄国際海洋博覧会が開かれた。三井グループはパビリオンを出展したが、もちろん固定の建物である。その時には、すでにわたしは駐在員として海外に出た後で、アフリカのナイジェリアのラゴスに駐在していた。

実現したのは“熱気球の母国”

Aerophileの観光用バルーン。ワイヤーがうっすら見える

 実は、上空の飛行船と地上をワイヤーで結んで観光に使うコンセプトは実現している。フランスのAerophileという会社(設立1993年)が実現したのだ。25歳のフランス人技術者の2人組みが設立した会社である。1994年以来、同社はパリ、シンガポール、香港、ドバイなど20か所で、このワイヤー牽引式の観光用バルーンを開業した。米フロリダ州オーランドのディズニーランドでも導入しているとのこと。

 気球は飛び立つのは簡単。しかし、風任せになってしまうので、決まったところに着陸するのがとても難しい。それをワイヤーで固定することで、定位置で昇降し着陸できることが可能なる。また、天候が悪ければ途中で中止することも簡単である。Aerophileのバルーンでは水素よりも安全なヘリウムを浮揚ガスに採用し、熱気球のような火事の心配を減らして、観光用に使えるようにしたというわけだ。

 約30名の観光客を載せて、300メートルまで上昇する。アンコールワットの近くの都市シエンリエップにも開設している。気球や飛行船は、今建設中の「東京スカイツリー」などの建築物とは違った夢がある。

 フランス人の彼らに実現できて、こちらに実現できなかった理由を考えると2つの要因がありそうだ。まずフランスと言えば熱気球。モンゴルフィエ式の熱気球を発明し、世界初の有人飛行を行ったモンゴルフィエ兄弟が有名だ。気球に対しての情熱があったのだろう。

 一方我々は、多数の利害関係を持つ各社が集まった三井グループ。当然ながら、飛行船や気球の利用は危険だと受け取ったのだろう。当時は現在運航しているような宣伝用飛行船すら珍しい存在だった。戦前だが1937年には、ツェッペリン飛行船であるヒンデンブルク号が米国の飛行場で火災を起こし墜落した事件もあった。わたしも若かったので、革新的な提案は通らなかったのかもしれない。

 上海万博の今年、同じような提案をしたらどうだろうか――。

今回の教訓

 “飛行船パビリオン”の夢は、情熱で上昇し、利害関係で下降する――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら



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