インタビュー
» 2010年03月25日 13時15分 UPDATE

Amazon Kindle DTP:僕から出版社にお金を分配する未来――電子書籍出版秘話 (3/3)

[山口真弘,Business Media 誠]
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誠 Biz.ID それはいわゆる出版社さんに属する問題なのか、個人の編集者さんに属する問題なのか、どちらなんでしょう。

小沢氏 もちろん皆が皆そんなことをするわけじゃないです。ただ、一定確率でいますね。100人に1人とかじゃなくて、そういうブラックな人が感覚的には10人に2〜3人はいます。作り手と信頼関係を作れる編集じゃないと淘汰されていく気がしますね。というか、淘汰されると思って電子化を進めています。

誠 Biz.ID 現状では「もうオレは紙媒体はやめて、電子書籍一本でいくんだ」とはならないと思うんですが、今後電子書籍がある程度の売り上げを見込めるようになってきたら「じゃあどうなんだ」という話も当然ありますよね。

小沢氏 あります。じゃあ編集という職業が不要なのかというとそこはまた別の話で、作家と個人的に契約する編集、印税を案分するとか、そういう形で一緒に組んでやるよっていう。いま基本的に編集部に付いているわけですよね。いろいろ契約だったり正社員だったり、形態はいろいろですけれど、それが作家と組む形にだんだんスライドしていく気はします。

 マンガ編集者の機能というのは、一般誌の編集さんと違ってすごく幅広いんですよ。場合によってはほぼ原作者だったり、ネームという、いちばん最初のラフな下描きがあるんですが、そこまで編集が作る場合もあるんですね。かと思えばただ上がってきたものにセリフを貼るだけというのもあるし、そこは作家と編集の関係性によっていろいろだと思うんですよね。

 例えばその、スポーツものに詳しい編集さんとか、この作品にはこの人というふうに、いままでみたいな編集部中心じゃなくて作品中心でバンドのようにやるとか、そういうふうな感じでチームを作っていくというスタイルに変わっていく気はしますし、そうなっていくと面白いのかなという気はします。なので今の編集者のうち何割かは、原作者になっちゃうような気もしますね。名乗った方がいいんじゃないですか、という人もたくさんいるんで。

誠 Biz.ID イメージとしては、浦沢直樹さんと組まれている……。

小沢氏 長崎(尚志)さんですね。

誠 Biz.ID あの人にわりと近いのかなという。

小沢氏 そうですね。あの人たちの関係っていうのが、やっぱり5年後10年後のマンガ界の世界かなという気はします。あの2人はすごく強い信頼関係で作っていってるんですね。浦沢さんがどんな編集部に行こうとも、長崎さんがついてきて見てるというような。それは社内的に、会社人的には超法規的でありえない話かもしれませんけど、浦沢さんが描かれているマンガは面白いし売れてるし、結果を出してると。すべてがすべてそのやり方をやったら売れるわけじゃないでしょうけど、少なくとも浦沢さんの作品に関しては長崎さんとの信頼関係がベースにあったのは間違いないので、そういう意味では先の話でいうところの、編集部についてその権威で仕事をしようとしている人達はだめだろうなという気はしますね。

誠 Biz.ID 現状をお伺いしていると、竹熊さんのブログ(たけくまメモ)に書かれているようなことが現実になっているんだなと。

小沢氏 あのまんまですよ、ほんとに。

僕にAmazonからお金が入って、僕から出版社にお金を払う

誠 Biz.ID 今後の展開を聞きたいのですが、今回の「AOZORA Finder Rock」を例えば写植を直して海外に売ったりしないのでしょうか。

小沢氏 あ、今やってます。「誰か翻訳して」とブログで呼びかけたところけっこうな数のオファーをいただきまして、いま英語版とフランス語版とドイツ語版をやってます。

誠 Biz.ID 海外版が出るとなると、売り上げの数も変わってきますね。

小沢氏 そうですね、国内は正直実験でやってるんですが、日本のマンガを翻訳して海外に行った時に、実際買う人はどのくらいいるのかなと。こんどは売り上げ自体が実験になると思ってるんですね。日本語版に関しては出すこと自体が実験だったんですが、今度はそういうところを試してみようかなと思っています。

誠 Biz.ID 海外だとページをめくる向きの問題があると思いますが、そこはどうなるんでしょう。

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小沢氏 字だけ差し替えるつもりです。いまは海外でマンガを出す場合はほぼ日本と同じ開きになってるんですね。うちも何カ国かで出してもらってるんですが、ぜんぶ綴じは一緒です。日本のサブカルチャーに対してはオリジナルを尊重しろという話がいっぱいあって、最低限度の文字だけ置き換えるというスタイルが多いですね。いまは描き文字くらいのカタカナだったら読める人が増えてきているんで。

誠 Biz.ID なるほど。海外展開以外にはいかがですか。

小沢氏 次の段階として「出版社を通して(Kindle版を)出しませんか」と僕の方から出版社に持ちかけてます。その場合の印税率などを含め「相談しながら、やりましょう」という形で法務の人を交えて話をすすめています。

誠 Biz.ID それは小沢さんから出すということでしょうか。それとも出版社さんの名前で出すということでしょうか。

小沢氏 それも含めて相談しています。もしうちでやるとしたら、前代未聞の話なんですが、僕にAmazonからお金が入って、僕の方から出版社にお金を払うという、もしかするとそれこそ世界初みたいな、ヘンなお金の動きが発生する可能性はあります。

誠 Biz.ID もしそうなると出版社の存在価値って何? ってことになりますね。

小沢氏 竹熊さんが言っていた法務的な部分と、もう1つあり得るとしたら銀行的な役割というか、もっとプロデュース寄りの話が考えられますね。お金出します描かせます、そのへんの生活を保証します、例えば5000部分の印税は先に払います、仮に5000部行かなくてもそれは結構です、そのかわり5000部超えた場合にいくらください、というお金の動かし方をする組織というのは出てくるかなという気がしてるんですね。

 あと、どこかがお金を出さないと新人が育たないというのは非常に危惧しています。うちも今は出版社に損はさせない形のものは作ってる自負はあるのですが、デビューしたてのころというのは、当時モーニングでやってたバガボンドだったり、いろんな諸先輩のお金で食べさせてもらっていたので。そういう意味では、雑誌ってそれがいちばん面白いと思うんですよね。玉石混交で、その中からキラ星のように出てくる人は出てくるわけで。そういう形でお金が若い子にも回るシステムというのは、電子書籍の時代になってもやらなくちゃいけないと思います。

誠 Biz.ID 市場がシュリンクしていく中だとキビシイですね。電子書籍のコンテンツがちゃんと欲しい人に行き届くインフラができれば懸念も解消できると思いますが。

小沢氏 そうですね。ただ電子書籍は伸びていくところで、本当に数年かかるかかからないかだと思うので、あまりそこは悲観はしていないです。

誠 Biz.ID いまのうちに作品を描き貯めていくという考え方もあるんじゃないでしょうか。

小沢氏 あるでしょうね。ただそれ以前に、すでに貯まっちゃってる人が多いと思います。うちはいま買えない作品というのは全部で100ページちょっとくらい、読み切りだったり単行本未収録のものだったりと単行本1冊分もないんですが、それでもモーニング時代に出したマンガはいちど絶版になったものを幻冬舎さんに出し直してもらっていま買えるというだけで、たまたま運が良かっただけなんですね。なので、そこで出せてない作品を数千ページ持ってる方ってけっこういらっしゃるんですね。1冊200ページとして10巻分はあるという人は。

誠 Biz.ID 過去に単行本を出して絶版になったというものですね。

小沢氏 そうです。もう古本屋を丹念に回るしかない状況のものはたくさんあるので、まずはそこがいちばん簡単に動くのかなという気はします。ただ、それだけではほんとうに普及しない気もします。例えば手塚治虫全集とかって、家にあれだけの量を置ける人はなかなかいないじゃないですか。なのでそれこそ、表紙やカラーページだけ美術書並の印刷できっちりしたものを一冊作って、あとは電子書籍の権利と合わせて何万円という形であれば、簡単にできそうな気がします。

誠 Biz.ID ただ、それだけだと現状の読者の満足度を上げるのはできるんでしょうけど、市場拡大にはなかなかつながらないですね。

小沢氏 そうなんですね。拡大するのはやっぱり、おそらくAmazonだったりAppleが今の日本の出版社に求めている、紙媒体の発売と同時に新作を出すという、それでしか市場は拡大しないと思います。それまでは微増でしょうね。ただ、それはもうすぐなると思いますよ。もしくは電子書籍オリジナルで爆発的な何かが出るかですね。

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